ギルドの愉快なやつら
「俺は漆黒のアドランゼル!」
「わたしは麗しきピンチー!」
「わたしは疾風のリーゼ!」
「「この町の平和は」」「俺」「「わたし」」「「達が守ーる!」」
扉を開くとそこにはヒーロー戦隊さながらにおのおの個性的なポーズを決める男女三人組がいた。突然の出来事に俺が驚くことはない。なぜなら、俺はもう彼らのこの奇行にもう慣れてしまっていた。
「 ハンターギルドに来る度、誰かに仰々しく名乗られすぎて待ち構えられてるんじゃないかって疑うレベルなんだけど」
「そりゃあ待ち構えてるからな」
そう言って、「くくく」とアドランゼルが無駄に黒いマントをばさりとはためかせて笑う。
アドランゼル。
彼と、彼とよく一緒にいるピンチ―とは年が近く、よそ者であるはずの俺へもぐいぐい寄ってくる距離感がイカれた奴らだったこともあり、最初は戸惑ったものの今では敬語を使わずに話すくらいの仲になっていた。
アドランゼルは基本的に馬鹿だが良いやつではある。のだが、こいつを見ていると昔の、具体的には中学二年生頃の黒歴史を思い出して胸が苦しくなるのが辛いところだ。
「おまえら、ずっと扉の前でスタンバってたっていうのかよ」
とんだ狂気じゃないか。
「いやいやー。ポーズを取るのは足音が聞こえてきてからだよ。さすがにずっと扉の前でポーズ取ってるほど暇じゃないし」
そう言って屈託なく笑うのはピンチ―。数の少ない女ハンターだ。底抜けに明るいところがどことなくマルベルさんに似ていて、こちらも見ていると胸が苦しくなる。
「おまえら、誰かの足音が聞こえるたびにこんなことやってるのか?」
ドン引きだぞ。
「いやいや。さすがに初対面のやつにはやらないよ。ちゃんと足音で相手は選んでるから」
「へー。そんなことできるのか。すごいな」
「でしょー! わたしは耳が良いかんね」
へへへとピンチ―は自慢気に鼻の下をこすった。
「まあ、精度は70%ってところだが」
アドラゼルがくくくと笑う。なんともいえない精度だった。
「ハンターは足音消してみんなしておんなじ感じだから分かりづらいだけで、普通の人には100%だから! 間違えたとしても身内だから恥ずかしくない!」
あの大げさな自己紹介をすること自体は恥ずかしくないのだろうか。
「とにかく、さすがに一日中扉の前で待機してるほど暇じゃないよーって話」
「だが、こうしてポーズを取っておまえらを待ち構えるくらいには暇、なのさ」
アドランゼルはフッとキザに笑って前髪をかきあげた。もっと他にマシな暇つぶしはないのか。
「おい雑魚! 死の洞窟まで行って死んでないってことは、やっぱそれすげーんだな。早くわたしの分作ってくれよ」
高圧的に、けれど下から見上げてくるちっこい子は、ハンターギルドの長であるボルドルさんの娘で、テトの義理の妹? らしい女の子リーゼ。
年齢は聞いたことがないけど、背丈からするとエルと同じくらいだと思う。父親と同じ真っ赤な癖っ毛が彼女の性格をよく表している。
ハンターになりたいらしく、リーゼにとって女性でハンターとして活躍してるピンチーは憧れの対象らしい。今も髪をわさわさといじられても文句一つ言わないどころか、むしろ嬉しそうだ。
瘴気の耐性が著しく低いことで見下されているらしく雑魚呼ばわりの俺とは雲泥の差である。
「これ、今急ピッチでホメロスさん達が作ってるらしいけど……まあもうちょっと待ってくれ」
リーゼが指さしたのは、俺の腰にぶら下がったガスマスクだった。
ハンターのみんなには標石を取りに死の洞窟へ行ったとは話したが、標石は見つけられなかった、ということになっている。つまり、俺たちが死の洞窟から生還したと証明するものはなにもないわけだ。けど、ハンター達はみんな、俺の、というかテトの話を信じた。
ハンター達がみんなして人を疑わないお人好し、というよりもこれはテトの信頼が大きい。テトの話だから、彼らはホラとしか思えないような胡散臭い話をあっさりと信じてくれた。
「というかおいテト。おまえなんか今日変」「リーゼ、無駄話は後にしてボルドルを呼んでくれ」
それまで黙っていたテトがそう告げるのを、アドランゼルとピンチ―も訝しげに見ている。がテトはそのことに気づいてもいないようだった。
「……へーい。父ちゃ~ん!テトが呼んでるー」
いつもなら自分の話を遮られたらむきーっと顔を真っ赤にして襲いかかるリーゼも、素直にボルドルさんを呼びに行く。
テトが目に見えて焦っている姿は、俺よりよほど付き合いが長いだろうハンター達からしても異常事態らしかった。
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