第13話 空に描かれたハート
「スサノオ少尉!」
「はッ!」
「アルベルト少尉!」
「はッ!」
「二人は本日ヒトマルサンマルに、ドラゴンファイターに搭乗。そのまま訓練島に向かい、指示された目標を爆撃しろ!」
「「はッ!ヒトマルサンマルに、ドラゴンファイターに搭乗。そのまま訓練島に向かい、指示された目標を爆撃します!」」
スサノオとアルベルトは上官から爆撃命令を受けた。
少尉になった途端、何故か実機訓練が増えた。
以前は情報を秘匿する事を優先し、訓練の殆どがシュミレーターであったが、今は殆どが実機訓練だ。
更に今まではドッグファイトの訓練がメインだったが、今日は爆撃訓練だ。
詳しいことはわからない。
取り敢えず、命令された事を確実にこなす。
それが軍人だと教えられた。
もっとも・・・自衛隊って軍隊って呼んじゃ行けないのでは無かったっけ?
良いのか。
今は騎士団って呼ばれているんだし。
と、スサノオは自分で自分に突っ込む。
命令を受け取ると、スサノオは早速地下秘密基地の飛行場地区に向かった。
飛行場と言いつつ、ここは広いトンネルが縦横に走っており、滑走路も直径150メートル程あるトンネルとなっていた。
トンネルの出入り口は存在を秘匿する為に、音遮断や認識阻害の結界魔法が幾重にもかけれている。
飛行機はこのトンネルの出入り口から離着陸できるようになっているが、地球にあったような超大型機は無理で、せいぜいC-130クラスの輸送機しか運用出来ない。
スサノオは通路用のトンネルを進み、掩体壕のようなところに駐機されている機体に向かった。
そして機体の周りを回り、フライト前チェックを済ませると、コクピットの外側にかけられたラダーを登り、コクピットに収まった。
整備員の助けを借りて、シートベルトやその他諸々の機器を確認し、ヘルメットを被る。
整備員が機体から降りてラダーを外した。
機首の先にいた整備員が手を肩の位置に持って行きグルグルと回転させ始める。
右のエンジンが始動した。
ついで左のエンジンが始動する。
キーンと言う金属音が上がっていく。
スサノオは操縦桿やペダルを動かして前方を見た。
整備員が親指を立て動翼に問題は無いと伝える。
そして、機体の下に潜っていた整備員が車止めを外し、出発準備が完了した。
「タワー。こちらロメオ・ワン。発進準備完了。」
「ロメオ・ワン。こちらタワー。発進準備完了、了解した。エコー・スリーからチャーリー・ワンに向かい、ランウェイスリースリーへ向かいホールド。」
「こちらロメオ・ワン。エコー・スリーからチャーリー・ワンに向かい、ランウェイスリースリーへ向かいホールドする。」
整備員が右手を伸ばし、進行方向を指示する。
スサノオはスロットルを少し押してエンジンを上げ、機体を前進させた。
左に曲がりつつ、スサノオは軽く敬礼をする。
そして指定された順路で誘導路のトンネルを進み、滑走路へ向かった。
滑走路に向かうと、僚機となる機体が後ろから付いて来た。
アルベルトだ。
「デルタ・ワン。準備はどうだ?」
「ロメオ・ワン。完璧だ。」
「引き離されるなよ。」
「言ってろ!」
そう言いながら2機は同時に滑走路へ入った。
「こちらタワー。ロメオ・ワン。ファイナル・チェックしたい。ステレスモードは入っているか?」
「こちらロメオ・ワン。ステレスモードを確認した。オンになっている。」
「デルタ・ワン。そちらはどうだ?」
「タワー。こちらデルタ・ワン。ステレスモード確認した。オンになっている。」
「ロメオ・ワン。デルタ・ワン。両機に伝える。識別信号をグリーンにセットしろ。」
「ロメオ・ワン。識別信号をグリーンにセット。」
「デルタ・ワン。こちらも識別信号をグリーンにセットした。」
「ロメオ・ワン、デルタ・ワン、識別信号セット了解した。ウインド298、アット15。離陸後、7000で方位270へ向かい、そこで119.7にてコマンダーの指示に従え。」
「アルファ・ワン。了解した。7000で方位270。119.7にて指示を仰ぐ。」
「デルタ・ワン。了解した。7000で方位270。119.7の指示に従う。」
「ロメオ・ワン、デルタ・ワン。クリア・フォー・テイクオフ。」
「ロメオ・ワン。クリア・フォー・テイクオフ。」
「デルタ・ワン。クリア・フォー・テイクオフ。」
そう言ってスサノオとアルベルトは自機のエンジンを上げた。
金属音が上がり、ゴーと言う音がなり空気が大きく振動した。
「デルタ・ワン。カウントするぞ。」
「ロメオ・ワン。了解した。」
「5・・・・4・・・・3・・・・2・・・・1・・・・今!」
その瞬間、2機はブレーキをリリースし、アフターバーナーを点火した。
機体がどんどん加速して行く。
100、120、150、170!
あっという間に速度が上がる。
トンネル内であるため、通常の飛行機のように上昇すれば大事故になる。
スサノオは機首を上げず、そのまま機体を水平に保ったまま、ギアを上げた。
同時にアルベルトの機体もギアを上げる。
機首が上がらないように気をつけながら姿勢を水平に保ち、220ノットとなったところで二機は長い滑走路のトンネルを出た。
その頃、リサはやっと地獄の訓練が終わりに近づいていた。
泥沼のジャングルを這いずり回り、銃を撃ち、教官相手に組み手の格闘をして殴られたり、投げられたり、散々な目に遭っていた。
他領で行っている筈の綺麗で優雅な剣術の稽古とか一切無い。
文字通り、泥まみれになって、泥臭い戦いを体に染み込ませていた。
泣き虫だったアヤはいつのまにか強くなっていて、ナオは頼もしいリーダーになっていた。
他の面々も騎士学校入校当初とは全く違う顔つきになっていた。
当初はお風呂に入りたーい、シャワーを浴びたーいと散々愚痴っていたメンバーだが、もはや誰もそんな事を言わなくなった。
ファッション?
おしゃれ?
なにそれ?
美味しいの?
もはや訓練を乗り切って生き残る事が最優先で、女の子として当然持つべき興味は、全く失せてしまった。
髪が泥だらけ?
だから何?
お風呂に3週間入って無い?
何か問題でも?
体臭が凄い?
別に気にならないけど?
もはや女の子では無くなってしまった。
訓練がもう少しで終了となるある日、曹長がリサ達に言った。
「ビッチども!喜べ!今日はお前達にサーカスを見せてやる。本当のサーカスだ。だが、領民の誰にも見た事を言うな!これは騎士団の最高機密だ!そのうちお前らビッチも関わる事になる機密だ!よーく見ておけ!」
そう言うと曹長はジャングルでは無く、見張り台のような櫓にリサ達を連れて行った。
丁度その頃、スサノオ達は離陸後の司令の指示で訓練島に向かった。
操縦桿を握りしめて、スサノオは思った。
リサ達はまだ訓練してるよな・・・。
どうしているかな・・・。
リサの事だから泣きはしないだろうけど、結構辛いだろうな。
そんな考えが分かったのか、僚機が隣に並んで手で何か伝えて来ている。
伝え終えるとアルベルトはニカッとした。
スサノオは親指を立てる。
スサノオとアルベルトは以前、騎士団のライブラリーでブルーインパルスの動画を見た。
パイロットの卵として、そのマニューバに憧れ、いつか自分達もやって見たいと、良くシュミレーターでコッソリと練習していた。
今回はそれをやろうと言うのだ。
スサノオ達が乗る機体には液体水素が積まれている。
水素は分子が小さいので貯蔵が難しい。
そして液体水素は絶対0度に近く、更に沸点も他の液体に比べて低いのですぐに気体になる。
よって保存するには、高度の断熱と、水素分子が逃げない特殊な容器がいる。
それを魔法陣と魔石と組み合わせる事で特殊な容器を作り、問題なく保存出来る様にした。
液体水素は魔力エンジンで圧力を高めた高温の空気に混ぜて大きな推進力にしているが欠点がある。
燃やす事で酸素と結合してモクモクと水蒸気を出してしまい、位置を特定されてしまうのだ。
この為、普段はステレスモードを入れ見えない様にしている。
しかし、今回は・・・・・。
訓練島が見えてきた。
スサノオは指示通りの爆撃を行う為、速度と高度を下げた。
水面上、高度300フイート。
以前、シュミレーターで逃げまくっていた時の高度よりは大分高いが、それでも水面スレスレである。
速度250で水面の上を翔る。
目標が見えてきた。
距離を置いて右側に櫓みたいなのがあり、人影が見える。
リサ達か?
スサノオは櫓を少し気にしながらも、親指で操縦桿のセレクトスイッチを爆撃にした。
バイザーにマーカーが出て来てターゲットをロックオンした。
距離があっという間に縮まる。
操縦桿のスイッチを押して、爆弾倉から爆弾を機外に吊り下げた。
リサは遠くから爆音が聴こえて来たので振り返った。
青く塗られた鳥のようなドラゴンのような物が信じられない速度で迫ってきた。
瞬時に飛行機だと言うのは理解したが、初めて見るし、こんなに早いものだとは知らなかった。
スサノオ達は、司令の指示でステレスモードを島の結界に入ったと同時に切っていた。
それはリサ達訓練生に飛行機とは、戦闘機とはどう言うものか、肌で感じさせる為だった。
近づいてくる戦闘機は早く、爆音は凄まじかった。
あっという間に上空を通り過ぎると、何かを落とした。
それはジャングルの手前に置かれた板に当たり、大爆発を起こした。
リサはその一部始終を目を丸くして見た。
一体、異世界の技術って!?
他の候補生達も度肝を抜かれたらしく、目を丸くして見ていた。
2機はそのまま通り過ぎるのかと思いきや、今度は左右にバラバラになり上昇し始めた。
「何やってんだあいつら?」
曹長が呟いた。
そう言っている間に2機はお互い交差するような機動を取り、実際に交差した。
交差後、今度は白い煙を吐きながら、旋回し始めた。
青い空に二筋の白い線が絵を描くようにして引かれて行く。
そしてお互い大きく旋回すると再び交差して、煙が消えた。
青い空に大きなハートマークが出来上がった。
リサはすぐに誰がその機体に乗っているか察した。
そして忘れていたものを急に思い出し、心が暖かくなった。
「あれはお前の知り合いか?」
曹長がリサに聞いた。
「ええ。そうです。」
リサはずっとその航跡を眺めていた。
「アルベルト。また怒られるな。」
「良いんじゃね?リサを元気づけられれば。」
それもそうだ。
そう思いながら、二人はステレスモードを入れ、帰途についた。
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