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 私はピアノと共に世に生まれ、ピアノと共に死んでいく運命にある。

 この家に生まれた以上は、音楽こそが命。

 だからこそ、この奇病を発症した際は、私は直ちに死なねばならないとさえ思っていた。

 現に有名なピアニストの知人も、私と同じ奇病によって絶望し、自ら命を絶っていた。

 ピアニスト達はみな、この奇病を恐れていた。優秀な医者や学者に多大な支援をして、病の原因を突き止めようと躍起になったが、原因どころか治療法も分からずじまいのままだ。

 一つ分かっていることは、その奇病はピアニストに多く見られ、ピアノを弾けば弾くほどに症状は悪化するというものだった。

 最初は指の違和感から始まり、徐々に激しい痛みと関節部分が切れて出血していく。痛み止めや包帯をして、無理してでも弾いた者もいたそうだが、指が取れてしまったという。

 私が発症したとき、まさか自分がという気持ちもあって、ただの腱鞘炎ぐらいに構えていた。だが、一向に良くなる傾向もなく、血が鍵盤を汚すようになってからは、私の絶望は日毎に増えていた。

 医者から奇病である診断を告げられた時――私は病室を飛び出し、屋上に向かった。

 家族や医者に取り押さえられていなかったら、私は今ここにはいない。

 それからというもの、私はこうして部屋に閉じ込められ、トイレとお風呂以外は外に出ることは叶わなくなった。

 病なのだから仕方ない。家族は寛大な人間であった。

 顔を見せにこの屋敷を訪れることは少なくとも、私の世話をしてくれる人間を用意してくれている。それだけで私には、充分過ぎる程の家族の愛を感じることが出来た。

 ただ、使用人は私の奇行に耐えかねて、辞める人間も多かった。

 血が噴き出し、痛みを感じていても、私がピアノを弾く真似ごとを辞めないことが原因だった。

 もちろん、自分でも分かっている。無駄なあがきだということが。

 それでもどうにも落ち着かず、行き場を失った音符の群れが私の頭の中を駆け巡る様は、私の精神に牙を剥く。よって私の身体が自ずと、外に出そうとして指を動かすのであった。

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