追放大好き勇者を追放したい①

 勇者


 勇者とは、勇気のある者のこと。同義語・類義語に勇士、勇夫、勇婦などがある。 しばしば英雄と同一視され、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称として用いられる。武勇に優れた戦士や、勝敗にかかわらず勇敢に戦った者に対しても用いる。


 いや、それはおかしくはないだろうか。わたしの知るこの世界の勇者は、どの国においても、外道しか居ないのだ。余程魔王の方が世界に貢献しているし、わたしやモナの様な悪魔の方が罪人を有効活用しているのだから。



 サシャ・メディウム・クノッヘン


――――――――


「貴様。勇者で間違い無いかな?」


 サシャが目の前にいる冒険者パーティのリーダー格に尋ねた。


「はい。陛下」


 勇者で間違い無いとサシャを御前に片膝で頭を垂れている。


「そうか。なら貴様はこの国から追放だ」


 サシャが勇者に言い放った。


「え? はい?」


 勇者は『訳が分からないよ』と白い魔猫のように言いたげな様子だ。


「聞こえなかったのか。仕方ない。もう一度だけチャンスをやろう。わたしは寛大だからな。勇者。貴様はこの国から追放だ」


 サシャは肩を竦め「やれやれ仕方ない下衆だ」と呟いている。


「な、何を抜かす……」


 勇者は突然の出来事で青天の霹靂だろう。

 因みに。この言葉は、青く晴れた空に突然におこるかみなり。

 思いがけない突発的事変の例えだ。


「「「…………」」」


 職業は不明だけれど、パーティメンバーも同様に目を見開き口をパクつかせている。


「ええと。早く出ていってくれると助かる。聖剣や諸々の王家の宝は全て置いていけよ」


 王家が貸し与えていたアイテムは相当値打ちのある物だとサシャは確認済みだ。


「おい」


 勇者は俯きながらプルプル震えている。


「おい? わたしの事か? それともモナちゃんの事か?」


 サシャの隣には姿形は女神クラスの美吸血鬼。

 モナは妃座に腰掛け足組みをして欠伸をしている。


「てめぇだっ、糞野郎っ」


 勇者が腰に下げてる剣に手をかけた。


「ふむふむ。糞野郎とはまたなんとも勇者らしからぬ言葉。盗賊でももう少し品があるぞ?」


 サシャは王国一般論を告げた。


「ねぇねぇ、サシャちゃん。これで14組目でしょ? 流石に飽きちゃったよ」


 今日だけで、勇者を名乗る『追放病』勇者様を相当数相手にしているモナが、疲れを見せている。


「おい、そこの糞ビッチっ、黙っ――」


――死ね


――ブシャァァアっ!


「「「ヒィイィィィいぃぃいいいぃいい」」」


 突然目の前に居た勇者の首が吹き飛ぶ。

 其れを目の当たりにしたメンバーの中には、スカートの中の太腿の間から一気に液体を噴射している者もいた。

 当然だろう。国内最強格と言われた勇者なのだ。

 だが残念な事にサシャもモナも、この大陸どころか、世界の頂点に君臨していると豪語している存在なのである。


 ざまぁ……。


「あぁ。モナちゃん。皆驚いたよね。すまない。君たちは。うーん。どうしよう、罪人だしね仕方ないよ」


 サシャはモナがキレてしまった事に少し呆れ顔だ。


「お、お待ちくださいっ、陛下」


 勇者の仲間がサシャを宥めようとしている様子だ。


「何かな? えーと」


 サシャは名前を呼びたくても分からない。


「戦士のゴンザレスです。わ、我々に何の罪があっての事でしょうか?」


 確かにそうだ。事前に2人は調べてるから分かるけれど、この者たちからしてみれば、暴挙極まりないのだ。


「君達、『仲間だった』メンバーをダンジョンに置き去りにして、魔物の餌にしたでしょ? だからだけど?」


 今回のパーティは、殺人幇助さつじんほうじょ

 簡単に言えば殺人を手伝った。

 というガルデン王国法だ。


「なっ……」


「という事で、全員そこそこ戦えそうだから。頂くよ? モナちゃんいる?」


「私。お腹いっぱいだよお」


「これから仲良くしようね。マルチネス君他2名ちゃん」


――では


『アナタノ屍、頂キマス』


 マル――、ゴンザレス他2人の女冒険者、勇者の成れの果てが影に吸い込まれていった。



 (確かに疲れた。何処まで『追放勇者』が蔓延してるんだ)


「いや、サシャ殿。見事なお手前」


 ガルデン王国の国王『ヴェルナー・ガルデン3世だったか4世』が、裏袖から拍手をしながら現れた。


「陛下、見ましたよね? バレない様に変装してはいましたけれど、陛下に刃を向ける勇者なんて嘆かわしい」


「うむ。最初は何を言っているのかさっぱりであったが、実際にこれだけの勇者が流行病に……」


 この一連の流れ。

 この異常事態。

 全員驚きを隠せないであろう。

 サシャにしてもそう考えている。


「陛下。流石に今日はこの辺で失礼させていただきます。報酬はまた後日にでも」


 流石に疲れたのかサシャも帰宅を選択したようだ。


「うむ。天晴れな働きぶりであった!」


 陛下は大変満足気な様子だった。


 さて、ここまで来ておいてなんではあるけれど、現在この王国では勇者適正のある冒険者が、ゴミの様にうじゃうじゃと湧いて出てくるのだ。



 正しく『勇者がゴミのようだあーっ!』と叫びたくなるのだ。



「バルスっ!」


「モナちゃん、どうしたの?」


「えぇ? なにが? ぷぷぷ」


「取り敢えず、屋敷に帰ろうか。疲れた」


「帰ろう帰ろうっ、私もヘトヘト……」







 陛下「目がああっっあっ!」


――――――



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