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なぜか全員とすぐに連絡がつき、15分後には野菜トリオが茉奈香の周りに集まっていた。小柄でおどおどとした山田、銀縁眼鏡をかけた神経質そうな佐藤、金髪を逆立てた飄々とした雰囲気の井上。全くタイプの違う3人が一列に並ばされた光景は実に奇妙だった。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」茉奈香が野菜トリオに向かって言った。
「昨日、皆さんの友人である島田君の卒論盗難事件が発生しました。島田君の卒論は完成しており、後は提出するだけの状態だったそうです。その卒論が盗まれた……。島田君の失望は想像に余りあります。
あたしは名探偵として、何としても島田君の卒論を取り戻さなくてはいけません。そして皆さんには、事件当日に島田君と一緒にいたことで、窃盗の容疑がかかっています。もし皆さんが犯人でないというのなら、この場で弁明をしていただきたいと思います」
「ちょ……ちょっと待ってよ」山田が青い顔になった。
「僕、島田君の卒論なんか盗ってないよ? そりゃ、僕は島田君と同じ刑事訴訟法のゼミだけど、人のものを盗むなんて……」
「あなたは確か、國枝先生のゼミでしたね」茉奈香が山田の方を向いた。「西島先生のゼミに入れなかったことで島田君を憎み、一泡吹かせようと考えたのでは?」
「ち……違うよ! 僕は元々國枝先生のゼミを希望してたんだ。あの先生は厳しいけど、その分しっかり勉強できるし、僕は満足してるんだよ。
そ、それに、もし論文が盗んだものだってばれたら、もう2、3本論文を書けって言われるよ。それなら最初から自分で書くさ」
山田がおどおどと反論した。なるほど、盗作だとバレるリスクを背負うくらいなら、最初から危ない橋は渡らない。的を射た意見のようにも思えるが――。
「でも、何で僕は呼び出されんだろうねぇ?」
これ見よがしにため息をついたのは佐藤だった。眼鏡のフレームを頻りにいじりながら、ねっとりとした視線を茉奈香に向ける。
「僕は理工学部だよ。法学部の島田君の論文を盗む理由なんてない。それくらい小学生だってわかるだろうに」
「いや、わかりませんよ」茉奈香は怯まず言った。
「刑事訴訟法と宇宙工学の関係なんて、誰も取り上げたことのないテーマでしょうからね。あなたの知的好奇心を刺激した可能性もあるのでは?」
「……確かに興味深いテーマではあるけど、それを卒論で書こうとは思わないよ。第一文献がなさすぎる」
佐藤が残念そうにかぶりを振った。文献さえあればテーマに設定したような口ぶりだ。
「でもさー、センパイ達はともかく、俺はさすがに関係なくないっすか?」
軽薄な声を上げたのは井上だ。逆立てた金髪をいじりながら、へらへらと笑って茉奈香の方を見る。
「俺、まだ2回なんすよ。どのゼミ入るかもまだ決めてねーし、そもそも単位足りなくて卒業できねーかもしれねーし、ソツロン盗むとかあり得ないですって!?」
「確かに、あなたは早期から卒論の準備をするタイプではなさそうですね。」茉奈香も頷いた。
「ですが、卒業が危ぶまれるあなただからこそ、優秀な先輩の卒論を盗用する動機もあるのでは?」
「いやー、カンベンしてくださいよ。俺、卒業できたら何でもいいんで、ケージソショー法とか、そういう固い系のゼミ選ぶ気は全然ないんすよー」
井上はどこまでも軽佻浮薄だ。知らない人間が見たら、彼が法学部の学生だなんて誰も思わないだろう。
「おい木場。この中に本当に犯人がいるのかよ?」
島田が不安そうに尋ねてきた。茉奈香は口元に手をやり、野菜トリオを順番に見つめた後、不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「当然。あたしにはもう真相が見えました」
「え、マジ!?」
島田が目を丸くした。今のやり取りのどこに真相への手がかりがあったというのだろう。
「初歩的な推理ですよ。犯人は間違いなくこの中にいる。あたしにはその名前もはっきりとわかっています」
茉奈香がベンチから立ち上がりながら言った。そのまま野菜トリオの周りをゆっくりと歩き始める。山田は恐々と背中を丸め、佐藤は苛々と眼鏡をいじり、井上はへらへらと笑いながら、茉奈香の言葉の続きを待っている。
茉奈香は野菜トリオの周りを一周した後、ある人物の前で足を止めた。おもむろに右手を持ち上げ、その鼻先にびしりと人差し指を突きつける。
「島田君の卒論を盗んだ犯人……それはあなたですね。井上君」
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