追放大好き勇者を追放したい②

「サシャちゃん。これ疲れるけどめちゃくちゃ儲かるねっ」


 そう。儲かるのだ。

 儲かりすぎるほどなのだ。

 サシャとモナにとって、利益とは死霊や眷属を増やす事。

 更に今回は王国からの金銭約束まであるのだから、ウハウハでお風呂の中に金貨を詰め込みダブルピースしてしまう程なのだ。


「まあ。そうなんだけど。飽きる」


 今回、何故この様な事が起こったか。

 ある日サシャに天啓が舞い降りた事から始まったのだ。

 以前、陛下の息子。所謂殿下が『婚約破棄だっ』の病気に患い、最終的にはモナの玩具になってしまったのだけれど、『かなり端的』に言えばあの件が病気なのだ。と、サシャが陛下に申し出た事から縁を作っていったのである。

 勿論モナの行いは伏せたままであるけれど。


 1つだけ問題点もあるのだけれど、依頼者が王国陛下であって、実際に『恨辛怨呪』を持った人物じゃない事が、サシャのモチベーションが上がらないことがその問題なのでもある。所謂贅沢病だろうか。


「ねぇねぇ、サシャちゃん」


「なんだい、モナちゃん」


 2人はあまりの疲労感で爺婆の様に真っ白な様子だ。


「「はぁ……」」


「って、これじゃ物語が進まないよっ! 弐話で物語が終わるよって言いたいの! だから、折角お金も沢山手に入るんだしい、旅行行こ?」


「毎日物語してるじゃないか。それで? 何処に行きたいの」


「うーん」


 ガルデン王国

 ロードリヒ魔王国

 エルグランド帝国

 デムトゥール神聖国

 ノーグランド連邦国家郡


 ボレヌス大陸の『大国』だけで見ても、5つの国が存在しており、復習依頼代行事務所がある、ガルデン王国も大国のひとつである。


 モナは、何処に行こうか考えている様子を続けているが、サシャはソファーで横になり天井を眺めている。


「サイコロで決めちゃダメ?」


「サイコロでって、大国だけだと5つしかないけど。6つ目は更にその外? 昔に逆戻りじゃないか」


「じゃあさじゃあさ、その1つは振り直しとかにしちゃえば? それで、街に到着したら直ぐにまたサイコロ降るの。ちょー楽しみ! ぷっぷ」


「わたしの太腿の上でじたばたしないでくれるかな?」


「わぁーい。降りないよお」


「はぁ。あと、先程からずっと突っ込み所が多すぎて、スルーせざるを得ないよ。それで、リリーも連れてくんだろ? それにそうなると、馬車移動って事になるんだけど」


「えぇ、リリー置いてこうよお、邪魔じゃない?」


「お姉様、聞こえてるんですけど」


「ひふぇあっ!?」


 サシャはずっと気付いていたけれど、モナは全くリリーの存在に気が付いていなかったようで、猫の尻尾を踏んでしまった様な悲鳴を上げた。


「酷いですよ、お姉様。流石のわたくしもいじけますよ? サシャお兄様を最大出力で吸い尽くしても良いんですか? こんな感じでズボンのファスナーを下ろしてっと――」


「こら、リリーやめてくれ。それにお兄様じゃないと何度言えば――」


「りりーーーーっっ! らめぇ!」


 この調子では旅行計画も先に進む様子は無さそうでは有るけれど、この後数時間はずっとこの様子が続いたのだった。


「疲れた。もうわたしが決めるよ。魔王国で流行病でも調べてみよう。馬車でも1ヶ月くらいで着くんじゃないか?」


 ガルデン王国の北にロードリヒ魔王国が並んでおり、割と身近な国である。魔王と言っても遥昔の様な『人間対魔王』な敵対関係では無く、この時代は割とどの国も平和を維持している。


 というのも、ダンジョンや遺跡から溢れてくる魔物に手一杯で、更に流行病まで蔓延っているのだ。何処の国も自国で精一杯なのであろう。


 因みに、復習屋の3人や魔王国人は、先の魔物では無く『悪魔や魔人や妖魔』等、区分が分けられており、端的に言えば知能があるかないかが分かりやすいと言える。


「わたくしも、淫魔の故郷という場所がとても『気になりますっ』」


 リリーが2人に向けて、瞳を虹色にキラキラさせている。


「えぇ。リリーいると、サシャとイチャラブ出来ないんですけどー」


 負けじと瞳を下卑た色にキラキラさせるモナ。


「わたくしは構いませんよ。見てるだけでもご馳走様ですっ。ジュルジュルっ」


 さもありなん。とでも言いたげな様子のリリー。


「おい。君達。勝手に進めないでくれ。わたしは君達の自慰玩具人形では無いのだけれど?」


 真面目に話が進まず、段々とイライラしている顔付きになってきているサシャ。


 サシャのその様子に目も暮れず、いつもの如くあーでもないこーでもないを始める鬼と淫。


――ゴツンっ


――ゴツンっ


「「っ! 逝ッタァッッァァア!」」


「いい加減にしとけよ貴様達……」


 こうして暫く働きずめだった3人は、少しの暇を作ることにし、魔王国ロードリヒへと馬車へ進めていくのだった。


 いや。出来なかった……。


「サシャっ! 大変だ、直ぐ来てくれっ!」


 突然屋敷に憲兵のレナードが扉を開けて叫んだ。


「どうした、随分な慌てようじゃないか。しかも、そんなに汗だくで、リズ冷たい飲み物でも――」


「いや、其れはいいっ。助けてくれ、街が大変なんだっ! 勇者が勇者と勇者大軍の徒党を組んで、街の住人を全員追放しているんだっ!」




「「「はぁ?」」」







――――――



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