第2話


 マリアとライザックの婚約破棄騒動から半年が経過した。短いようで長い時間は彼の置かれた状況を激変させた。


「クソオオオッ」


 ライザックは自室で雄叫びをあげる。以前の彼は学術、格闘術、容姿。そのすべてが完璧だった。


 しかし婚約破棄騒動が起きてから能力が低下し始めたのだ。


 以前の彼ならば一度読んだ書物は、一字一句頭の中で思い浮かべることができたし、一日中勉強しても集中力を維持できた。


 しかし今の彼は違う。勉強した内容はすぐに頭から抜け落ち、勉強も三日坊主の連続だ。


 さらに冴えわたる格闘術も鳴りを潜めていた。その原因は身体についた脂肪だろう。健啖家の彼は、暴飲暴食を繰り返していた。それが肉体に反映され、たった半年で体重が三倍になった。


 勉強も運動も容姿も劣っている彼の評判は王宮内で地に落ちた。次期国王に相応しくないとの声まであがっている。


「どうして俺様がこんなことに……まさか毒でも飲まされたのか?」


 だがマリアとは会っていないし、毒を盛られるような機会もなかった。いったいなぜと疑問を膨らませていると、部屋の扉をノックする音が響いた。


 来客に対して苛立ちを覚えるが無視するわけにはいかない。


「誰だ?」

「私ですわ」

「メアリーか。いいぞ。入ってくれ」


 婚約者のメアリーが来てくれたと、来客を歓迎する。しかし現れた彼女の表情は氷のように冷たい。悪寒が背中に冷たい汗を流させた。


「今日は大事な用があって参りましたの」

「そ、そうか。もしかして結婚式の日取りについてか?」

「いいえ、その逆ですわ。私との婚約を解消させてくださいまし」

「は?」


 言葉は耳に届いていたが、理解したくないと脳が拒絶する。呆然とする彼に、メアリーは追い打ちをかけた。


「私は第二王子と結婚することに決めましたの」

「ま、待ってくれ。なぜあいつと!?」

「決まっていますわ。あなたは落ち目。次期国王は第二王子こそふさわしいと専らの評判ですから」

「だ、だが、俺様との間には、誰にも負けない愛があるだろ!?」

「そんなものありませんわ。あなたはただの役に立つ道具でした。それが壊れたから、別の道具と買い替える。至極当然の行動でしょう」


 メアリーは喉を鳴らして笑う。この時、ライザックは真実を知ったのだ。本物の毒は彼女の方だったと。


「クソオオオッ」


 婚約者を含め、すべてを失ったライザックは後悔で泣く。だが慰める者はいない。大切な人を彼自身の意思で追放したのだから。

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