第22話 ロゼッタの実力

 ミリアとザックスが準備を始めた。だがミリアはオルハを気遣うのを忘れなかった。オルハの持っていたクジの色を確認し、声をかけた。


「オルハ、第4グループよね?」


「そうだけど」


「心配しないで、私アイツの弱点知ってるわ」


「え、それ本当なの?」


 その言葉にオルハだけでなく、カティアとセリナも注目せざるを得ない。


「私の対戦相手そんなに強くなさそうだから、速攻で終わらせるわ。そしたら第4グループ始めるまで時間あるはずだから、必ず教える。だから安心して!」


 ミリアの言葉に本来なら喜ぶ反応を示さないといけないはずだ。しかしオルハは、複雑な表情で返事をした。


「あ、ありがとう……」


 一応お礼はしたが、それでもオルハはどこか不満げだ。


(どうしたんだろう、オルハ?)


 オルハの様子を不思議がりながらも、セリナは今はミリアの応援に集中すべきと判断した。


「ミリア、頑張ってねぇ!」


 セリナの熱い応援にミリアも笑顔で応えた。だがカティアは不満げな表情だった。


「あぁ何というか、自分は小細工なんかせず、余裕で相手を打ち負かしますって感じなの?やれるもんならやってみなさいよ!」


 カティアはさっきミリアに指摘されたことを、未だに気にしていたようだった。そのミリアも対戦相手と対峙し、準備万端の態勢だ。しかしセリナは別の女子に目が止まった。


「え、あの子って!?」


 ミリアを見ていた方角に見覚えのある小柄で黒髪の女子生徒がいた。あろうことか、ミリアの組と隣にいたその女子生徒は、胸に金のブローチをつけていて、異様なオーラを放って身構えていた。


「まさか、アイツは?」


「ロゼッタ!?」


 10組にいる学年主席二人の内の一人、ロゼッタが遂に初戦を迎える。


 本来ならミリアを応援しないといけないはずが、セリナ達はその隣にいたロゼッタに注目せざるを得なかった。なんと筆すら構えていない。その姿勢から、筆などなくても余裕で勝てるという自信が満ち溢れていた。


「筆持ってないなんて、アイツ正気なの?」


「まぁ、セリナだって筆なしで勝ったから……」


「そうだけど、私は最初からじゃ……」


 セリナは冷静に自分と比較した。確かに自分は最初は筆を持っていた。ロゼッタとは決定的に違う。そんなロゼッタを見ていると、若干だが格の違いを感じてしまった。


 それでも戦ってみるまではわからない。1限目とは違い、実戦形式なのである意味彼女の実力が垣間見える。そしてその期待を胸に、アグネスの開始の掛け声が響いた。


 直後ロゼッタが片手で防御術を張り巡らした。かのように見えた。正確には術を張っているように見えて、何も見えない。


(また防御術?)


 やはり筆を持っていなくても、ロゼッタはロゼッタだった。相変わらず人形の表情のまま、微動だにしない。


 対戦する1組の男子生徒は、ロゼッタに躊躇なく攻撃術を仕掛け続ける。相手は火の術を得意としていたが、全てロゼッタの手前で掻き消された。


(凄い、全部防いでる!)


 セリナも防御術の心得はある。だがセリナと違い、ロゼッタは相対する生徒の火球を片手だけで防いでいる。明らかに相手の火球フレイムスフィアのレベルも並以上で、セリナにはとても自分の防御術では防ぎきれないと自覚した。


 心なしかセリナは、ロゼッタが自分に格の違いを見せつけているような気がしてならなかった。


「ロゼッタの防御術、さっきセリナがかけてた防御術と同じだよね」


「そうだけど……私のよりレベルが高い」


 するとここでオルハがまたも質問してきた。


「セリナ、そのことで聞きたいことあるんだけど……」


「あぁ、そういえばさっきも質問してたね」


「あの防御術って、多分【魔盾シールド】だよね」


「そう……だけど……」


 オルハが何か意味深な質問をしていたのを、カティアも食い入るように聞いた。


「オルハ、何が言いたいの?」


「セリナって水の術も扱えるでしょ?」


「うん、そうだけど……」


 カティアもオルハの聞きたいことを察したようだ。


「あぁ、そうか! それなら……」


「え?カティア、何?」


「何、じゃないでしょ?どうしてあなた【水盾アクアシールド】使わないの?」


「あ、水盾?」


「ほら、カティアが初日にモニカの火球防いだ水の膜よ」


 そこまで聞かれてさすがのセリナも大事なことに気づいた。


「うっ、それは……」


「セリナ、あなたも知ってると思うけど、魔盾は魔力消費が大きいから……」


「水盾使えるんなら絶対そっちがいいわ。属性の相性とかあるけど、基本的に消費もそこまで大きくないから」


 セリナもその言葉で再確認した。もちろんカティアの言う通り属性の相性で、水盾も必ずしも万能な防御術ではないことも知っていた。しかしセリナ自身それをやりたかったが、そうもできない事情もあった。


「水盾、なかなか難しくて……」


「あぁ、それは何となくわかるけど」


「でも、そう考えたらロゼッタって凄いよね……」


「確か、あの子も言ってたわ。王立魔導図書館に通ってたって」


「そういえばオルハ、ロゼッタと同じ中学だったよね」


「同じクラスじゃなかったわ。でも……」


「でも、なに?」


「図書館だと何回か見かける機会があったわ。私と同じで本たくさん読んでて、凄く真面目だった」


 オルハの説明を聞いて、ますますロゼッタの株が二人の中で上昇した。そんなロゼッタは、未だに魔盾をかけ攻撃を防ぎ続けている。


「ちょ、嘘でしょ? まだ防いでる?」


「ていうか攻撃しないの?」


「さっきからずっと防戦一方ね。でも……」


 オルハは何かに気づいた。すると攻撃の間隔が徐々に落ちてきた。なんとロゼッタに攻撃をかけ続けていた男子生徒もフラフラになっていった。


「あぁ、これは……」


 ロゼッタはその隙を逃さなかった。すぐさま魔盾をかけていない左手から攻撃術をしかけ、男子生徒をダウンさせてしまった。


「嘘でしょ、あの術は?」


衝撃波サージ!?」


 ロゼッタが放った攻撃術をセリナは看破していた。


「これまた随分と特殊な術を……」


「衝撃波って威力自体はそこまで大きくないはず。だけど相手があの状態じゃ、ダウンさせるには十分ね」


「習った記憶あるけど、うまく使いこなせなかったわ」


 オルハも驚きの色を隠せない様子だ。そしてロゼッタは自身の勝利が確定したのを確認すると、何も言わず下がっていった。


 その時一瞬だがセリナと目があったような気がした。セリナは心なしかロゼッタが何かを訴えているような気がした。


「あの子、絶対勝ち上がってくるよ……」


「もしかして、試験もあんな感じで勝ってきたのかな」


「それなら納得行くかも。試験は攻撃受けなければ、たとえ防御術であっても相当加点されるから……」


「お待たせ! 私の勇姿ちゃんと見た!?」


「おいホーク、俺の身体強化エンハンス痺れたろ!?」


 その時、突然男子生徒と女子生徒の声が聞こえてきた。ミリアとザックスだった。二人ともロゼッタと同じように、危なげなく初戦を突破していた。


「あぁ、お帰りミリア……」


「おう……見てたぜ、ちゃんと」


 セリナとホークが気まずそうに返事した。間違っても隣にいたロゼッタに釘付けになり、ミリアとザックスの戦いが眼中になかったなど口が裂けても言えないが、ミリアは誤魔化せなかった。


「見てなかった……でしょ?」


「そ、そんなことないから……」


「嘘言っちゃだめよ! 私だって気づいてたんだから、隣にロゼッタがいたの」


「あぁ、気づいてたの」


「当然よ、私だってマジ驚いたわ。全然攻撃しないんだもん、あの子」


「ていうかその様子だと、ミリアだいぶ余裕で勝ったのね」


「さっきも言ってたじゃん、余裕だって。あ、もちろん誰かさんと違って、ちゃんと相手をダウンさせたから!」


「はぁ? ミリア、それどういう意味!?」


 ミリアが明らかにカティアを意識した発言をした。またもミリアとカティアとの間で口喧嘩が勃発しそうになったが、オルハとセリナの二人で制止した。

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