幼女と幼男は愉悦を貪りたい①モナ編

 性善説か性悪説


 わたくしは魔族でもあり人間でもある。所謂半妖の淫魔。ボレヌス大陸では、『人は善を持って産まれてくる』と教えている。と言うのも、わたくしは聖職者として務めてきたから知っている。


 此処で其れを議論するつもりは無いのだけれど、男の精液を貪るだけしか能がない半分悪魔の中途半端な半端者なのだけれど。それでも、わたくしは『人は生まれながら悪』だと言うことを知っているのです。



 リリー・ロストゥーナ


――――――


「お姉様、あの子……」


「リリーの考えている通りじゃない?」


「って! 早く助けなきゃっ! お姉様っ!」


 リリーの叫びを聞いたモナは「えぇ」と溜息をつきながら、深紅のドレスの背中から黒の翼を広げて少年の元へと羽ばたいた。


――ファサッ


「ねぇ、少年。そんなに死に急ぎたいの? なんでえ?」


 モナは少年の片足を手に持ち、少年を宙ずりの状態で質問した。


「っ?」


 少年は、何が起こったのか分からない様子だ。

 逆さまでモナに足を持たれた少年は、徐々に顔を赤らめていく。


「は、はなしてっ!」


 逆さまの少年は、掴まれた足を振りほどこうと暴れている。


「はい」



――ボッチャーンッ!



「ちょちょちょっ! お姉様っ何してるんですか!」


 リリーがその出来事に対してモナへ大声で叫ぶ。


「何って何? 離せって言うから離したんだよ」


 モナはリリーに何を言われているのか分からない様で、「んー?」と、人差し指を頬にやり首を傾げている。


「いいですから、早く連れ戻してくださいっ!」


 モナが再度少年へと向き直すと、どうやら川に流され溺れているように見え、叫び苦しんでいる様子。


「またあ? もう。リリーは我儘なんだから。後で奢ってね」


「――わ、分かりましたから、急いでっ!」


 モナにとっては大した事では無いのかもしれないけれど、所謂一大事という出来事に出くわしたのだ。けれども、モナの欠点と言えばいいのだろうか、サシャが居ない時は兎に角やる気がないのである。


 モナはリリーに少年を助けるよう言われ、仕方なくといった表情を見せながら、少年をリリーの元へ抱え連れ地面に下ろした。


「これで大丈夫でしょ? じゃ帰ろ、リリー」


「な、な、なんて人でなしっ!」


「私、鬼だもん。吸血鬼の姫だもん。人じゃないもん」


 モナが「いーっ」と、両目をグッと閉じながら、真っ白な歯をリリーに向け、「私悪くないもん」と、言わんばかりに不貞腐れる様子を見せる。


 そんなモナを無視し、リリーは目を覚まさない少年の呼吸を確認している。

 リリーの表情を見るに少年が生きているかは分からない。

 リリーはそのまま少年へと人工呼吸を始めた。



――ドンッドンッ プスーッ



「ゲホッゲホッ……」


「良かったあ」


 リリーの甲斐あってか、少年は目を覚まし咳き込んだ。

 リリーはその少年を見てホッとした表情を見せる。


「…………」


「身体が冷えきっている。事情は一先ず置いといて、お姉様、連れて行ってください」


「えぇ」


「えぇじゃないですっ。わたくしの今日のオヤツ食べて良いですからっ」


「ほんとっ? じゃあ連れてく」


 モナはの一言でやる気を見せるが、それもどうなんだろうか。兎角、モナは少年を両手で抱え、屋敷へと飛び立つ事にした。


 モナが屋敷へと戻るとリズが出迎えてくれた。


「お嬢様。其方の方はどうされたのでしょうか」


「んー。リリーに連れてけって言われたの。リズに任せてもいい?」


「畏まりました」


「どうしたの、モナちゃん」


 屋敷の入口でリズに少年を預けた所で、会話の内容からしてなのか、いつものハットと黒マント。それにステッキを片手にしたサシャが顔を見せてモナに尋ねた。


「サシャっ♡ 橋から飛び降りた所を助けたの。偉い? 褒めて褒めて」


 リリーといた時とは打って変わって、モナはニコニコとサシャの腕に手を回す。


「はぁ。モナちゃん。嘘は良くないだろ。リリーに言われて仕方なくといった所じゃないか?」


――ギクッ


 (サシャちゃん、思考読解みたいなこと出来たっけ……)


 サシャに的確に言い当てられたことで、モナは顔を引き攣らせ苦笑いで誤魔化す素振りを見せる。


「で、リリーは?」


「えぇと。知らないけど、追いかけて来るんじゃない?」


「そう。助けたなら最後まで責任持つんだよ。わたしは出掛けてくる」


「えええぇっっ!?」


 モナは驚愕して口を大きく開けすぎた。


「だってモナちゃん、自分で助けたって言ってたじゃないか。それなら当然だろ?」


 サシャは微笑しながら屋敷を出ていった。


「そんなぁ」


 サシャは当たり前の様に、モナが責任を持てと言い放ち、其れを言われたモナは、彼女が想像だにしなかった発言に驚愕し、両手を地面に置き愕然としていた。


 (ていうか殺しちゃえば良くない? どうせ死のうとしてたんだし。うんうん其れが良いよね)


 サシャに見捨てられたモナは、よからぬ事をを呟きながらうろうろし始める。


「リズーっ! 今日のお菓子チョウダーーイ!」


 これこそがモナの真髄とでも言うべきか、つい数秒前まで殺すとか呟いていたが、今は食べる事を優先したようだ。そんなモナはソファーでリズの返事を待ちながら、ドレスのスカートをバサバサさせている。正にその様子は、餌を前にした飼い犬のそれだ……。


 (リズの返事が無い)






――――――



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