第15話 傾注!
リサとのデートを終えたあと、スサノオはまた月月火水木金金の訓練を受けた。
またしてもシュミレーターの訓練だったが、今度は着艦訓練に加えて持久力を高めるためか、発艦後に自動操縦無しで長距離飛行を行い、戦闘を行った後に、再び母艦に戻り着艦すると言う訓練を連日行った。
まるで海自がいた世界のラバウル航空隊をなぞるかのような訓練だった。
ラバウル航空隊は、第二次大戦の時に日本海軍がパプアニューギニアのブリテン島で保持していた航空隊で、ガダルカナル島の戦いで航空支援をした部隊だ。
その戦いは、長距離飛行を行った後に空戦や空爆を行い、再び長距離飛行を行い基地に戻ると言う戦いで、搭乗員の体力を否応無く奪って行った。
そのためか、消耗が激しく、ただでさえミッドウェーの敗戦でベテランパイロットを多く失ったのに、日本機の防弾製の低さも相まって、この戦いでも多くのベテランパイロットを失った。
スサノオは、基地のライブラリーで読んだ本や、これまでの講習で知っていた事であったので、なんだか嫌な気分になった。
そんな訓練が7日連続して続き、その後、三日休みを貰えたが、ヘトヘトで動く気になれなかった。
リサとは休みが重ならなかったせいもあり、デートらしいデートは出来無かったが、通路で偶然出会ったふりをしたりして、なんとか会うように努力していた。
お陰で何とかリサ分を補充して、気力を保つことが出来た。
そして休みが終わり、今日からまた訓練が始まる。
先輩達から、こんなハードなスケジュールで訓練を行ったと言う話は聞いた事が無い。
むしろ先輩達もウンザリとした顔をしている。
そんな雰囲気が部隊に漂っている時、突然戦闘機のパイロット達が講堂に集められた。
各中隊毎にパイロット達が整列して並んだ。
隊員達は互いに雑談をしながら、最近の訓練の異常さ、急に集められた目的について話していたが誰も憶測以外の話は出て来ない。
やがて、講堂の舞台に副官が現れ、ついで指揮官が現れたので、雑談が止み、静かになった。
「戦闘飛行隊傾注!」
戦闘飛行隊副官の声がホールに響いた。
総勢36名のパイロット達が直立不動となり、壇上の隊長の方へ顔を向けた。
「飛行隊諸君!日頃の訓練、ご苦労だ。諸君らの弛まぬ訓練があってこそ、我々は公爵殿下へ貢献する事が出来、この世界で生き延びる事が出来ている。今後も引き続き宜しく頼む。」
はッ!と言う声がホールに響き渡る。
「本日諸君らに集まって貰ったのは他でもない、皆に知って貰いたい事があるのだ。」
集まったパイロット達は顔を見合わせた。
なんだろうか?
スサノオはアルベルトの顔を見たが、手を横に振って、知らない、知らないとアピールする。
「帝都が何やら騒がしくなりそうだ。きっかけはランハ子爵領で起きた反乱事件だ。ただのテロリストの事件では無い。かなり大掛かりな仕掛けが施されていた。恐らく何者かが現在の権力構造を変える為に起こした狼煙だ。大規模な政争が起きると上層部では見ている。」
隊員達がざわめいた。
政争?
何でそんな大事になると言うのだ?
スサノオは疑問に思った。
「知っての通り、公爵殿下は皇位継承権をお持ちだ。利用しようとする者が現れる事が予測される。ここは帝都から見れば辺境の浮遊島だが、無関係と言う訳には行かない。ただでさえ、我々騎士団の存在が疑われ始めている。下手な対応をしたら、軍勢が押し寄せて来るかも知れない。」
ホールが静まりかえった。
ここ数十年、戦闘らしい事は何も起きていない。
この世界に持ち込んだ技術を最大限に活用して情報収集を密にし、何とか事前に戦闘を回避していた。
ところが飛行隊長、タカサキ中佐はわざわざ全員を集め自ら説明を行なっている。
状況は切迫している可能性が高い。
スサノオは緊張した。
アルベルトを見ると、やはり緊張した顔つきをしている。
「知っての通り、我々の技術は、祖父や両親達のいた世界で言う核兵器に匹敵する代物だ。しかも、失礼かも知れないが、この世界の社会はそれを扱えるほど成熟していない。よって知られれば、非常に凄惨な事態と混乱を引き起こす。だからこそ命懸けで秘匿する必要がある。」
タカサキ中佐は並んだ隊員達の顔を見回した。
自分はこの者達の命を握っている。
死んで来いと言う命令を出す立場だ。
責任が重い。
そして今、実際にそのような状況が起きる可能性がある。
だからこそだ。
「だからこそ、我々は準備を進め無ければならない。矛盾した話だが、我々の技術で脅威に対処しなければならない。その為に、海将閣下は数年ぶりに飛空艦ショウカクを飛行させる事を決めた。公爵殿下も了承された。ただ飛ばすだけでは無い。本格的な戦闘訓練を実施する。諸君らにはその訓練に従事してもらう。以上だ。」
話が終わり、副官が大声で号令をかけた。
「戦闘飛行隊大隊長殿に敬礼!」
副官の声がホールに響き、全員が敬礼した。
その後を引き継ぐように、副官から訓練内容が説明された。
ホールでの説明を終えると、スサノオ達は飛行場地区のブリーフイングルームに飛行中隊毎に集められた。
1個中隊12機分、12名がそれぞれ3部屋に分かれて更に説明を受けた。
大尉が説明を始めた。
「まず諸君らには着艦訓練を受けてもらう。ここ最近飽きるくらいシュミレーターで訓練をして貰ったが、今回は実機での訓練だ。シュミレーターは実機とほぼ同じ状態で訓練出来るが、しかし実物を目の前にすると、その雰囲気、実感は違ったものになる。特に先日パイロットになったばかりの者にとっては初体験だ。飛空艦の大きさに圧倒されず、冷静でいるように。落ち着いて訓練通りに行えば大丈夫だ。いいな!」
はッ!と全員が返事をする。
そして出発時間、集合空域・時間、訓練空域、手順等が説明され、解散となった。
スサノオは出発時間までかなり余裕があったため、アルベルトを伴って喫茶店で軽く食事を取る事にした。
他の同期は別の中隊のせいか、出発時間が合わず、二人だけで行く事になった。
喫茶店に入り、席に座ると注文を取りにウェイトレスが来た。
「ミックスサンドとコーヒーをお願いします。」
「ホットドッグとコーヒー」
「じゃあ、私はショートケーキと紅茶で♪」
はいっ!?
二人は驚いて、横を見た。
いつの間にかリサが同じ席にいた。
ニッコリと笑っている。
悪戯が成功した時の顔だ。
「リサ?・・・・リ・リサ候補生?な・何故、ここに?」
「詳細は言えませんけど、私もこれから輸送機で出発するので、ここで時間を潰す事にしたのです。スサノオ少尉殿。」
「そ、それにしてもいつの間に?」
「あら。ジャングルよりは簡単でしたよ。」
そう言う物か?
訳がわからん。
気配を消して近づくなんて、リサはアサシンか?
スサノオはそう突っ込みたかった。
リサはテーブルに身を乗り出すと、小声で話し始めた。
「二人とも私を差し置いて食事だなんて、冷たいのよ!」
「仕方無いだろ!そもそもリサがここにいるって知らなかったし!」
「お兄様には、“明日飛行場エリアに行くかも“、って昨日話したよね?」
「時間まで聞いとらんぞ!」
「ああ、昼過ぎにはいるかもって言ってたくせに!」
「い、言ったか?そ、それに、今日は急な訓示でそれどころでは無かったのだ!」
小声でやり取りする。
が、アルベルトは汗ダラダラだ。
相変わらずのシスコンぶりだ。
「それとも・・・」
「それとも?」
「お兄様は、相変わらず私たち二人の仲を引き裂こうとしたからワザと言わなかったとか・・・・・?」
「へッ?」
アルベルトはスサノオを見て、リサを見て、それを交互に繰り返しキョロキョロした。
スサノオはまあまあと言おうとしたが、その瞬間、リサがパチンと指を鳴らした。
するとウェイトレス二人が近づき・・・実はアヤとナオだった・・・アルベルトの背後に立つと、がっしりと脇を抱えて持ち上げた。
「お客様〜。恋路の邪魔は大罪です・・・。席をお移り下さいね〜。」
「えッ、えッ、えええ〜ッ!?」
「ささ、こちらへどうぞ〜♪」
「何故だ〜。何故なんだ〜。」
アルベルトはそう叫びながら、外のテラス部分・・・エプロンに突き出ていて凄い騒音がする・・・に連行されて行ってしまった。
「二人っきりになれたね、少尉殿!」
「あ、ああ。でもいいのか?」
「いいから、いいから。で、これから訓練?」
「うん、そうだよ。また暫く会えないかも。」
「私も・・・なんか急に訓練が増えてるの。」
「えッ?騎士学校も?」
「もしかしたら、訓練期間が大幅に短くなるかもって言われたわ。下手したら、睡眠圧縮や思考加速で詰め込み訓練する可能性が大きいって言われたの。」
スサノオは絶句した。
騎士学校でもスパルタ教育?
ってもともとスパルタなのに更に上を行く?
睡眠圧縮や思考加速は一般には広まっていない。
思考加速は、脳への負担が大きく、睡眠圧縮も全ての疲労は取れないので、両方とも回復魔法とポーション・・・元の世界のリ◯Dやアリナ◯ンに魔力付与したようなやつ・・・と抱き合わせで行わないと、健康どころか命を失う危険性がある。
だいたい、訓練でそれを使うなんて今まで聞いた事が無い。
「何でか理由は説明された?」
「まだ、ちゃんとした説明は聞いて無いわ。でも真剣な顔で教官達は言っているから、近いうちに・・・いいえ、もう始めるのかも。」
まだ候補生レベルだと訓示で言われたような説明はされないようだ。
それにしてもそこまでするか?
一体、騎士団長、いや父は何を考えているのだ?
「また暫く辛くて長い訓練になると思うの・・・だから・・・・」
リサはスサノオの顔をその紅い瞳の相貌でじっと見た。
スサノオもジッと見返すと少し周りを見た。
そして、顔を近づけ、唇を重ねた。
お互い時間が止まったようになった。
いつまでもこうしていたい。
しかし・・・。
二人はそっと離れた。
そしてお互い見つめ合いながら手を握った。
「あの・・・お食事をお持ちいたしました。」
ウェイトレスの姿をしたアヤが食事を持って来た。
「食べようか?」
「うん♪」
その頃、テラスでは、・・・・・。
「な、何をするんだ〜。」
「まあ、まあ、少尉殿。私たちもお話ししませんか?」
何故かアルベルトは椅子にロープでグルグル巻きに縛りつけられていた。
「そんなに妹君が好きなんですか?」
「いや、まあ、そりゃ、その・・・・・。」
「では、他の女性には全く興味はないのですか?」
「そ、そんな事はないぞ。たぶん・・・」
「たぶん?」
「ある!あるに決まっている!そこまで道は外していないぞ!」
「じゃあ、もし、今ここで、昔助けた事があるかわいい子が現れたらどうします?」
「な、何を言って・・・。」
そう言ってアルベルトはナオの顔をマジマジと見た。
金髪で髪はショート気味。
ボブでは無いけど、それなりに整えられている。
そして青い瞳・・・。
あれ?
この顔、この瞳どっかで・・・。
どこだっけ?
「やっぱり忘れているのね。でも・・・でも、私の気持ちは変わらないんだから!」
そう言ってナオはアルベルトに跨ると、強引に唇を重ねた!
食事を終え、リサ分を補充したスサノオは元気に駐機場へ向かった。
その後ろをアルベルトがトボトボと歩く。
心ここにあらずと言った感じだ。
「スサノオ〜。スサノオしょーい〜。」
「な、何か?アルベルト少尉?」
「リサを・・・リサを・・・・」
「?」
「大事にしてやってくれ・・・」
「も、もちろん、そのつもりだけど・・・」
「うん・・・頼んだ・・・」
アルベルトの様子が凄く変だ。
いつもだと嫉妬すると首を絞めて来るのだが・・・。
今日はそれが無い。
キスを見られたのか?
それにしても、様子が変だ。
気合いを入れ無いとやばいかも。
飛行前の迷いは命に直結する。
訓練でそう習った。
「アルベルト少尉!」
「はい?」
情け無い顔でアルベルトが返事をした。
が、突然ぶん殴られ、吹っ飛んだ。
「な、何をするんだ!スサノオ!」
「飛行前だぞ!命がかかっているんだ!忘れるな!つまらないミスをして命を落としたらどうするんだよ!リサだけで無く、いろんな人が悲しむぞ!」
アルベルトは地面に尻餅をつきながら、ジッとスサノオを見た。
そして頬を摩りながら、ゆっくりと立った。
「す、すまん。」
そう言って、両手で顔を叩き言った。
「悪かった。もう大丈夫だ。気合い入れて行こう。遊びじゃ無いんだ。すまなかった。」
そう言ってアルベルトは引き締まった表情になった。
「殴ってすまなかった。行こう。着艦訓練だ。ミスったらあの世行きだ。慎重に、訓練通りにやろう。」
「ああ!」
そう言って、二人は駐機場に向かい、ドラゴンファイターに搭乗した。
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