2ー3

 中村とは連絡がつかなかったが、女子2人とは連絡がつき、15分後には全員が軽音サークルの部室に集合した。

 佐倉恵里は黒のライダースジャケットに赤いミニスカートというパンク風ファッションで、シャギーを入れた長い黒髪や、アイラインで囲われた切れ長の目がキツイ印象を与える。

 一方の神崎萌はふんわりとした白いワンピースにピンクのカーディガン、それにライトベージュの巻き髪というお人形のような格好をしている。また対照的な2人が揃ったものだ。


「本日はお集まりいただきありがとうございます」


 茉奈香が口を開いた。名探偵らしく、2人に向かって事件のあらましを説明する。


「先ほど、この軽音サークルの部室内で、井上君のギターケースからメイド服が発見されました。このメイド服は去年の学園祭の時、サークルの経費で購入したもので、昨日までは部室にしまわれていましたが、今日になって突然ギターケースから現れたのです。ギターケースは昨日の16時半頃に練習室にしまわれ、それ以降、井上君は手を触れていません。

 そこで練習室の鍵の貸出し名簿を調べたところ、あなた方2人と中村君が、昨日の16時半以降に練習室に出入りしていたことがわかりました。そこであたしは、あなた方3人のいずれかが、何らかの理由でメイド服を井上君のギターケースに隠したのではないかと考えたのですが……」


「は? メイド服? あんた何言ってんの?」


 ハスキーな声を上げたのは恵里だった。アイシャドウの濃い目で茉奈香を睨みつける。


「あんた、あたしが本気でそんな服着ると思ってんの? あたし、そういう甘くてフリフリで、いかにも女の子です! みたいな服大っキライだから」


「い、いやあたしは、あなたがメイド服を着たとは一言も……」


「どっちにしても、あたしはそんな服とは無関係だから」恵里が吐き捨てるように言った。

「……ったく、井上から『変な先輩に絡まれてるから助けてくれ!』って泣きつかれたから来てあげたけど、こんなバカバカしい話聞かされるんだったら来るんじゃなかった」


「で、では、あなたが事件当日、練習室の鍵を借りた後の行動について教えていただけますか?」茉奈香が気圧されながらも尋ねた。


「事件って……そんな大層なもんじゃないと思うけど」恵里が呆れ顔で言った。「普通に1時間くらい練習して、鍵返して帰って。それだけ」


「ずっと1人だったのですか?」


「うん、部屋行った時は誰もいなかったし、帰るまで誰も来なかった。……あぁ、でも」恵里がふと何かを思い出した顔になった。


「どうしました?」茉奈香が目ざとく尋ねた。


「いや、大したことじゃないんだけど……。あたしが帰ろうと思って、練習室で楽器片づけてる時に後輩が来たんだ。部室に用があったみたいで、鍵だけ持ってすぐに出てったけど」


「それは何時くらいのことでしたか?」


「5限終わった後だったから……たぶん18時くらいかな」


「あなたが帰る時、後輩はまだ部室にいたのですか?」


「うん。帰る前に部室によって、練習室の鍵いるかって聞いたけど、今日は楽器弾かないって言ってたから、練習室の鍵はそのままあたしが返したんだ」


「ふむ……となると、その後輩が練習室に入る機会はなかった。その人物は事件とは関係がなさそうですね」茉奈香が顎に手を当てた。


「だから事件って何なの? メイド服1枚で騒ぎすぎじゃない?」


 恵里が苛ついた顔で言ったが、茉奈香は思索に耽って聞いていなかった。


「でもぉー、萌は可愛いと思うなぁー、そのメイド服!」


 突然誰かが甲高い声を上げた。茉奈香が顔を上げると、萌が胸の前で手を組み、うっとりとした目でメイド服を見つめている。


「萌、フリルとかレースとかリボンとか大好きでぇ、メイド服も1回着てみたかったんだぁ。ね、萌だったら絶対似合うと思わない?」


「まぁ……確かにあなたには似合いそうですね」茉奈香が萌の服装や髪形を見ながら言った。「あなたはこのメイド服を着たわけではないのですか?」


「うん、違うよー。萌、部室にメイド服があるなんて知らなかったし。でも知ってたらすぐ着てたと思う!」萌がはしゃいだ声を上げた。


「あんたがそれ着たらバカっぽさが2割増しになりそうだね」恵里が肩を竦めた。


「何よー、エリちゃんたら失礼ねー。萌のどこらへんがバカっぽいって言うの?」萌が頬を膨らませた。


「そういう言動全般? 二言目には『やだー、萌わかんなーい』とか言うし。男受け狙ってるの丸わかりでウザいんだけど?」


「ふーんだ。エリちゃんてば、萌の方が男の子にモテるからって悔しいんでしょ! 男の子達みんな言ってるよ? エリちゃんは怖いって」


「別にどう思われようといいけど? 中身空っぽの男なんていくら侍らせたって虚しいだけだし」


「そういうのヒガミって言うんだよ? だいたいエリちゃんはさぁ……」


「……ちょっと! 喧嘩は止めてください!」


 収集がつかなくなりそうだったので、茉奈香が慌てて静止に入った。恵里と萌が互いにつんと顔を背ける。数少ない女子部員とはいえ、この2人は犬猿の仲のようだ。

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