第5話:確認(前)
昼休み、いつものように購買へ向かうため、新橋を伴い教室の出口へと向かう。
「今日もツナマヨのパンとおにぎりか、修一」
「いや、流石に飽きてきた。ツナマヨおにぎりは買うとして、パンは他のにする」
「それでもおにぎりはツナマヨなのな……ん?」
「どうした」
顔をしかめる新橋につられて、出口の方を見る。そこには確かに、やや奇妙な光景が展開されていた。
「はい、通ってよーし。あなたも、通ってよーし。キミもよーし」
若狭百恵が、出口の横に立っていた。通る人に一々声をかけて、訳の分からないことを言っている。ゲートキーパーのつもりだろうか、だとしたら普通出る人じゃなく入る人を見張るもんだと思う。
自然と歩くペースが落ちる。嫌な予感しかしない。
「修一、あっちのドアから出るか?」
「…………いや、いい。行こう」
新橋が我が親友らしく実に魅力的な提案をしてくれる。しかし、僕は少し考えそれを辞退した。若狭百恵の振る舞いは確かに不気味だ。だが、それを回避するためにわざわざ購買から遠回りになる方のドアを使う方が馬鹿馬鹿しいじゃないか。
奴など恐るるに足りぬ。その意思を、僕は行動で示す。毅然と前を向き、大きく一歩を踏み出した。
「はーい! はいはい君たち待った!」
あっさり止められた。
クソッッ!! 何なんだコイツ、僕に恨みでもあるのか!?
地団太を踏みそうになるのを抑えつつ、正面に立ちふさがった若狭百恵と対峙する。腕を組みながら僕と新橋を見下ろし値踏みするようなその視線、まさしく曲者を捉えた門番といった風体だ。
「ふーむなるほどなるほど」
「あの、若狭さん?」
困り顔を浮かべて、新橋が似非門番へと声をかける。それに対し奴は、ぐるりと視線を新橋へ向け、ニコっと実に朗らかな笑みを浮かべた。
「うん、新橋君は通っていいよ!」
「え?」
「でも小瀬君はダメ」
「は」
ハア?
何が起きているのか、若狭百恵が何を考えているのか全く分からず、ろくすっぽ声を上げることすらできやしない。
「ほら、通って新橋君。行った行った」
「え、ちょっ若狭さん。し、修一」
そうこうしている間に、若狭百恵に引っ張られ新橋が教室を追い出されて行ってしまう。助けを求めるような視線を向けられるが、どちらかというと助けてほしいのは僕の方だ。
やがて観念したのか、一気に押されるがままの勢いで廊下に飛び出た新橋は、ドア越しに大きく僕に呼びかけた。
「修一、先行ってるからなー!」
「あ、おい新橋!」
いや、待っててくれよ。言うより早く、新橋の気配は廊下の向こうへと消えて行ってしまった。
「さて、小瀬君……」
「な、何」
こちらへ振り向いた若狭百恵の表情を見て、僕はグッと警戒を強めた。先ほどまでの笑みはどこへやら、若狭百恵はなぜか緊張したように顔をこわばらせながら、僕と相対した。
そんな表情を見たのは初めてだ。
「お話したいんだ。いい、かな」
「……」
いや、購買に行きたいから無理。
そんなことは言い出せない雰囲気である。
まさか、今日こそが僕と奴の決着の日だとでも言うのだろうか。だとしたら、僕は何も準備していない。完全に出遅れてしまっている。
だからこそ、これからの若狭百恵の一挙手一投足すら見逃すまいと目を見広げた。視線を落ち着きなくうろうろさせながら、僕はゆっくりと頷いた。
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