魔女裁判で聖女は吊るされる③

「くっ、全員――」


 大広間に居るクランメンバー全員が、サシャへ向けて敵意を全く隠さず抜刀行為や長い詠唱を始める。


 クランメンバーの詠唱や抜刀と同時にサシャは死霊を呼び寄せていく。


「顕現せよ 『骨騎士』『骨魔導士』『怨嗟魂』」


――ファイャーボーール


――アイスニードーーール


――ぐぎゃああああぁあっっ!


――キャァァァッ!


 サシャは死霊達が大広間を埋め尽くすほどの数を呼び出し、クランメンバーの剣技や魔法を軽々相殺させていく。そのままその場にいたクランメンバーを死霊達を使い、全員拘束させ聖女の拘束具も外させるよう命じる。


「はぁ。驚愕の頭の悪さだ。本当に襲ってくるとは」


「ぉいぉいぉいおいおいっ! サシャ、なんだこれはっ! 全員、死んでるのか……?」


 レナードは、その死霊の群れを目にしながら、顔面蒼白で震えながらも、サシャに現状の状況を教えて欲しいと尋ねる。この世の終わりの地獄を目にし、瞬く間に気絶をしてしまったクランメンバーよりは、遥かに肝が座っているのだろう。


「生きてるよレナード。何人かは此方で意識を刈り取ってはいるけど、大方『怨嗟魂』らの群れを見て気を失ったのだろう」


「…………」


 レナードはやはり戸惑いを隠せない。


「其れよりも、事情は後で説明するから、憲兵ギルドのメンバー呼んだ方が良いぞ。此処に一般傍聴人は誰も居ないからね。全員殺人未遂でいけるんじゃないか?」


「…………」


「それと……、すまないが聖女は先にわたしが保護しておく。モナちゃん。あの子、血は止まってるから問題無さそうだけど、屋敷に連れて行ってくれない? 暴れることは無いと思うけど、その時は寝かせておいて」


「えぇ。じゃあ、帰ったらご褒美くれる?♡」


 頬の辺りで両掌を交わらせ、これでもか。と言えるほど可愛いらしい声でモナはサシャにお強請りした。


「わかった、わかった。寒いから、成る可く低いところ飛んであげなよ。凍死されても困るし。あ、怪我してるから気を付けてね!」


 モナは、「はぁい」と可愛く返事をし、気絶している聖女リリーを担ぎあげ、翼を背中から生やしクランハウスから去っていった。


「ほら、レナードも。これだけ沢山居るんだ、急いでよ」


 サシャはレナードへ向けて、「しっしっ」と、手を振り急げと言いたげな素振りを見せる。


「あぁ、ちょっと膝が震えてな……はは」


 そう言いながら、膝がかくつくレナードは、憲兵ギルドへとゆっくりと出ていくのだった。


「さてと。起きるかな? 裁判長ー」


――ぺちっぺちっ


――ぺちぺちっ


――ゴツンっ


「ふぁっ! きゃああああっ!」


 サシャは何度か元裁判長を殴り、無理矢理目を覚まさせたが、彼女は目の前の死霊達を目にし悲鳴を上げた。


「ああ、ごめんよ。すぐ消すから」


――パチンっ


 サシャは指を鳴らし、大広間の死霊を影に帰した。


「拘束は解けないから、そのまま突っ伏しながら聞いてくれ。くくっ。」


 彼女は手足を死霊達が用意した拘束鎖で縛られ、どの死霊が行ったのか、独特のセンスの亀の様な縛り方で、笑いが堪えられない様子のサシャ。


――シャリンチャリン


「ぅ……」


 元裁判長の彼女は、必死に動こうとするが、動く度に全身に巻き付かれている鎖が身体中を締め付けて苦悶の表示を魅せる。


「おい、亀。あの拘束具を何処で手に入れた?」


――チャリンシャリン


「う……」


「笑ってしまうからやめてくれないか。くくくっ。じゃ、もう一度聞くよ。何処で手に入れた?」


「…………」


「はぁ。あまり遅くなってもレナードが来るし。仕方ないか。そもそも君は既に罪人だ」


 (契約無しであまり使いたくないんだが)


――では


『アナタノ屍、頂キマス』


「我命ず そのままの姿で顕現を続けよ 発言を許可する 何処で拘束具を手に入れた」


「はい。マスター。新しく生成されたダンジョンです」


 死霊となった亀裁判長が答えた。


「サシャー! すまない遅くなった」


 そこへ、先程より元気を取り戻した姿のレナードが、憲兵ギルドのメンバーを大量に引連れてきた。


「じゃあ、あとは頼むよ。レナード君!」


 レナードの姿を確認したサシャは、じゃあ! と、手を上げ帰る素振りを見せる。


「いやいや、事情を聞かないと牢に拘束し続けれないのわかるでしょっ!」


 サシャは「それもそうか」と呟き、先にギルドで待っているよと言い残す。更に死霊化させた元裁判長もそのまま拘束を続け、このまま彼女に憲兵ギルドで説明させようと考えているのだろう。


 先に憲兵ギルドに帰ってきてたサシャに、遅れてきたレナードが問いかけた。


「それで? 何が起こったんだ?」


 サシャは、自信の予想も含めて説明をしていく。


「そうだな。先ずは予想していた通り茶番劇だったな。喜劇とも言えるし過激とも言えるだろう」


「おいおい。誤魔化すなよ」


「はいはい。あの場に居たのは全員女で、嫉妬の対象が聖女だった。傍聴人は全て一般人に扮したクランメンバーだ。そいつらに石やらなんやらを投げさせ、誰が聖女を殺したか分からないようにする為だった。其れをレナードに見せる為に、『レナード達だけ』クランハウスへ通した。つまり、後先考えなかった稚拙な行動だった。というのが、わたしの予想だ。あくまでも予想な」


 (元裁判長が話すだろうし、これくらいでいいか)


「なるほど。まぁ、その辺は拘束した奴らから聞くことにするよ。で、例の怪物は?」


「この国にいるかは知らないけれど、冒険者風に言うなら、わたしは魔導士の分類になるかな。その術を使った迄だ」


 サシャにしてもモナにしても、かなり異質な存在と言える。先程のクランメンバーにしても他の冒険者にしても、この2人に適う存在がこの時代に居るのだろうか。


「あんな化け物を呼べるのか……」


 レナードは先程の悍ましい光景を思い出しているようで、顔が引き攣っている。


「あまり広めないでくれよ? この国にも慣れて来たところなんだ。困りはしないが面倒くさいからな」


 サシャはレナードへ死霊の事は秘密だ。と依頼をし、レナードはコクコクと頷き、理解を示している様子だ。


 (このままモナちゃん飛行についても、聖女についても忘れておいてくれると助かるな。特に聖女は戻すと……)


「取り敢えず今日は帰るよ、何かあれば手紙でもくれれば返事をだすか直接来るよ、冤罪ってことにはならないと思うから、存分に締め上げるといいさ。特にクランマスター? 元裁判長は従順だと思う」


「ん? わかった。協力感謝するよ」


 そうして、サシャは馬車の送迎を借りて屋敷へと帰って行ったのだった。


 (今回は『追放病』に似てたな。全て終わったら元裁判長に聞いてみるか)






――――――



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