第23話 ドラゴン退治の少年

 そしてアグネスの第4回戦のメンバー集合の掛け声が響き渡った。オルハの出番が回った。


 その時、颯爽と中央に登場した一人の金髪の男子生徒がいた。セリナ達は当然その男子生徒の姿に見覚えがあった。


「出た、ダリル!」


 ダリルは余裕満々の態度を隠せない。今まで相当暇を持て余してた反動からだろうか、指先からではなく体中からお得意の雷のバチバチ音を響かせ、周囲の生徒を退けていた。


「ダリルー、頑張ってねぇー!!」


「はぁ、何あれ!?」


 1組の女子生徒だろうか、複数名の女子の声援がダリルに向けられた。既に何名もの女子がダリルのファンになっていた。ダリルも笑顔で手を上げて応えた。ミリアとカティアは唖然とした。


「嘘でしょ!? あんなイキりまくってる奴のどこがいいわけ?」


「安心して、同じ中学出身の女子ばっかりよ」


「そういう問題じゃなくて……」


「あ、もちろん私は違うから!」


「見て、フィガロもいる!」


 ダリルの斜め前の組にはフィガロもいた。フィガロはダリルと離れた場所にいたが、お互い睨み合っているように見えた。そして今度はフィガロに向けて、女子生徒の声援が響き渡った。


「ちょ、フィガロまで既にファンクラブが……」


「あぁ全く中学の時と同じじゃん。頭痛くなってきた」


 ミリアも流石に頭を抱えた。だがそんなミリアには大事な仕事が待っていた。


「ねぇ、ミリア。さっきオルハに言ってたアレ……」


「え? あぁ、そうだった! オルハ、ちょっと待って!」


 ミリアは中央に向かおうとしたオルハを呼び止めた。ミリアだけが知っているダリル攻略法、セリナとカティアも気になってしょうがなかった。


 だがオルハの返事は意外なものだった。


「ごめんなさい、ミリア。あなたの気持ちは嬉しいんだけど……」


「え、オルハ。どうしたの?」


 ミリアもオルハの様子を不思議がる。明らかに躊躇っているように見え、ミリアもその気持ちを察した。


「もしかしてあなた……」


「私、正々堂々と戦いたいから!」


「う……」


 オルハの強気な態度にミリアも動揺した。おとなしく控えめな普段の態度とは裏腹に、「戦いに関しては正々堂々と挑みたい」という彼女の気持ちに思わず圧倒されてしまった。オルハはそのまま中央の校庭へ足を運んだ。


「あぁ、残念ね。ミリア」


「でも、オルハ。本当にダリルと真っ向勝負挑む気なの?」


「いやぁ、なんというか、結構強気だなぁ彼女も」


「彼女、座学の成績は超優秀でしょ? 俺達の知らない術もたくさん知ってるみたいだし、もしかしたらワンチャン……」


「そんな安易に考えないほうがいいわ」


 ザックスの持論にミリアは釘を指した。同じ中学出身であるミリアだけにしか、ダリルの本当の強さは知らない。


「座学とかうんぬんの前に、やっぱり魔力量が桁違いなんだよ」


「そりゃ、雷が得意だから……」


「それもあるけどね。だけどあいつの強さは……」


 ミリアはこれまでにないほど、真剣な口調で話し始めた。


「それだけじゃないって、何……?」


「さっきも言ったけど、あいつ災魔倒したことあるんだよ」


「その災魔ってのは、とんでもなくヤバい奴だったってこと?」


 その質問にミリアは黙って頷いた。そして次に発した言葉で、さらに衝撃が走る。


「あいつが倒したのは……【ドラゴン】よ」


「え!?」


 まさに衝撃の一言だった。龍という単語を聞いて一同思わず絶句する。が、その言葉をさすがに鵜呑みにするわけにはいかない。


「ちょ、嘘でしょ、それ……?」


「本当よ。3年の夏休みの時だった、一人で山で修業してたって言ってたけど、その時に龍と遭遇して……」


「ひ、一人で……倒したの?」


「……」


 ミリアは何も答えなかった。しかしそんなミリアでも唯一確信持って言えることがあった。


「ただ一つ言えるのは、確かにアイツがいた山で龍が出現したってことね。目撃者はいっぱいいたし……」


「じゃあ、倒したところは……?」


「それは見てないけど、ただね……」


「ただ、なに?」


「アイツも帰還した時ボロボロになってたから、戦ったのは間違いないと思うわ。龍の血も付着してたし……」


 そこまで説明されるとさすがに疑うのも無理になってきた。そしてさらにミリアは、龍の死体がその後見つかり死体には雷で打たれた跡があり、天候も晴れで雷など起きる気象条件でもなかったと付け加えた。セリナ達も黙り込んだ。そしてその絶句の最中、アグネスの戦闘開始の掛け声が響いた。


 直後、セリナ達はオルハとダリルの戦闘に視線を向けた。今のミリアの言葉を聞いて、オルハが心配にならないはずがない。


「でも、まったく勝機がないわけじゃないわ」


「そういえば、あんたが言ってた弱点って何?」


「その弱点さえうまく突ければ、チャンスあるよね」


「弱点さえ突ければね。だけどオルハったら……」


「強気よね、本当」


 直後、オルハの筆の先から強烈な風球ウインドスフィアが作られた。そしてその風球を間髪入れずダリルに向けて発射した。


 先手を取ったのはオルハだった。強気な姿勢を言葉ではなく態度でも示した。その攻撃ぶりを見ると、オルハが普段からおとなしく控えめな性格の少女であることが嘘のように錯覚してしまう。


「やった!?」


「先制できたね、これなら……」


 しかしダリルにぶつかったと思った刹那、その風球は掻き消えた。ダリルの体中から膨大な量の雷の火花が飛び散り、その火花がダリルの周囲を覆いバリアの役目を果たしていた。


「嘘でしょ、雷で風を!?」


「はぁ、たまげた!」


「まるで昨日のモニカ先輩みたい」


「やっぱり……こうなるか」


 セリナ達はダリルの芸当に驚かざるを得ないが、ミリアは予想していた。


「はっ! それで攻撃したつもりかよ?」


 ダリルの余裕満々の態度で、オルハを挑発する。オルハはその光景を見て、唖然としながらも、再び風球を作ろうとした。


「オルハ、そんな奴に負けないでー!」


「間髪入れず攻撃よ! 隙だらけだから、当てるまで頑張って!」


 ダリルの嫌みのある挑発に腹を立てたのか、セリナとカティアの熱い声援が届く。しかしミリアだけは違った。オルハの風球を見て、ミリアの顔色は完全に曇った。


「無理ね……あの風じゃ」


「ミリア、どういうこと!?」


「ホーク、あんたならわかるでしょ?」


 ミリアは同じ風を得意とするホークに考察を頼んだ。ホークもミリアの言わんとすることはわかっていた。


「あぁ、俺ならわかるよ。あの風球は、中の下ってところかな」


 そのホークの言葉を聞いて、セリナ達もなんとなく意図が掴めた。だがホークの主観的な指標に、納得はいかなかった。


「中の下って、具体的にどのくらい?」


「うーん、攻撃レベル5止まりってところか。ほらスフィアは最低レベルが4でしょ?」


「そんなレベルじゃ、ダリルは倒せないってこと?」


 カティアのその言葉にミリアは黙って頷いた。


「ダリルの実力からして、最低でもレベル7は欲しいところね」


「はぁ? 最低でも7!?」

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