第3話 疑いの始まり

帝国上層部では以前から気になる事があった。

ロードリー公爵領の事だ。

帝都から定期的に各諸侯が治めている地に魔道士監察官を送っているのだが、以前ロードリー公爵領に送った監察官から妙な事を聞いた。

特定出来ない魔力を検知したと・・・。

特に大きくは無く、せいぜい飛竜数匹程度だが何処から出ているのか良く分からないと言う。

謎の現象という事でその時は放置されそのうち忘れ去られていたが、今度は帝都から赴いた商人、実は情報収集役も兼ねているのだが、一瞬の事だが、突然轟音が聞こえたと言うのだ。

不安に思った上層部は、皇帝の従兄弟筋に当たる公爵へ何か起こったのか問い合わせた。

返って来た答えは魔術師が間違って強力な風魔法を使ってしまったとの事だった。

何か言い訳がましい。

そもそもそんな轟音が出るほどの大魔術師がロードリーにいるとは聞いた事が無い。

そこで以前の魔道士監察官の報告が思い出され、何か起こっているのでは無いかと疑いの目が向けられるようになった。


何度か間者を送った。

しかし全く何も見つけることが出来ない。


それでもこの領地では他にも奇妙な事がある事が分かって来た。

まず、騎士学校の生徒は入学してから数年間、卒業するまで外出出来ず、外部との連絡も取る事が出来ない。

帝都の騎士学校にそんな規則は無い。

必ず休みがあり、検閲はあるものの、外部と手紙のやり取りはしようと思えば出来る。

更に妙なのは、騎士団の全員が世襲である事。

帝都の騎士団は身分こそ貴族だが、一代貴族でよっぽどの功績がない限り爵位を持つ世襲の貴族にはなれない。

もっと奇妙なのは、騎士団と公爵の距離が近すぎる事。

ロードリー公爵には領地持ちでは無いものの、家臣に男爵や子爵などの世襲貴族がいるのだが、騎士団はその者達と同等かそれ以上に重宝されている。

帝都では全くあり得ないことだ。


妙な魔力に奇妙な音、それに騎士団の存在。

一体彼の地で何が起きているのか?

元老院議長であり、侯爵でもあるサモンは他の貴族と共にこの件を話し、皇帝へ報告する事にした。

もしかしたら、ロードリー公爵は何かを独り占めしようとしているのでは無いかと。

明確な根拠は無い。

しかし何かを隠している可能性がある。

大々的な調査を行い、状況によっては武力による侵攻も考慮すべきと。


「それでは其方はロードリー公が謀叛を企てているとでも言うのか?」

「いえ陛下。そう申しているのではありません。ただ妙な事が多過ぎるので御座います。ここは調べてみるべきです。結論はその後にでも。」

「ふむ・・・。あの地は元々叔父上が前辺境伯の姫に惚れて行った土地だ。たまたま辺境伯の子が姫一人だけであったので、娶った後にそそのまま住み着いてしまった。体裁を整えるために公爵領となったが、特にこれと言った物はない土地だが・・・。」

「だからこそおかしいのです。これと言った特産物も無く、鉱山がある訳でも無く、ただ海産物と農業だけの島で何を隠す事があるのでしょうか?」


皇帝は目を瞑り、ジッと考えた。


「分かった。調べてみるが良い。ただし慎重にな。」

「承知致しました。御心のままに。」





「こちらジュリエット・ワン。10時の方向、距離約20マイルにバンデット。数4。これより排除に向かう。」

「ジュリエット・ワン。こちらオスカー。バンデットは方位150へ向けて飛行中。武装はブレスと予測される。他にも風魔法で乱流を流して来る可能性がある。十分注意しろ。」

「ジュリエット・ワン。了解した。距離を取り、ミサイルで落とす。シグマ・ワン、聞こえたか?」

「聞こえてるよスサノオ。すぐに落とそうぞ。」

「シグマ・ワン。速度をあげる。引き離されるな。」

「この距離でか?もっと上げるのか?」


スサノオは操縦桿を左にやや倒すと、スロットルレバーを押し加速した。

数秒遅れてゴーッと言う音がしてくる。

距離が10マイル(海里)に縮まる。

スサノオは操縦桿についてるスイッチでミサイルを選択する。

距離7マイル。


「ナンバー・ワン。発射!」


スサノオは操縦桿の引き金を引く。

ボシューッと言う音と共にミサイルが放たれる。

同時に僚機もミサイルを放った。

スサノオは操縦桿を強く左に傾けそして引いた。

視界は急激に傾き、水面が左側に見える。

僚機も同じようにして機体を90度に傾け旋回をしている。

急激に旋回はしたが、敵性飛行体とこちらの速度差があり過ぎた。

あっという間に飛竜に近づき、尾に触れる寸前、ギリギリ交わすような旋回となった。

自分の機体はギリギリだったが僚機は・・・尻尾に左翼が接触し、破片が飛んだ。


「シグマ・ワン!ヒットした!ヒットした!レフト・サブ・エンジンロスト!」


見ると僚機は機体が90度横倒しになりながら、ヨーイングして回転し始めた。


「メーデー、メーデー!こちらシグマ・ワン!アンコントロール!アン・コントロール!ベイルアウトする!」


ばん!と言う感じでキャノーピーが飛ばされ、やや遅れて、人が横向きになって飛ばされた。

直ぐにパラシュートが開くが今度は飛竜達がパイロットに向かって来た。


「う、うわー!来やがった!」


スサノオは操縦桿を一旦元に戻すと思い切り引き、インメルマンターンをした。

直ぐに操縦桿のスイッチでレールガンを選択し、急降下で飛龍に向け引き金を引き続けた。

殺したのは一匹。

先程僚機を尻尾で傷つけたやつだ。

もう一匹はこちらに向かって来て風魔法を使って襲って来た。

途端に機体が激しく上下する。

そしてすかさずブレスが放たれた。

ドカーンと言う音がして目の前が真っ黒になった。


「愛する妹よ・・・。愚かな兄を許してくれ〜。」


シグマ・ワンが変な事を言っている。

やばい。

やってしまった。


「若を死なせてしまいました〜。切腹ですかね〜?」

「アホな事言ってるなスサノオ!」


ヘッドホンから教官の怒鳴り声が聞こえる。

スサノオはヘッドマウントディスプレイを頭から取り、そして安全ベルトを外し操縦席を模した実物大の模型から降りた。

このシュミレーターはヘッドマウントディスプレイで仮想世界を見せ、魔法陣によって人工的にGを作り出す優れ物で、スサノオ達新人騎士の実戦訓練に使われていた。

僚機役のパイロットは既にシュミレーターから降りていた。

と言うよりも”ベイルアウト“により強制的に降ろされていた。


「えっと・・・その・・・若・・・。」


リサの兄、アルベルトはジッとスサノオを見た。

実は重度のシスコンだ。


「何だね・・・スサノオ君・・・?」

「生きていらっしゃいますか?」

「いいえ。飛竜に喰われてしまいました。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


フッとアルベルトが笑った。


「はーっ、はははは!そんな顔をするなスサノオ!世のミスじゃ!気にするな!我が妹の想い人よ!」


そう言ってスサノオの首に腕を回すと、ギリギリとキメ始めた。

若干どこでは無く、嫉妬がかなり含まれている。


「若!クビ!クビ!締まる!締まるーッ!」


そう言ってスサノオはアルベルトの腕をバンバン叩いた。

二人の関係は幼い頃からこんな感じだった。

もっとも騎士学校に入ってからは、流石に馴れ馴れしくするのは互いに不味いと思い、アルベルトは自身の事を”世“、スサノオはアルベルトの事を“若”と呼ぶようになった。

だが、リサと同様この兄も、スサノオが他人行儀な行動を取る事を心の中では許す事が出来なかった。

更に騎士団の幹部達はアルベルトを特別扱いせず、一騎士として公平に扱っていた。

このためスサノオとアルベルトは、上下があるのか無いのか良く分からない関係となり、結局はこのように良く戯れあっていた。

ただし、騎士団としての行動中以外は、流石にアルベルトは公爵家の男子として、またスサノオは騎士の身分として、きちんと互いに相応の応対をしている。

その前に、アルベルトが騎士団に所属している事実は公爵家と騎士団員以外は知らない事実であったので、騎士団内だったらタメ口でも良いのではと他の騎士達は思っていたのだが。


「あー、そこの戯れあっている二人。すぐに指導官のところに行くように。」


女性の声でスピーカーから二人への指示が流れた。

スサノオとアルベルトは戯れ合うのをやめて、互いに顔を見合わせた。


・・・・一時間後。

シュミレーター室の片隅で、先輩を背中に乗せてひーこらと腕立てをする二人の訓練生がいたと言う・・・。

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