第4話 驚愕の自己紹介
アグネスがついにセリナを指名した。改めて、自分の自己紹介の番が来たことに緊張が隠せなかったが、それでも平静を装い、カティアが席に着いたのを確認して、立ち上がり教壇の上へと上がった。
セリナは深呼吸して自己紹介を始めた。自分の入学試験での順位と点数は忘れ、堂々とはっきり話すことだけ意識した。
「皆さん、初めまして。セリナ・フォード・オコーネルです。ラングラン中等学校から来ました。この度入学試験を何とか突破出来て、こうして偉大なる魔法学園エルグランドへ入学することができました。私も皆さんと精進し一流の魔導士を目指します。よろしくお願いします!」
セリナの自己紹介に盛大な拍手が送られた。カティアも盛大に拍手した。何名かの男子生徒が自分のことを食い入るように見ていたのが目に入ったが、セリナは見なかったことにした。
だがその直後、アグネスから自分が言い忘れたことを指摘された。
「あなたの得意魔術は何ですか?」
「え?」
「得意魔術です、何もないことはないでしょう?」
得意魔術を言っていないことを指摘されたが、忘れてたわけではなく敢えて言わなかった。実はそれこそ、周りから自分の魔術の腕が上がりにくい最大の原因とも言われていた。
そのため敢えて口にしたくなかったが、よく考えればそれまで自己紹介した生徒は珍しい魔術もあったものの、みな得意魔術を口にしていた。
さすがに自分だけ黙っておくのも無理があると思い、セリナも無理に隠すことはせず堂々とさらけ出そうと決意した。
「得意魔術は……ありません!」
その言葉に一同面食らった。得意魔術がないということはどういうことなのか、生徒達が不思議そうな目でセリナを見ていた。
「得意魔術がないということは、すなわちあなたは……」
教師であるアグネスはセリナの言わんとすることを察していたようだ。
「さしずめ、どれにも特化しないバランス型、と言いたいのでしょうか?」
「……」
セリナは黙っていた。だが生徒達は納得いかない様子だった。
「バランス型とか本気?」と不思議に問いかける声もあれば、「普通どれかに特化してるでしょ?」とやや軽蔑するような目で見る生徒もいた。セリナも完全に自分が浮いた存在だと認識し、顔が赤くなった。
(はぁ、やっぱりこうなるか……)
その言葉に1位であるフィガロとロゼッタも驚いていた。特に驚いていたのはロゼッタの方だった。それまでずっと人形のように表情も大きく変えることなかった彼女が、アグネスの言葉を聞いただけで、目を広げセリナを睨め付けた。
そんな強烈な視線に気づいたセリナも戸惑うだけだった。セリナは彼女の真意こそわからないが、心の中で強く訴えたいことがある意思は感じた。すぐ目の前にいたカティアも目が点になったような表情をしていた。
「はい、皆さん静粛に!」
アグネスが両手を大きく叩き、騒めきを鎮めた。
「“バランス型”という言葉で、そこまで拒否反応示してはいけません。一流の大魔導士たるもの、最終的に目指すべきはそこですから。それに……」
アグネスは自分の名前を書いた筆を手に持って、さらに説明を加えた。
「明日の授業であなたの得意術は嫌でもわかりますよ。ですから安心して」
「え、あ、はい?」
セリナは戸惑った。「明日の授業でわかるとはどういうことなの?」と聞きたかったが、その質問をする前に、一人の男子生徒の質問が飛んできた。
「あの、もしかしてあなたは?」
「オコーネルと言いましたね。ってことはあの大賢者の……」
部屋の中央に座っていた男子生徒の何人かが質問した。が、それをアグネスは寸前で遮った。
「ごめんなさい、あなた。質問は全員の自己紹介が終わってからにしてね。はい、次の生徒ここに来て!」
セリナもそれを言われて足早に自分の席に戻った。ようやく自分の自己紹介が終わってホッとした。なんというか、かなり長く感じた。というより、「得意魔術がない」という言葉のせいで余計にほかの生徒より長引いたのだ。
カティアはセリナの方を振り返った。小声で「ナイス自己紹介!」と褒めちぎった。ナイスかどうかはわからないが、セリナも「ありがとう」と小声で返した。
その後に残った生徒の数は8人いた。順番に自己紹介を終えつつあったが、それでもセリナに視線を送っていた生徒が何人かいた。
特にさっき質問しようとした中央の席に座っていた男子生徒2名は、まだセリナのことを見ていた。それ以外の生徒も何人か見ていたのに気づいた。自己紹介が終わって、自分への視線の数が増えていたが本名を堂々と曝け出した以上、こうなることはある程度予想はしていた。
そして最後の生徒の番が回ってきた。男子だったが、順番が最後ということもあって、周りの生徒もやや疲れが溜まっていた。正直フィガロとロゼッタ、そしてカティア以外は碌に顔と名前も覚えていなかった。
物覚えが悪いと自覚しているセリナも、全員の顔と名前を一回で覚えられるわけはない。最後の1人も適当に聞き流そうとしたが、その男子生徒の口からとんでもない言葉が出てきた。
「初めまして! 俺はトール・メルケル・ダンカです。ポルース中等学校から来ました。俺の得意魔術は……」
その後に出てきた言葉で、セリナは反応せざるを得なかった。
「得意魔術はないです。俺もバランス型です!」
なんということか、一番最後に自己紹介した黒髪の男子生徒が、セリナと同じことを言いだした。身長もそれほど高くない、セリナと同じくらいで見た感じ屈強そうにも見えなかった。
そんな男子生徒ですら、自分と同じことを口走った。もしかしたら自分の発言が彼を触発させたのかも、セリナはそんな想像してしまった。
もちろんその言葉に反応したのはセリナだけではない。周りの生徒も溜まっていた疲れを忘れ、また騒めきだした。一応拍手は送られたが、明らかに冷ややかな反応をした生徒が多かった。
「あなた、自分が何位だか知ってる?」
アグネスは念のため、トールに質問してみた。
「さ、314位でございます!」
それはトールだけでなく、セリナを含め周りの生徒も全員知っていた。自己紹介する順番は入学試験の順位と同じなのだ。当然最後に自己紹介するということは、言わずもがなだった。
だがセリナはトールをある意味尊敬したくなった。
(あの人は自分より順位が低い。いやそれどころか合格ギリギリの点数、それなのに自分と同じ……)
セリナは自分が恥ずかしい気持ちになっていたことが馬鹿らしくなった。最下位の男子生徒ですら堂々とはっきり言ったのだ。もちろん自分が先に言ったおかげかもしれないが、少なくとも彼の方が点数的に自分より劣っていることは明白だ。
アグネスもトールの気持ちを理解したうえで、再確認した。
「一応言っておきますが、本当にあるのなら正直に言った方がいいですよ?」
「いえ、ありません。本当にバランス型です!」
「わかりました、もう何も言いません。まぁ、あなたも明日の授業次第ですね」
トールは若干照れながらも、素早く自分の席に戻って行った。ほかの生徒の視線が今度はトールに集まった。セリナも彼の方に視線を配った。そしてトールと一瞬目があった。
トールもセリナが自分と同じ立場と知っていたのだろう、視線が合った瞬間若干の笑みを浮かべた。表情だけで「お前だけじゃないぜ」という言葉が聞こえた気がした。
全員の自己紹介が終わり、アグネスが教壇に上がって、両手を大きく叩き全員の注目を自分に向けた。
「皆さん、静粛に! では、これよりあなた達を生徒寮へ案内します。そこで簡単な寮での暮らしの規則の説明をし、本日の日程は終わりです。明日から、正式に授業開始となります。では、皆さん起立!」
アグネスが全員に起立を促し、全生徒が立ち上がったのを確認すると、教室の外に出て全員を誘導した。それに生徒達も続いて、外に出て西校舎の隣にある生徒寮へと向かった。
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