2ー2
管理人は白髪の目立つ初老の男だった。茉奈香が名簿を見たいというと、理由を尋ねることもなくあっさりと見せてくれた。まさか名探偵が調査をしているとは夢にも思っていないらしく、傍らにあるテレビを見ながら呑気に茶を啜っている。
名簿を見ると、昨日の16時半以降に練習室の鍵を借りた部員は3名いた。
最初は『
それから約30分後の18時46分に、今度は『
昨日はそれ以降鍵を借りた部員はおらず、次の貸出しは今日の日付になっていた。『
「容疑者は女の子が2名、男の子が1名かぁ」
管理人室を出た後で由佳が呟いた。助手としての役割を果たすべく、さっそく手帳に関係者の行動をメモしている。
「これ、中村君については除外してもいいよね? 男の子があんな可愛い服着るとは思えないし」
「由佳君、先入観を持つのは禁物ですよ。」茉奈香が首を横に振った。
「世の中には色々なタイプの男性がいるものです。井上君のように、メイド服をこよなく愛する男性がいないとも限りません」
「だからあれは俺のじゃないですって! 人をヘンタイみたいに言わないでくださいよー!」井上が泣きそうな顔で叫んだ。
「……つーかさ、さっきから犯人とか容疑者とか言ってるけど、いったい何の容疑なんだ?」島田が明らかに困惑しながら言った。
「卒論盗んだならともかく、人のギターケースにメイド服隠して何の罪になるんだ?」
島田の突っ込みはもっともだった。茉奈香は少し考えた後、真面目くさった顔で言った。
「島田君、世の中にある不可解な出来事は、全て事件と呼んで差支えのないものです。部室からギターケースへと移動したメイド服の謎……。これを事件と呼ばずして何と呼びましょう?」
「……はぁ」島田が気のない返事をした。
「とにかく、今名簿に名前があった3人……佐倉さん、神崎さん、中村君、名付けて魚トリオから事情聴取を行いましょう。井上君、3人を呼び出してもらえますか?」
「は、はぁ、りょーかいっす」
茉奈香に命じられ、井上は訳がわからないままスマホを操作し始めた。由佳は手帳に魚の絵を描いている。山田と佐藤は顔を見合わせ、「魚トリオってネーミングセンス最悪だね」「本当に、僕達は変なトリオ組まされなくてよかったね」と囁き合っていた。
一人明後日の方を向いた島田は、背中に悲哀を漂わせながら、「……俺の卒論」と呟いた。
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