魔女裁判で聖女は吊るされる②

「即刻死刑を求刑します、裁判長」


――異議ありっ!


――ガヤガヤ


――ザワザワ


 (やれやれ、思った通りの展開と言うのか……)


 サシャとモナ、それにレナードは暁の愚連隊クランハウスの大広間の傍聴席の最後尾で演劇を見始める。サシャが呟いたように、開始早々被告人と思われる『聖女』が、憲兵役の演者から、死刑を求刑される所からの始まりであった。


「ねぇ、サシャちゃん。もう終わるのかな? 何このお粗末な展開。ぷぷぷ、ウケるんですけど」


 モナはどこに居てもこの調子。誰が見ても彼女の鬼人生は、本当に楽しそうに見えるだろう。


「モナちゃん、まだ始まったばかりだよ。前を見て」


――カンっカンっ


「静粛に。被告人『リリー・ロストゥーナ』反論はあるかね?」


 裁判長役演者が進行を進めていく。


「あるに決まってるじゃないですかっ! バカバカしいにも程がありますっ! 何故わたくしがあなた方に死刑にされなければならないのですっ!?」


 大広間中央に拘束されている聖女と思われる、罪人役の演者が、大袈裟な手振り素振りで反論した。


――異議ありっ!


――ガヤガヤ


「静粛に。憲兵は理由を述べてくだい」


「はい。裁判長。先ずそこの聖女リリーが、過去起こしてきた問題について、既に提出した通りでありますが、記載通りクラン内に不和を生み出し、男性メンバーを根こそぎ使い物にならなくした。というのが大きな理由です。他の副裁判長も既にご覧になっておりますよね? 懸命なご判断を」


 先程の即刻求刑をした憲兵役の証論だ。


――異議ありっ!


――ガヤガヤ


 この裁判と言う名の演劇は、証拠書類と呼べるかはさておき、傍聴席に居るサシャ達にも聖女が犯したとされる、数々の犯罪履歴が記載された内容書類が事前に渡されている。次に裁判長だけではなく、副裁判長と呼ばれているであろう6人も演者なのだろうと推察された。


「はぃ? わたくしが言いたいのは、仮にわたくしが罪を犯したとして、何故あなた方に殺されなければならないのか。という事ですっ」


――ざわざわ


 (レナード。あの拘束具。この国では使っていいものなのか?)


 (あの腕の拘束具か? 何か特別な物なのか?)


「被告人は許可なく発言はしないように」


「裁判長。私から質問宜しいでしょうか?」


 裁判長横に座っている、裁判副長の1人が許可を求める。


「はい。副裁判長」


「えーと、リリーさん? 此処に書かれている履歴ですが、これは事実なんですか? それとも嘘だと?」


「…………」


 先程までの演技はなりを潜め、聖女は静かに佇んでいる。


――ガヤガヤ


――ザワザワ


――カンっカンっ


「静粛に。被告人。事実と認めるかね?」


「…………」


――ガヤガヤ


 暫く聖女は沈黙を続ける。


 突然、サシャの前方にいる傍聴人の女性がを、聖女目掛けて投げつけた。


――早く認めろっ!


――異議無しっ!


――そうだそうだっ!


 何を理由にしてか分からないが、傍聴人全員が、自らの持ち物を聖女に投げつけ、「死ねっ」「死刑だっ」「糞ビッチっ」と、子供の様な暴言を浴びせる。


 被告人の聖女は、投石物が当たってか、頭から血を流し始めるが、裁判長も、副裁判長達もその様子を止める気配がない。


「被告人。認めたという事で良いかね?」


「…………」


「確かにこれは茶番だな。レナード、すぐ止めろ」


 サシャはこの光景を目にし、レナードへ命令口調で場を止めろと指示を出した。


「え? あぁ。わかった」


 レナードは、首を傾げながらもサシャの言う通りに動きを始め、大広間中央へとかけていく。


「演劇途中だが、俺は憲兵ギルドのレナードだ。直ちに演劇を中止しなさい」


 レナードが広間全体に聞こえるように大声で叫ぶ。すると、先程までの喧騒は一気に静かになる。


「おや、レナードさん。いきなりなんですか? まだ劇の最中ですよ? 其れを止める理由とは?」


 先程まで裁判長役を演じていた者が、レナードに劇を止めた理由を尋ねた。


「あ、いや……」


 レナードは、サシャに言われるがまま止めたのだ。慌てふためく様子だが、流石に仕方ない事であろう。


 (はぁ、先に言っておけば良かったかな)


「すまない。わたしがレナードの代わりに説明しても宜しいかな?」


 サシャは、傍聴席最後尾で手を挙げながら裁判長役へと発言の意を示した。


「貴方は?」


「ツレが居ること位知っているはずだが。まぁ、レナードの友人のサシャだ」


「それで? どの様な理由なのかな? これは憲兵ギルドの暴挙と取られても仕方ない事だと思うが?」


「暴挙? いやいや。それは可笑しい。片腹痛い。笑いすぎて顎が外れてしまうよ。あなた方クランの行いの方が余程暴挙だ。この国の王陛下に夜露死苦と喧嘩を売るようなものだ。違うかな?」


「…………」


「おやおや、裁判長。どうしたのかな? 先程まで聖女に行っていた、全員の愚行の事を言っているのだけれど、まさかクランマスターこそがこの世の法律。とでも思ってるのかな? これは笑える」


「…………」


「サシャ、俺には何を言っているのか分からんぞ。分かるように説明してくれ」


「私も分かんなーい、サシャ教えてよ」


「で、裁判長。いやクランマスター。さっさと聖女の拘束具を外した方が懸命だと思うが、まさかレナードの前でこのまま殺すなんて、バカな真似しないと思うが。あぁ。そうだった。君達は全員バカだったか。これはこれは、すまない。フフ」


 モナとレナードの質問には答えず、サシャは執拗に挑発を繰り返す。


「くっ、全員――」






――――――



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