第15話 15




 詩織先輩の葬式には、五日間の停学処分を理由に、張本人の鎌田由美だけが来なかった。

 そして五人の停学処分が解けた翌日、いつもと変わならない鎌田由美が登校して来た。

 事件に関係していた他の四人は、オレの顔を見止めると、慌てて視線を逸らした。

 だが、鎌田由美だけはいつも通りの不敵な笑みを見せた。

 オレは腕を下ろしたまま、こぶしを握り締めていた。


『仕返しなんて考えないでね。そんなこと詩織は望んでいないから』

 鎌田由美に対する、オレの深い憎しみを知った美幸さんの言葉が、辛うじて自制した。


(分かっていますよ)

 そう思いながら鎌田由美とすれ違おうとした。

 その時……。

「ブス専……」

 そうつぶやいたのだ。

 その瞬間、オレの胸の奥でフタをしていた何かが弾け飛んだ。

 どす黒い感情が胸の中に広がった。

 オレは立ち止まったが、振り返らなかった。

 鎌田由美を殺したいと思った。

 怒りで体中が震えた。

(やっぱり……許せない)

 オレの心には消す事に出来ない炎が燃えたぎっていた。

(絶対に復讐してやる……あの女をメチャクチャにしてやる…)

 もうオレの心は止められなかった。



 翌日は、一学期の終業式だった。

(絶対に許さない……)

 オレの腹の中は憎しみで煮えたぎっていた。

 関わったヤツは五人だが、他の奴はどうでもいい。見逃してやる。

 だけど、オレの前に立ちはだかるのなら容赦はしない。

 狙いは鎌田由美だけだ。

(あいつだけは許さない)

 オレはズボンのポケットに仕舞い込んだ、折りたたみ式のフォールディングナイフを確認した。

 鎌田由美相手にナイフなど必要なかった。

 邪魔するヤツがいれば使用するだけだ。

 人を小馬鹿にする鎌田由美の不敵な笑みを思い浮かべて、オレは拳を握り締めた。

(あいつは殺さない。ボコボコにして二度と見られない顔にしてやる!)

 鎌田由美が最も堪える復讐をしてやりたかった。

(詩織先輩……ごめんなさい)

 こんな事は彼女が望まないのは分かっている。

 それでもオレは鎌田由美だけは許せなかった。 


 覚悟を決めたオレが玄関に向かおうとしたその時だった……。

 左腕に付けた詩織先輩の遺品の腕時計が急に光を放った。

(な、なんだ、これ)

 オレは七色の光を放つ腕時計を、オレは呆然と見つめた。

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