追放大好き勇者を駆逐したい④
呆気なく終わりを見せたハイベルタ奪還作戦の翌週。
早馬で来たと思われる伝令に呼ばれた3人は今、王宮の会談室に来ている。
復讐代行屋の3人が、『ヴェルナー・ガルデン7世だったか8世』だったかの、ガルデン国王陛下と対談を始めるところだ。
「見事天晴れじゃ!」
どうやら陛下は何かを褒めたい様子でニコニコだ。
「ええと。モナちゃんは、貴方が何言ってるのかわからないんだよね」
モナは人差し指を頬に触れ、首を傾げてる。
「お姉様、サシャお兄様に任せましょ」
リリーは口を尖らせているモナの口を手で覆い被せる。
「其れで、陛下。先日来たばかりですが、褒美の件で?」
サシャは死霊を使った戦争を出来れば隠しておきたい。
「あ、あぁ。その件もあるが。儂も既に聞き及んでおる、ハイベルタ奪還戦の話じゃ」
(やっぱりそうなるか)
「して、先ずはその件も含めての褒美じゃが、大金貨100枚を受け取ってもらいたい」
「「「はぃっ?!」」」
復讐代行屋達は目を見開き、口を大きく開けている。
上級貴族の、例えば公爵家の貴族年金が、年間で大金貨1枚前後の支給なのだ。
つまり、公爵年金100年分になる。
驚愕してしまうのは当然だろう。
「いや、すまない。驚かせるつもりだったんだが」
「確信犯っ!」
「でじゃが……」
(そうくるよね……)
「ハイベルタは、今も、もぬけの殻の状態なのじゃ。サシャ殿。儂も薄々はサシャ殿の力を感じてはおったが、その力。ハイベルタの為に使ってはくれぬだろうか?」
サシャはレナードからもハイベルタの状況を聞いていた。
勇者に追い出された街の住人達が他の街に移住してしまったという事を。
「いえ。お断り致します」
「やはり――」
「ご存知という事で有れば尚更です。わたしの『使い魔』達で街が溢れ帰りますよ?」
サシャは死霊を使い魔として誤魔化した。
「も、勿論そこも踏まえてなのだが。そうじゃな、『勇者に追放された冒険者』が、今、大量に発生しておる」
「そうですね」
「そのもの達なんじゃが、全員とは言わぬが、辺境の村や集落で『自堕落』な生活を送っておるのじゃ」
「はい?」
サシャは陛下の言っている内容の意味が分からず肩を竦めた。
「いやな、その土地を収めている領主によれば、『スローライフ万歳っ!』と、皆が口を揃えて万歳三唱を続け、奇怪な行動をとっておるとの事なのじゃ」
「それで?」
「その、スローライフ冒険者をサシャ殿の力でハイベルタで働かせては? と、元老院ででた答えなのじゃ」
「なんと言っていいのか。陛下。その『スローライフ万歳冒険者』が自堕落と仰ってましたが、何一つ仕事をしないとでも?」
「そのまさかじゃ。適当にその辺の農作物を食いあさり、薬草と思われる草を食い続け、それだけで生きながらえている様じゃな」
(よく腹壊さないな)
サシャは自堕落な生活よりも食べている内容に驚き呟いた。
「「「…………」」」
暫く、復讐屋3人はそれぞれ「うーん」と、考えを寄せ始める。
「サシャちゃん、追放病や婚約破棄病みたいだねっ!ぷぷぷ」
考えこんだモナが、突然例の流行病に似ているとケラケラ笑いだした。
「サシャお兄様わたくしも同感です。名付けるなら『スローライフやっほー病』でしょうか……」
モナに続き、リリーまで同じ事を考えている様子だ。それにしてもやっほーとは。
「…………」
「…………」
「はぁ。陛下、取り敢えず調べてはみます。先ずはハイベルタ近郊の領主? 市長? にあわせてください」
サシャが陛下に対して嫌そうな表情を浮かべながら提示した。
「そ、そうかっ! すまぬのサシャ殿、後は儂の側近と事を進めてくれっ、金貨も直ぐに持たせるっ。頼んだぞサシャ殿っ! ワハハッ」
こうして突然の陛下からの打診があった対談ではあったが、追放病、婚約破棄病に続き、新たに『スローライフやっほー病』(仮)らしい病気まで発生してしまった。
復讐屋の3人は、先のハイベルタ奪還作戦で大量の死霊や眷属を獲得しており、悠々自適に旅行を楽しむつもりだったのだが、もう暫くはドタバタに振り回される事になりそうだ。と、深い溜息をつきながら屋敷へと戻っていくのだった。
帰りの馬車。
「サシャ殿。突然のお頼み感謝申す」
彼は陛下から紹介されたギルベルタ。
「はぁ。取り敢えずわたしは、領主に会うことになるんですよね?」
サシャがギルベルタに尋ねた。
「いえ、サシャ殿にはハイベルタ市長とお会いして頂く所存。その後引き継ぎの――」
「いやいや。困りますよ、市長? わたしが? 無理ですし、興味もありません」
ギルベルタは当たり前のように、サシャに市長を引き受けてもらう様子で話を進めるが、勿論サシャには領地運営や都市開発など、興味は更々無いのだ。
果たしてこの、新種の病原体。
『スローライフやっほー病』(仮)
どんな復讐劇を巻き起こすのか、今のところ復讐屋3人には検討もつかないのであった。
陛下「スローライフ万歳っ!」
――――――
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