第21話 カティアの意外な戦法

 直後セリナは応援していたメンバーの元に戻ってきた。既に第1グループの模擬戦は全て終わっていた。セリナと対戦していた女子生徒も治癒班が回復させ、下がっていた。


「あ、セリナ。お疲れ様!」


「ありがとう、みんな」


「本当に凄いね、いやぁ惚れ惚れする」


 戻ってきたセリナを全員が労った。だが直後にアグネスの大声が校庭中に響き渡る。


「では第2グループ、緑のクジを持った生徒は中央へ。ペア同士対峙して!」


 しかしアグネスの声も気にならないほど、カティア達はセリナの戦果を称賛した。


「筆から術が出ないから不安でしょうがなかったけど、終わってみれば完全な杞憂だったわね」


「本当。ってかセリナ、いつの間に火球フレイムスフィアまで習得したの?」


「あぁ、あれはその……なんというか」


 ミリアの質問にセリナも何と答えるべきか迷った。


「あの火球、威力と速度も並以上よ!」


「本当ビックリだよ。正直フィガロが一限目に出した土球サンドスフィアと引けを取らないかも」


「火球っていうか、確かに私が出したのはそうだけど。元々はそればっか使ってたから……」


 セリナの返答にさらにカティアは驚く。


「はぁ、嘘!?でもあなた筆から出たのは、風と水の2属性じゃん」


「あれは正直私でもわからないわ。だけど強いて言うなら、火属性なら多少自信があるってだけで」


 セリナの言葉を聞きさらに混乱が広がる。この時点で2属性ではなく、3属性のスフィアを放つことができる。そんな魔導士は彼らの身近にはいない。


 しかしセリナもその反応を、なんとなく察したようだ。理解されるかどうかわからないが、彼女なりの説明をしてみた。


「私、得意魔術がわからないっていう話したでしょ? だから昔から私、あれこれと自己流でいろんな術を究めようと訓練してきたの。それで……」


 セリナの長い説明を遮ったのは、オルハだった。


「ほかの属性にもあれこれ手を伸ばした結果、結局どれも究められず、今に至るってこと?」


 オルハの言葉にセリナは黙って頷いた。そしてカティアはさらに興味深い質問をぶつけた。


「もしかして、土も扱える?」


「スフィアは無理だけど……バレットなら……」


 カティアの質問にセリナは実際に、術を出して証明して見せた。セリナは左手で少量だが、石弾ストーンバレットを作り出した。カティア達は驚愕の目で見つめる。


「よ、四属性って……」


「いずれは、土球も出せたらいいなって……」


 セリナはまだ土術は訓練中であることをアピールしたが、さらなる驚愕な事実を耳にしたことで、ホークとザックスもますます彼女に尊敬の眼差しを向けた。


「凄すぎでしょ、もう四属性も扱えるとか!はは恐れ入りました!」


「やっぱり、天才肌ですなぁ」


 相も変わらずホークとザックスのべた褒めタイムが始まった。すると、ホークが意を決したかのように姿勢を正し、まるで紳士のような振る舞いでセリナにお願いした。


「ぜひ、自分をあなたの弟子にしていただけませんか?」


「ちょ、そんな! 私に師匠なんか……」」


 突然のホークの言葉にセリナは戸惑うしかない。しかし、それを見たカティアとミリアは不快な気分が収まらない。


(もうまたコイツったら……)


(本当ウザいわ……)


 だがそんな不快な時間もアグネスの一言で終わりを告げる。


「第2グループ、残り二人早く出なさい!」


 その声にギョッと反応したのはカティアとホークだった。


「あぁ、しまった。そうか!」


「忘れてた、俺第2グループだった」


 カティアとホークが急いで校庭の中央に行き、対戦相手を待っていた生徒の前へと立った。


「カティア、頑張ってねぇ!」


 今度は逆にセリナが応援する側になった。カティアはその声に黙って笑顔で返した。


「おい、ホーク。せめて俺にやられてくれよ!」


「うっせぇよ!」


 ザックスの皮肉がこめられた応援にホークは思わず声を上げた。が、当然のようにアグネスの注意が突き刺さった。


「ホーク、静かに!」


「は、はい……」


 それを見たカティアとミリアは少しいい気分になった。


(ざまぁ)


(アグネス先生もっと叱ってぇ)


 直後アグネスが開始の合図を告げた。そして生徒達が一斉に筆を取り出し、術を放ち合った。


(へぇ、みんな凄い!)


 自身が戦闘していたさっきまでと違い、今度は観戦する側になったセリナは、あちこちで術を放ちあう光景が新鮮だった。とても自分では叶いそうにないレベルの術を放っている生徒もいて、思わず圧倒されそうにもなった。


 攻撃術がぶつかる音、そして生徒達の応援する声が響き渡る。カティアもその中で必死の攻防を繰り広げていた。カティアは目の前にいた男子生徒の土の魔術に苦戦しながらも、水の防御膜を張り巡らし被弾を防いでいた。


 これはさっきセリナが張っていた防御術とは、少し違っていた。そのことに気づいたオルハは早速セリナに質問した。


「ねぇ、セリナ。ちょっといい?」


「え、オルハ? どうかした?」


「実は……」


 その時だった。セリナ達の目の前の地面に、どこからともなく魔導筆が降ってきた。


「こ、これって……」


「あぁ、見てあれ!」


 なんとカティアと対戦していた生徒の手に魔導筆がない。


「まさか、カティア!?」


「筆を弾き飛ばしたの?」


「うわぁ、さっき先生が言ってたやつじゃん」


 一瞬のスキを突いたカティアが、強烈な水鉄砲アクアガンを生徒の魔導筆に直撃させていた。その光景を見たセリナ達も思わず声を上げた。


「スゴォい、カティア!!」


「なんて命中精度!」


 筆を飛ばされた生徒は動揺を隠せない。そんな生徒に容赦なく筆の先端向け続け、強烈なスフィアを作り出した。今にも放たれる寸前だったが、カティアがギリギリで制止させている。


 実質勝負はついたようなものだった。


「まだ戦う?」


 カティアの問いかけに女子生徒はやや躊躇ったが、しばらくして顔を全力で横に振った。その直後右手を上げ降参を認めた。


 カティアも筆を収め、ほっと一安心した。


「カティア、おめでとう!」


「大したもんね」


 カティアもセリナに続いて勝利の祝いをもらった。


「それにしても、さっきの水鉄砲……」


「命中精度あそこまで高くできるだなんて信じられない!」


「まぁ、あたしは水しか取り柄ないから」


 だがミリアは強気な姿勢だった。


「たまたま、でしょ?」


 少し小馬鹿にしたような態度に、カティアは思わずムキになる。


「ちょ、どういう意味よ、それ!?」


「あなたがやったのは筆を弾き飛ばしただけ。相手をダウンさせてないじゃない」


 確かにミリアの言う通りだった。その前に戦ったセリナは相手をダウンさせ文句ない勝利だったが、カティアは筆を飛ばし、相手に降参と言わせただけだ。


「ルール上は問題なく勝利です!」


 カティアは強気な姿勢を崩さない。


「そうよ。それに筆を弾き飛ばすのも立派な戦法だって、先生だって言ってたじゃない」


 オルハもカティアに同調した。


「筆を弾き飛ばすなんて、私とてもそんな真似できない。命中精度かなり上げないと無理な芸当よ」


 セリナもカティアの戦いを褒めた。


「ふん、まぁいいわ。私はそんなことせず、正々堂々と戦って、正々堂々相手を打ち負かすわ!」


 するとそこにホークが暗い表情で戻ってきた。


「あれ、お帰りなさい、ホーク!」


「あぁ、た、ただいま……」


 うかない表情は消えない。どうしたのかとセリナ達も質問した。その質問にホークは誤魔化すのに精一杯だ。


「い、いやぁちょっと気分悪くなってね。少し……席外していいかな?」


 その暗い表情の原因を誰よりわかっていたのはザックスだった。


「おい、ホーク。俺にやられる前に負けるなって言ったよなぁ……?」


 ザックスの怖い声でセリナ達も理由はわかった。


「あぁ、ホーク。残念だったわね……」


「また次があるわよ」


 カティアとミリアの二人は内心悦びに溢れていた。


「し、仕方ねぇだろ! 相手は確かサロニア中学の首席……じゃなかったっけ……?」


「もしかして、ダリル……?」


「い、いや……違うけど、金のブローチつけてたよ」


「あぁ、そういえば、ダリルってどこ? あいつ、まだ戦ってないのかな」


 その時だった。急にオルハの様子がおかしくなり、全員から目を背け下を向いた。


「どうしたの? オルハ……」


「……」


 オルハは黙っていたが、その様子から何を言いたいのかすぐに伝わった。


「もしかして、ダリルの対戦相手って?」


「ごめん、黙ってて……」


 不安なオルハを尻目に、アグネスの第3グループの準備開始の掛け声が上がった。


「あ、私第3グループだった!」


「あぁ、俺もだった!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る