第6話 リサの選択

リサはスサノオを探す為に、騎士団の秘密の入口を見つけたと思って扉を開けた。

だがそこにあったのは不思議な小部屋で、何やら数字とか書いてあるボタンがあった。

それも騎士団専用の文字・・・リサが幼い頃に癇癪を起こして無理やり勉強する権利を勝ち取った文字が・・・。

リサはボタンに書かれたB1からB5と書かれたボタンを見た。

確かBは色々な意味を表すものだが、この場合は・・・・・。

リサは小部屋を見回す。

そして今まで習った事を総動員して思い出す。

確か元々の騎士団員がいた世界では「エレベーター」と言うのがあって・・・と言う事はこれは・・・。

そう思いだしてB1を押した。

スーッ、カチャン。

扉が閉まった。

リサは驚き、そして不安になった。

閉じ込められた?

そう思った瞬間、部屋が揺れた。

と言うより若干不気味な感覚があった。

えッ?

何が起こっているの?

そう思っていたのも束の間。

やがて部屋の動揺は落ち着き、何事もなかったように収まった。

チーン。

スーッ、カチャン。

扉が開いた。

扉の先には長い廊下があった。

見た事が無い明るい照明に照らされている。

驚いた。

やはりエレベーターであったのか。

仕組みは聞いた事がある。

それも無理矢理勉強する権利を勝ち取った結果ではあったのだが・・・。

いざ体験してみると非常に驚いた。

感覚としたら、扉が閉まって開いたと思ったら先程とは別の場所が現れたのだ。

まるで物語に出て来る空間転移魔法だ。

もっとも転移魔法は使える魔術師も魔法陣もこの世には存在しない夢幻と言うが。


廊下には人物が何人か立っていた。

皆、知っている顔だ。


「リサ・・・いつかはこうなると思っていたが・・・やはり来てしまったか・・・。」

「お兄様?何故ここに?」


ロードリー3世がそこには立っていた。

実はアルベルトから懇願された時、遂にこの時が来たと腹を決め、こうして地下まで降りて来たのだ。

長兄の隣にはサカイ騎士団長、スサノオの父が立っていた。


「姫様。ようこそ我が秘密基地へいらっしゃいました。」


実は騎士団長も息子から相談された時、長兄と同様、こうなると思っていた。

そして二人で連絡を取り合い、弟/息子達が降りて行った後、こうして地下まで降りて来てリサが入口を見つけるのを待っていた。


二人の後ろには、直立不動で、そして硬い表情をした騎士団訓練生がいた。


「スサノオ・・・アルベルトお兄様・・・」


二人はリサを見ず、黙って前を向いている。


「?????」

「サカイ訓練生!」

「はッ!」

「アルベルト訓練生!」

「はッ!」

「御令嬢を応接までご案内しろ。」

「「はッ。承知致しました!海将閣下!」」


二人揃って返事をする。

な、何これ?

リサに取っては今まで見た事がないやり取りだった。

閣下?

騎士団長の呼称が閣下?

カイショウって何?

聞いた事があるような・・・。


「姫様ご案内致します。どうぞこちらへ!」


アルベルトがそう言って行き先を手で差し示す。

スサノオは綺麗な回れ右をして先導する。

お、お兄様!?

それにスサノオ?

どう言う事?

立場も何もかも全く分からなくなってしまった。

何がどうなってるのよ〜。


スサノオは先導しながらリサをチラ見した。

そして思った。

ロードリー3世様も父もこうなる事を最初から予測していたのか?

という事は、今朝の出来事は・・・つまり遊ばれていたと言う事・・・。

アルベルトも同じ事を思ったらしい。

複雑な顔をしている。

あと、リサの顔。

多分、リサ本人は勝ち誇った顔で登場したかったのだろうが、父達が一枚上手だった。

そりゃ、貴族達の追及を上手く躱し、化かさないと行けない社会で生きている人達だ。

これくらいの事は簡単に予測がつくんだろうな・・・。

そんな事を考えていると、目的地に着いた。


「どうぞ。こちらです。」


ドアを開け、奥のソファーに座るよう促す。


「あ、ありがとう・・・・・。」


そう言ってリサは座ろうとしたが、


「ね、ねえ、スサノオ・・・」

「お飲み物をお持ちします・・・それから私共騎士は業務中の私語は固く禁じられているので、ご容赦ください。」


そう言うとスサノオは敬礼をして、部屋から退出した。

部屋には黒いフカフカの皮のソファーが向い合わせに二脚。

その間にはテーブル。

それに壁には絵?

いや、魔術画像?が何枚か掛けれていた。

その画像には、どれも水面を行く船が描かれていたが、この世界では見た事が無い物であった。


コンコンとノックする音がした。


「失礼します!」


スサノオが入って来た。

手にはお盆を持っていた。

お盆の上には、飲み物が入ったカップと砂糖とミルクがあり、お盆をテーブルにおくと、飲み物を置いた。


「殿下と閣下はあと少ししたら参ります。それまでお寛ぎください。」


スサノオはそう言うと、敬礼をして外へ出て行った。

キョトンとするリサ。

驚かすつもりで来たのに、逆に驚かされ過ぎて、来る前に抱いていた怒りはどこかへすっ飛んでしまった。

カップに入っている飲み物を見た。

紅茶だった。

取り敢えず、砂糖とミルクを入れ、一口啜った。


コンコン。

ドアが再びノックされた。


「失礼します!」


アルベルトの声がして再びドアが開いた。

アルベルトがドアを開け、その横に立ち直立不動となる。

すぐ後にスサノオが続きドアの外に直立不動で立つ。

続いて長兄が入って来て、その後にスサノオの父親が入って来た。

二人ともスサノオとアルベルトに軽く手で敬礼する。

スサノオとアルベルトも後に続き、二人が座ったソファーの後ろで、足をすこし肩幅に開き、手を後ろにして真っ直ぐ前を向いた。

リサはその姿に圧倒されてしまった。


「さて、我が妹よ。二人の様子を見てどう思った?」

「ええ、驚きました。まるで別人・・・・・・・・・別人?・・・・・・いえ別世界の人・・・・・・・・。」


リサは手を顎に当てて考え込んだ。


「・・・・・・もしかして・・・・・これが別世界の騎士の風習ですか?」

「惜しいですね姫様。そもそも我々の父達がいた世界にはもう騎士、我々の国では武士と言っていましたが、もう消滅した存在でした。」

「えッ?騎士がいない?ではどうやって国を、民を守るのですか?・・・・・・・いえ、待ってください・・・・・・国民軍?・・・・・・確かそのような存在があると習いました・・・その者達の風習ですか?」

「それも惜しいですね。我々の親がいた国は大きな戦いで大敗し、軍そのものも消滅して軍とは呼ばない軍事組織を作りました。」

「軍とは呼ばない軍事組織?????」

「そう。その名は自衛隊。我々の父達は海の自衛隊、海上自衛隊の隊員だったのです。」


聞いた事があるような・・・もしかして壁にかかっている魔術画像は・・・。


「そこの壁に掛かっている“絵”の船がそうなのですか?」

「ええ。そうです。一つ言わせていただければ、それは絵ではありません。写真と言う光と薬品を使ったもので写したものです。似たような物は宮殿で魔術道具として提供させていだいています。」


こうだと思った事がそうでは無く、別な物だと教えられる。

今まで勉強して来たことは何だったのか。

実際に見て経験しなければ全く繋がらない。

自分の認識の甘さをリサは痛感した。


「さてリサよ。其方はこうして我が公爵領の秘密を知ってしまった。殿下と世とそこのアルベルト訓練生しか公爵家で知るものはいない。既に他の弟妹達には騎士団は公爵領を命懸けで守ってくれるが、彼らはよその世界から来ていて、彼らの技術は扱いを間違えればこの世界を大きく害してしまう恐れがあると教えている。なので宮殿で使っている物の事以外、殆ど教えていない。それは今後の安全を考えての事だ。本人達にも説明して納得してもらっている。」


リサは頷いた。


「ただし、アルベルトは世に万が一の事があった時に備えて、更に海将閣下の御子息がちょうど同い歳で仲が良かったので騎士団に入れた。」


リサはアルベルトを見た。

相変わらず前をジッと見ている。

人形のようだ。


「最初の話に戻ろう。其方は以前から色々な事に興味を持ち、いつも騒ぎを起こし、そこの二人を困らせておった。そして今日、我が公爵領の秘密を見つけてしまった。殿下も母上も、其方の実の母もこうなると予測しておった。なので、事前に話をして対策を決めておいた。」


そう言って、ロードリー3世は息を大きく吸って言った。


「其方には、二つの選択肢がある。一つはこのまま宮殿に戻る。そして塔へ軟禁され、一生外には出られ無くなる。それはこの公爵領、そしてこの世界に余計な争い事を作らぬためだ。」


リサは唾を飲み込んだ。

自分は幼い頃から悪戯のように騒ぎを起こし続けたが、今回ばかりは洒落にならない事態となった。

後ろに立っているスサノオやアルベルト、それに壁に掛かっている“写真”、先程のエレベーター、明らかに我々の世界とは違うもの。

今まで断片的にしか教えれていない様だが、更にもっと凄い技術があるのかも知れない。

見てはいけない物を見てしまったのだ。

でも、もっと知りたいと思う気持ちも出てきた。


「もう一つの選択はなんですか?」

「もう一つは、ここでそこの二人と同じように学び、訓練を受け騎士団へ入団する事。ただし、其方は姫であるが故、他領に嫁がれてしまう危険性がある。」


そして長兄はある提案を示した。


その提案を聞き、即座に理解したリサは満面の笑みをたたえる。

それってつまり・・・そう、そう言う事よね!

なんだ!

最初っからそうしてくれればいいのに!

これで何の気兼ねも無く自由にできるじゃ無いの!


「もう答えは決まっているようですね。」


団長はニッコリして言った。


「ええ!二つ目でお願いします!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る