第3話


 絶望するライザックとは異なり、マリアとアレックスは幸せな家庭を築いていた。暖炉がパチパチと燃える談話室で、二人は肩を並べてソファに腰掛けていた。


「マリアさんは噂を聞きましたか?」

「噂?」

「どうやら王子が次期国王の椅子から追放されるそうです」

「そうですか……」

「もしかしてまだ彼のことが……」

「いえ、この半年でアレックス様の優しさに触れましたから。もう未練はありません。ただ……かつては愛した人ですから。幸せになって欲しいと願っていました」

「やはりマリアさんは優しい人ですね」


 自分勝手な理由で婚約破棄されたにも関わらず、寛大な心で許せるマリアをアレックスは尊敬していた。


 この人と結婚できて本当に良かったと、改めて思う。


「それにライザック様が落ちぶれたのは私が原因かもしれませんから」

「君の薬が関係しているんだね」

「知っていたのですか?」

「王子とは長い付き合いだからね。子供の頃の彼は、それはもう駄目な奴でね。運動も勉強も容姿も駄目。次期国王は誰もが第二王子こそ相応しいと声にしていたほどさ。でもそれがある日を境に変化する。君との婚約だ」

「私が煎じていた薬は、記憶力や身体機能を向上させる効能がありました。他にも王子は暴飲暴食が過ぎましたから、吸収するカロリーを抑制する薬も処方していました」

「その薬を王子は他人に飲ませたのか……そんなことをすれば……」

「身体に免疫がない人には劇薬となります。意識を失ったのもそれが原因かと」


 ライザックに処方していた薬は、マリアが彼の体質を調べぬいた上で提供していた。薬は人によって毒にも良薬にもなり得る。彼女の好意を彼が信じきれなかったがために起きた悲劇だった。


「その王子の部下も意識を取り戻したそうですね」

「丁度、昨日ですね。目を覚ましました」

「まさかマリアさんが看病を?」

「私にも責任はありますから」

「やはりマリアさんは優しいですね……子供の頃から変わらない。君が私の看病をしてくれた時もそうだった」

「懐かしい話です。あの頃は私も未熟でしたから。薬を煎じるのに苦労しました」

「私のために王宮の裏庭で薬草を集めてきてくれたよね。泥だらけになった君の顔を今でも思い出せるよ」

「ふふふ、なんだか恥ずかしいですね」

「でも大切な思い出さ。なにせ初恋の瞬間だったからね」


 アレックスは幼少の頃から一途にマリアのことを慕い続けていた。王子の婚約者だったため諦めていたが、最終的には彼女の夫の座を手に入れたのだ。


「君と出会えて、本当に良かった。これからも一緒にいて欲しい」

「もちろん。喜んで♪」


 王子のために薬を処方したが、毒を盛られたと婚約破棄された令嬢は、騎士に溺愛される日々を過ごす。二人はこれからも幸せな毎日を過ごすのだった。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございました!!

これにて完結です!


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【短編】王子のために薬を処方しましたが、毒を盛られたと婚約破棄されました! 上下左右 @zyougesayuu

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