#03
「ここは……一体どこですか?」
「今は言えない」
尋ねる僕にロジオンは素っ気なく答えた。
「僕を誘拐した理由は?」
「ジグリッド博士の依頼だ」
「ジグリッド博士?」
ドクター・スティーグ・ジグリッドは、僕が通うリングレン高等大学院の創始者だ。昨年度には没後120年の記念式典が催された。
ジグリッド博士は亡くなって、すでに100年を超えている。
半永久的に生きられるようになった人類の今はジグリッド博士がおらずして成らなかったと言われる。教科書にも載っている人物だ。
目の前の男が言っている意味が分からず、僕は首を傾げることしかできなかった。
「その……ジグリッド博士がなぜ僕をここへ?」
「それは本人に聞け」
ロジオンの言葉が終わると同時に、目の前のスクリーンがブゥンと鳴って、緑色のレーザーの波形が現れた。
「オーケ!大きくなったなぁ。会うのは、君が生まれた時以来だ」
音声が部屋に響いた。声に合わせて緑の波形が動く。
「生まれた時以来」と言われても僕には全く実感が湧かなかった。
物心ついた時にはリングレン高等大学院の寮で暮らしていたからだ。
そもそも、僕はどのようにしてこの世に生まれたのか、これまで考えたこともなかった。同級生たちと同じで試験管から生まれたものだと漠然と思っていたから、話題にもしたことがない。
「……僕を知ってるんですか?」
「ああ、知っているとも」
「だから、僕をここへ連れてきたのでしょうか?」
「そうだ」
「あんな……乱暴な真似をして僕を誘拐しなくても。普通に呼んでくれたら来ましたよ?」
「ははは。乱暴だったか。ロジオンに依頼したのが間違いだったかな。
普通には招待できなかったんだ。すまないことをした。
君も私も当局に目をつけられている。私の居場所を当局に知られるわけにはいかないしね」
「居場所を知られてはいけない?
それは……あなたが120年も前に亡くなったことになっているからですか?」
波形の動きが止まる。ジグリッド博士は沈黙した。
「あなたは、あの……教科書に載っているジグリッド博士なんですよね?」
「そうだ。スティーグ・ジグリッドは私だ」
「その歴史上の人物が、僕に何の用があるんですか?」
再び波形が止まった。
今度は僕も喋らなかった。
少しの間をおいて、動かなかった緑色の直線が波打った。
「私が本当に死ぬ前に、君に託したいことがある。
君は私の息子なのだから」
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