17

 それから一ヶ月ほどが過ぎた。


 ある夜、連が自宅で手紙を書いていた時、隣の部屋から姉の恵が入って来て、だしぬけに聞いた。

「れん、あんた、学校でいじめられてると?」

 蓮は手紙をくしゃくしゃにしながらポケットに隠した。

「何でね?」

 顔も見ずに問い返す。

「だってあんた、近頃変だし、いつも顔とか手とか、ケガしとるやんね」

「変? おれが?」

「ものすごく変だよ。顔色もひどいし」

「親に言わんなら、教えちゃる」

「言わん。約束する」

「この傷は、悪いやつらとケンカしとる、勲章みたいなものやけん」

 蓮は机の上の折れた指を見たまま言った。

「本当ね? あんた、いつからそげんケンカするごつなったと?」

「何ば言うよっとね? 小学生の頃から、姉ちゃんとしょっちゅうケンカしよったやろが。そいけん、こげなケンカ好きになったとよ」

「わたしのせいね? だけどあんた、わたしにいつも負けてたやん。今もケンカに負けよるとじゃなかね?」

 蓮はやっと恵の顔を見たが、姉の目が心配に満ちていたので、すぐに目をそらした。

「もう負けんけん。絶対に」

「ケンカなんかで、勝たんでよか」

「負けてすべてを失ったまま、人生を終えろって?」

 恵は蓮にくっつくまで近づいて、机の上の手を握った。

「れん、あんたやっぱりおかしいよ」

 蓮はその指を振り払い、姉に苦悶の目を剥いた。

「姉ちゃんを泣かせたやつも、おれが、やっつけてやろうか?」

 いつもと違う弟の声色に、恵は後ずさっていた。そしてしばらく涙ぐむ目で蓮を見つめていた。だけど再び歩み寄り、壁際に座っていて逃げ場のない蓮に腕をまわし、彼の顔を胸に抱いたのだ。

「れん、ひどい目にあっとるとでしょう? 大丈夫やけん。わたしはいつも、どんなことがあっても、あんたの味方やけんね。だけん、大丈夫」

 耳元でやさしく声をかけながら、震えだした弟の髪を指で撫ぜた。














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