追放大好き勇者は占領したい③

――ハイベルタ郊外 復讐軍本陣――


「マイロードっ! 御報告致します」


 尖兵として帰還した『戦士屍のゴンザレス』が、都市ハイベルタの状況を説明してくれた。


 敵軍

 各分隊に1名の勇者 随伴は4名の冒険者

 総勢 2万程の師団人数を有す

 宝具(聖剣等) 不明

 街の住民 『全員追放済』

 占拠場所 酒場 教会 講堂 宿屋 兎角街全域


「そ、そんなに勇者がいるのかっ?」


 元『暁の愚連隊』で屍の元クラマス『ターニャ』が其の報告に驚きどよめく。


 この数が正しければ4千人の勇者が暴れる事になる。なんとも度し難い事だ。


 対してサシャ、モナ、リリー主力の復讐屋軍はと言うと。


 復讐屋軍


 分隊編成 骨騎士 骨魔導師 骨弓兵 骨忍者 計4屍

 総勢 各中隊に怨嗟魂 上位骨騎士 上位吸血鬼

 約5千の屍と鬼の混成軍




「この位で良いかな? モナちゃん」


「ぷぷぷ。大丈夫じゃないかな? というか私だけでも終わらせれるよ?」


「お兄様っ、お姉様、これ、もう戦の類ですよっ?」


「まぁ。少し遊ぼう。旅行を台無しにされたんだし」


 主力3名は、レナードやターニャ、他の屍冒険者等と違いゲーム感覚の様子だ。


 そして。悪魔の微笑みでサシャが呟く。


「よし。お遊戯の始まりだ」


 モナが続く。


「ウアッシェンテッァッッァァア」


「さぁ! 良い子の皆っ、遂に始まったハイベルタ奪還作戦っ、実況は『男大好きサキュバスのリリーですっ!』」


 どうやら、リリーは戦闘には参加せず、誰に向かってなのか様子を逐一伝えたい様子だ。



――ガシャンガシャンガシャン



「おっと、先ず動いたのは、左翼に展開している『ベータ大隊っ』どうやら、その先にあるハイベルタ西門を目指しているようですっ。解説のモナ姉様、これはどの様な作成なのでしょうか?」


「ええ? 私わかんないよう。サクッと殺しちゃえば良いのに」


 そんなサキュバスの解説はさておき。


 ハイベルタを守る東西南北の4大門。

 左翼展開の大隊が強引に鉄大門を破壊していく。


 同時に4名一個小隊の特殊部隊が警戒をすり抜け、教会と講堂へ向かう。


――ドッカァァん


 左翼の鉄大門が瞬く間に破壊され、展開済みの左翼大隊は本体方面へと引き返す。


 その轟音を聞き付けた『勇者一行』は、まんまと破壊された扉から姿を表してくる。


――エクスゥゥカリバァァァッッ!


 其れを確認した中央大隊が左翼と合流し応戦を始める。


 と、突如南門の扉が内側から開き始めた。


 そこからは冒険者風の。『荷物持ち』『薬師』『補助魔法使い』らしき姿が、なんと3千人近く姿を現した。


 復讐軍総隊長のサシャが、先程姿を表した『荷物持ち』達3千人の前で話し始める。

 すると、その3千人は急に隊列を組みだし、左翼大隊、中央大隊の参戦に向かい始めた。


 其れを確認した右翼大隊が、開け放たれた南門から一気に街中に残る僅かな『追放病勇者』を蹂躙していく。


――ウォォオッッオっ!


 勇者達が雄叫びをあげる。


――ギュベェェッツ!


――グギュュアッウッ!


 未だ郊外で、勇者本隊を引き付ける左翼大隊、中央大隊、冒険者達の混成軍。


 と、そこへ。街の蹂躙が終わった右翼大隊が、勇者本隊を後ろから挟撃した。


――な、なんだとおぉっ!?


――糞どもがあっっっあ!


 なんとも勇者らしからぬ下品な雄叫び。

 挟撃された勇者本隊は瞬く間に蹂躙されていく。

 が、腐っても勇者。


――はぁはぁ、ファッキュゥウするぞ勇者ヨシピコ!


――おうっ! 勇者アヌスッ!



 勇者達が一斉に詠唱を始めていく……。



――白より白く、聖より光る純白に 我が真白の絶頂に望みたもう 覚醒の時来たれり 天界の境界に登りしことわり 慈悲の歪みとなりて出現せよ 回れ回れ回れ 我が力の清流に望むは祝福なり 並ぶ者なき祝福なり 万象等しく天界に帰し 聖典より来たれ これが人類最大威力の回復手段 これこそが究極の聖闘士魔法



――エクスゥゥヒーリッッン……



「はいはい。そこまでね。其れ回復魔法だしね」


 ハットを摘み、ステッキ片手に、サシャは勇者達の最大聖魔法を止めた。


「な、なんだっ貴様っ!」


 先程詠唱していた勇者ヨシピコがサシャへ威嚇する。


 が、サシャは聞こえない事にしたようだ。


「顕現せよ 超上位怨嗟魂」


――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛


 サシャが呼び出した巨大な紫黒の塊。

 直径30メートルはあると思われる縦長の円塊。

 凝視すると、その塊は膨大な数の人の顔らしき存在の塊で構成されており、その1人1人の叫びが轟音となり呻きをあげる。


「我命ず 蹂躙せしめよ」


――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛


 紫黒の塊が勇者本隊を踏み潰す。

 噛みちぎる。

 食い殺す。



――グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ


――ぎゃああああっ!


――く、来るなあァァァっっつ!!


――ベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッベキッ



――ゲフッ プハーッ グヘッ



「終わったよ、モナちゃん」


 ハイベルタ郊外で乱戦していた『復讐軍対追放勇者軍』の戦争はサシャの一声で呆気なく終わりを見せた。

 幸いにも、街の被害らしきものは見当たらず、正に電光石火の蹂躙劇だった。と、勇者に追放され、復讐混成軍に混ざっていた『荷物持ち』の元ギータは後に語った。






――――――



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