強者の寿命


 ハンターには定められた寿命がある。俺がそのことを知ったのは最近も最近。死の洞窟から帰ってきた後だった。


「標石は壁外にとって薬にもなりますが、猛毒にもなりうるものです。取り扱いは慎重に行ったほうがいい」


 だから、当面の間、孤児院の外に標石の存在は漏らさない方がいいと言う神父様に噛みついたのは、俺じゃなくテトだった。

 結局は一歩も引かないテトに神父様が妥協する形で、標石を手に入れたという話はハンターにのみ公開し、その他の人々へはまだ非公開のまま、ということで落ち着いた。


 その神父様とテトの話し合いに出てきたのがハンターの寿命である。


 魔物化を避けるため、ハンターは三十歳なったその日に死ななくてはならない。そんなバカみたいな法が、壁内外で定められているらしい。つまりは処刑だった。


 なにも悪いことをせずとも、三十歳でハンター達は死ななくてはならない。そのことを寿命と、そう表現しているのだ。まるでそれが避けようのない運命だとでも言うように。


「なあ、なんでハンターだけ殺されなきゃいけないんだ」


話を聞いていて、そこだけがずっと引っかかっていた。


「瘴気の耐性が高いやつは、魔物になりやすいってのは前に聞いたよ。だけどハンターだけっていうのはおかしな話だろ。ハンターどうのこうの関係なく、長生きしてるってこと自体が瘴気への耐性が高いってことだ。なにもハンターに限ったことじゃない。なのに寿命が定められているのはハンターだけって、おかしくないか?」


 この法が、ハンターにだけ適応されるというのが納得できない。しかも普段絶対に壁の内側からこちらに出て来やしない壁内から執行人が来るという徹底ぶりだという。


「ハンターになってその年まで生き残るやつっていうのは、たいてい魔物を凌駕する強さを持ってる。そういうやつが魔物になるとね、厄介なのさ。神父様の話じゃあ昔、そういった強者が魔物と化して凄まじい被害が出た記録がいくつかあるらしい」


同じ種類の生き物が魔物化しても、個体差が出るのか。まぁ蜘蛛が魔物化したら、みんなあの死の洞窟にいたような化け物蜘蛛になるってのはちょっと考えられないのは確かだった。


「そういう経緯があって、ハンターの寿命は三十年。そう定められてる。だから正確に言うなら、管理されてるのは他を圧倒する強者の寿命だ。でも壁外じゃあそんな存在、ハンターくらいしかいないからね」

「それ、強い弱いって判断が難しくないか?」


強さを隠すとか、色々と抜け穴が多そうに見えるのだが。


「判断できない程度の中途半端な強さは問題じゃない。それにこの世界は弱者に優しくないからね。強さを隠して生きていけるほど甘くない。わかるもんなのさ。人間ながら化け物なやつっていうのは」


 確かにハンターであるテトは、とても俺と同じ人間と思えないほどに圧倒的な強さを持っている。ならこいつも、三十歳になったら死んでしまうのだろうか。悪いこともせず、むしろ、魔物を殺し続け街の平和に貢献し続けても、なお平和のために殺されるのだろうか。


 この壁外じゃあ三十歳まで生きられたなら大往生。以前テトがそんなことを言っていたのを思い出す。だから、ハンターの寿命が他と比べて短いというわけじゃあないんだろう。でも……。


「不服そうだね」

「当たり前だろ」


 なら仕方ないだなんて、思えるわけがない。命をかけて街の人々を守る彼らが、まるで家畜同然の扱いをされるだなんて。


「お前はどうなんだよ。こんなふざけた話、納得してるのか?」

「そうだね」


 ふむと、テトは腕を組んで一瞬考える素振りを見せる。


「ハンターっていうのは、そういった事情も全部分かってなるものだ。死ぬ覚悟と殺す覚悟。両方できてるやつしかハンターにはなれない。そんなハンターであるぼくから一言言わせてもらえれば」


 テトは一呼吸置き、


「クソ喰らえってところかな」


 そう吐き捨てた。



 そう。テトはそんなふざけたルールに縛られたハンターだ。俺とおんなじどころか、それ以上に納得なんてできるわけがない。


 こんなふざけたルールに納得した、なんて言ってるやつは安全圏から見下ろしている傍観者か、自分を騙してるバカだけだ。


 だからこそ俺たちは今標石を持ってハンターギルドに向かっている。そのクソみたいなルールを撤廃させるために。

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