魔女裁判で聖女は吊るされる①
魔女狩
魔女とされた被疑者に対する訴追、裁判、刑罰、あるいは法的手続を経ない私刑等の一連の迫害を指す。魔術を使ったと疑われる者を裁いたり制裁を加えたりすることは古代から行われていた。らしいよ。
でもおかしいよね。魔女がその辺の人間風情に蹂躙される? そんな訳ないじゃん、だって魔女だよ? そんな奴ら殺しちゃえばいいんだよ。ぷぷっ
モナ・ローゼ・ヴァンピレー
――――――
「いや。それにしても屋敷周りも、良い感じになったね。庭園しかり、畑しかり、壊れた内装もバッチリだ。それに、次の種植えでは実りもかなり期待出来そうだね」
「はい。ご主人様。それもこれも全て、ご主人様が色々な技能を持った人達と、死霊契約を結んで来てくれたお陰です」
「ちよっとー、リズ! 今は私がサシャちゃんと話してるの。邪魔しないでよ」
「申し訳ございません。お嬢様。ところで新作の『ブルートシャーベット』を作らせましたので、宜しければ」
「うぉお! リズ分かってるじゃないの。『オシャンティ』で『ハイカラ』ね、気に入ったわ♡」
「この真冬の時期に、良くもまぁ、そんなものを……」
閑話
サシャとモナが『復讐代行事務所』としても自宅としても過ごしている古屋敷。かつてその屋敷は、相当ボロボロで、歩く度にも、激しい情事の際にも、何をするにもギシギシ、メキメキと音を軋ませていた。
ところが、まぁ、なんということでしょう。今迄、正に泣く子も黙る様なホラーな屋敷の全貌は、流行の美術品や家具。柱の一つ一つまでも、上級貴族も羨む邸宅へと様変わりしたではありませんか。
かつての古屋敷は、サシャとモナが呼び出す、農園士や大工士、手芸士や調理士に至るまで。2人は幅広く死霊契約や眷属契約を結び、彼等による大改造、いえ、魔改造を施し、今では立派な死霊屋敷へと様変わりしてしまったのです。
閑話休題
先程『リズ』とモナに呼ばれていたのは、かつて公爵令嬢
「リズ。『レナード』の所に独りで行ってくるよ。収支計算しておいてくれ」
「サシャちゃんっ、私もいるんですけどっ! ヤリ捨てとか酷いんですけどーっ!」
「はい。承知致しました。お嬢様? お嬢様はご主人様から宝物の様に大切にされてるではありませんか」
「宝物……」
「それに、その御美しいお姿でその様な御言葉は……」
リズからの、宝物の言葉に反応したのか、モナは紅潮しながらモジモジしており、他の小言等全く聞こえていない様子だ。因みにお嬢様と言うのは、モナが「私の事はお嬢様と呼びなさい」と命令した為だ。
サシャは深い溜息を付きながら、独り屋敷を後にする。勿論、深紅のドレスを着たモナが、慌ただしく後を追いかける姿も毎日の恒例行事となっている。
サシャが向かう先は、先程の『レナード』がいる憲兵ギルド。彼は憲兵ギルドの敏腕保安官とでも言うのだろうか、暫く前にサシャが調べていた『追放事件』で知り合った。その事件は、一般論としては人道から逸脱し過ぎており、そのレナードも事件を担当してたのをきっかけに、サシャもモナも割と親しくなったという事だ。
サシャもモナにしても、人道には余り興味が無いのは言うまでも無いだろう。
「お、来てくれたか」
「やっほー、レナード。相変わらず冴えない主人公みたいな顔してるのね。誰かに育てて貰ったら? そんなんじゃ一生独身なんじゃないの? ぷぷー」
「冴えない主人公の育成方法。なんて言ったら可哀想だろ? モナちゃん。これでもレナードは正義感の強い保安官? なんだ。レナードが坂道の上でボケーッと口を開けて立っていたら、いつかはその良さに気づいてくれるヒロインが現れるはずだよ」
「なんだその、赤色の某氏でも飛ばす特殊イベントみたいなシュチュエーションはっ! 好き放題言ってくれやがって。この夫婦わ」
「結果はフィーネに――。いや、すまない」
(私達が夫婦……)
紅潮したモナはさておき、憲兵ギルド内では、かなり優秀と言われているらしいレナードではあるけれど、口下手な彼はサシャとモナから暇潰し玩具の様な扱いをされるのだ。
「それで、レナード。今日で良いんだよね? 演劇が見られるというのは」
サシャは先日、レナードから『演劇』を見に行かないか? と書かれた手紙が届き足を運んだのだ。
「そうだ。ただの茶番劇だと思うんだが」
「茶番劇?」
「あぁ。この街一番のメンバー数を誇る『暁の愚連隊』クランが、ノーグランド連邦国の見よう見真似で、裁判を劇にした催しを行うらしい」
「見様見真似ねぇ」
「まぁ、俺は民主政治だかはよく分からないが。其れを演劇と謳って、街でビラを撒いているんだよ」
「演劇のビラをか?」
「そうだ。その後少し調べたんだが、そのクラン、内輪もめを起こしているらしくてな、そこの聖女職の1人が、何か仕出かしたとかで、クランマスターが騒ぎ始めんだと。それで、お前達にも来て貰ったって訳だ」
――ぷぷぷっ
「『夜露死苦っ!』とか言ってそうな暴走龍族みたいな名前だね。クスクス」
――ゴツンっ
「モナちゃん? ちょっとだけ静かにしててね。ねえ、レナード。真似事なのは間違いなさそうだけど。今のを聞いて、何となくレナードの考えを察する事は出来たけれど、わたし達、憲兵でもなければ正義の味方弁護士って訳でもないんだが。そんなわたし達がその劇に同伴してどうなるんだい?」
「それもそうなんだが、この国では私刑は本来禁止されてるだろ?」
「そうなのか、あまり詳しくはないが」
「そもそも王政なんだ。王が作った法律が全てだ」
「なるほど」
「これが、ただの演劇なら問題無いが、本格的な私刑の類なら、憲兵ギルドも動かないといけないだろ?」
「理屈ならそうなるんだろうな」
「街で大きく騒がれてることもあって、クランを捜査しに行きたいんだ。かといって、民主的な裁判? だかを知っている奴なんて居ないんだよ」
(ふむ……)
サシャは、モナにもレナードにも聞こえないようにブツブツ呟き始める。
――ガルデン王国が王政なのは把握しているし、憲兵ギルドの権限も王から与えられているものだろう。要は、何かしらの罪人は憲兵ギルドが。大きなヤマになれば王が直接刑を下す。要はレナードは『本物と偽物』の判別が付かないから、見てくれないかと言ったところだろうか。
「んー。わたし達が民主的な。と言うのはさておき、街では『演劇』として騒がれてるんだったよね?」
「その通りだな」
「真似事が何処までの物かは分からないけれど、レナードの言うような私刑になったとして、即、処断。そんな事になったら止めれるのかい?」
「流石にビラ迄撒いて、そこまでバカな真似は無いとは思うけどな」
「どうだろうな……、ありえないことでもないよ。やり方次第だろうさ」
その後暫く、レナードの言う茶番劇の時間まで、憲兵ギルドで過ごし夜を待つことになったサシャとモナであった。
――――――
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