第4話 僕と莉花

さっきはとても焦った、何せお風呂に行ったきりあの女の子が全然戻ってこないのである。


女の子のお風呂は長いと聞くがこんなに長いのか?


一応ベットに敷いてある布団は新しいのに変えておいた、洗ったばっかりであるが自分が普段寝ている布団を使わせるのは悪い気がして。


お、あったあった、来客は少ないけど、客人用の寝巻きを用意しといてよかった。


布団を敷き終え寝巻きの用意ができて、さてお風呂に置こうかと思って時間を見たところ30分くらいたっていた。


「おーい、ここに寝巻き置いておくからなー?」


……返事がない、やはり寝巻きを置きに来たとはいえ、年頃の女の子いるお風呂まで来るのはまずかったか。


「んじゃあっちで待ってるよ。」


あまり居ても勘違いさせそうなので早めに撤退しよう思ったが、何か聞こえた。


「ん?なにか言ったかい?」


よく耳をすませると、寝息のようなものが聞こえた。


え、おいマジかよ!!


俺は風呂のドアを勢いよく開けるとそこには気持ちよさそうに寝ている彼女の姿があった。


「おい!おきろ!何寝てんだよ!」


半身出ていたので大事には至らなさそうだが、それでも俺は彼女の肩を掴みちょっと強めに揺さぶった。


程なく彼女は目が覚めた。


この時俺はこいつの事を俺の近くにいる間だけでも助けてやろうと誓った。


あまりにも可哀想に見えたからである。


「あ、あの名前まだ、聞いてなかったんだけど……」


あれ?そうだっけ?そうなると名前も知らない男の家に上がり込んできてる事になるんだけど、この子大丈夫そう?ダメだと思います。


「僕の名前は色島玖呂戸、呼び方は任せるよ、君の名前も聞いていいかな?」


「私は、藍園莉花です、色島さん助けてくれてありがとうございます。」


その後彼女から再度お礼を言われ僕はちょっと恥ずかしくなったので、その場から逃げるようにリビングへと戻った。


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リビングへ戻った僕はなんだか、具合が悪くなってきたので、薬を飲むことにした。


今日は無理をし過ぎたのかもしれない、普段あまり誰かと関わりを持とうと思わない僕が、困っていそうなJKと会話をする、ましてや家に連れ込んでるなんてどうかしている。


PCをただ適当に見ながらそんなことを考えていた。


「あの、お風呂上がりました、」


振り返ると置いておいた寝巻きに身を包んだ藍園さんが立っていた。


綺麗だなぁ、JKだってことが驚きなくらい大人び美人さをはなっている。あと、同じシャンプーなのにめっちゃいい匂いするのなんでだ?


きっと彼女も今日は、いや、今日に至るまでとても過酷なものがあったのだろう、今日は寝せてあげた方が良い。


僕は藍園さんに寝室の場所を教えるとお礼を言われたので冗談で流すように返してやったのだが。


「お言葉に甘えさせて寝させていただきます。色島さん、おやすみ♡」


おい、お前そんなキャラじゃなかったろ!その容姿からはなたれるウィンクで何人死人が出たか数え切れないぞ!俺はウィンクごときで死なんがな!!病死はする。


藍園さんが寝室に行くのを見届け、我慢していた咳をする。


…咳して血吐くとか僕はそんなに良くないのか。


水を飲み、今日はソファで寝る事にした。寝室は1つしかないかだ。

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目が覚めて、外を見るとまだ薄暗く街灯もチラホラついている。スマホで今の時間を見てみると4時30分と書かれていた。


この街になんの思い入れも思い出も無いが、いつまで見れるか分からないので、散歩でもして見てみることに決めた。


8月の中頃に差し掛かる今日だが、朝方はちょっと涼しい感じだ。散歩には持ってこいの気候である。


へぇこんな所に居酒屋なんてあったんだ、何年もここに居るが知らなかったな。


会社と家を往復する毎日で、趣味何てものは持ち合わせてない僕はこの街を散歩した事なんて無かった。その分今になって発見が多かった。

***

なんだかんだ歩っていると太陽は8月の猛威を振るおうかと準備しているように周りは明るくなってきた。


「だいぶ遠くの方まで歩って来てしまったな、戻るまでちょっと時間がかかりそうだ、飲み物でも買って戻るか。」


時刻は6時を指していた。


行きと帰りではまた別の景色に見え、更には色々な店があることに気づいた。僕の目を引き付けたのは1つの洋服屋さんである。


窓越しではあるものの、スマートなパンツ物やフリルが控えめに着いたスカート、革ジャンなどのコアな物まであるように見えた。


きっとあいつが着たら、全部着こなして綺麗になるんだろうな。


別に特別な感情が藍園さんにある訳では無いが、彼女のスタイルは僕が生きてきた中で1番美しいと思う。だからこんな事を考えたのだろう。


おっと、こんなとこで道草食ってたらいつまでたっても家に付かないな、早く戻るか。


もうだいぶ人も出て来て会社に行く、サラリーマン達、学生などで道はちょっと歩きずらくなっていたが、僕は足早に家へと戻った。

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だいぶ時間がかかってしまったがようやく家に着いた、自分家の中に誰か居るなんて、なんだか、新鮮でちょっと緊張してしまう。


よし、行くか!


ドアノブを回し扉を開けると、ほのかに香る優しい匂いが漂っていた。


「お?いい香りがするなぁ」


そんな事を言うのは初めてだ、誰かが何かを作ってくれる事など無かったからいつもの自分で料理も洗濯物全てこなしていて、誰かに作ってもらった匂いでこんなに食欲がそそられたことなど初めてだ。


そんな事考えている内に、奥の方から藍園さんちょっと不安げな顔で出て、どこに行っていたのかを聞かれたのでコンビニだと答え飲み物を渡した。


散歩の最後にコンビニよったのだから嘘ではない。


美味しそうな香りがしているから僕は早くご飯が食べたいなぁ


その旨を伝えると早速用意してくれた。人の作ってくれたものを食べるのは何年ぶりだろうか、とても楽しみだ。


程なくして彼女の手から渡されたものに僕は驚いた。


え、お粥?ん?まさか俺の病気のことは伝えてないはず、なぜ分かったんだ?


お粥だった理由を聞くと彼女は昨日の晩僕の咳が聞こえ、風邪でも引いてるのかと思い労りを込めて作ってくれたらしい。


なんていい子なんだろう、こんなにいい子をまるで性欲を晴らすためだけに良いように使っていた、大人が許せない。ましてや、そんな人が居ることも信じたくはない。


そしてその時は来た。


「それでは、約束通り出ていきますね、短い間でしたが、優しく招きいれてくれてありがとうございます!」


そんな悲しそうな顔で言わないで欲しい、涙が零れそうな目で訴えないで欲しい。


僕はその辛そうな顔を見たくないが故に咄嗟に、いや、元からもうそうしようと思っていたのかもしれない。


「あぁ、その事なんだけど、もし、藍園さんが良かったら、まだ家に居てくれないか?普段は外食で済ませているがこんなに美味しいご飯を家で食べれるならそっちの方が都合がいいし」


照れ隠しで最後は適当なことを言ったが、彼女には居て欲しい、綺麗な顔を汚い社会でこれ以上汚さないで欲しい。


そんな事、綺麗事だとわかっていても俺のそばに居る間だけでも綺麗な世界で生きせてあげたい。


偽善でしかない、永遠には続かない幸せの思考を巡らせていると彼女はハグをしてきた。


……苦しいぃ……これ技決まってないか?


何はともあれ喜んでくれて居るみたいで良かった。


藍園さんは僕にハグしたまま下の名前で呼ぶ事を勢いよく言ってきた。ならば僕も下の名前で呼ばれたいので、僕も許可した。


なんだか、ちょっとだけではあるけど仲が縮まったような気がして嬉しかった。


……なんで、喜んでんだよ俺、別に好きでもないのに。


俺は長年誰とも深い関わりを持たないようにしているせいか、名前呼びし合える仲になったのがちょっと新鮮なだけだ。


思考をめぐらせいると莉花が僕の仕事の時間が大丈夫なのか尋ねてきた。


まぁ今日は昼出勤の許可出てるし、比較的会社の場所も近いのもあってかなり余裕を持ってもいいかな。


とはいえ、このまま莉花と居ると離してくれなさそうなので早めに行くことにしよう。


三雲社長にも話があるし。


会社の事を考えてる時ふと今日の散歩のことを思い出した。


そういえば莉花はこの服以外持っているのがろうか?多分この様子だと持ってないだろうから買ってやるか、ないと色々不便だしな。


俺は財布から適当に現金を渡した。持ち合わせは少ないわけじゃないから適当に渡したところであまり減ってない。


お、5万も行ったのか、ちょうどいいか。


お金を私適当に買ってきて欲しいものだが、バイトして自分で買うと言っていたので、そんな事したら他の人の家に泊まってた時のやつと鉢合わせかねない、

そうなると色々厄介なので適当な事を言って丸く収めようと思ったが、結局2人で買いに行くことになってしまった。


そろそろいい時間だし、会社に行くか。


僕は莉花に会社に行く事を伝え、支度し玄関から出ようと思った時に彼女に呼び止められた。


正直俺の仕事は伝えてないから忘れ物なんて彼女は分からないはずだが、と思いつつ振り向くといきなり顔を手で押さえられた、正確には口当たりを、


ん?何するん---


その瞬間、莉花の美しい顔が俺に重なろうとして、彼女の小さい壁がそれを半の少しだけ遮る。


頭は真っ白になったが、感覚的に3秒経つくらいだろうか俺の脳は正常に機能し始め、状況を整理し、擬似的にではあるがキスされた事にきずく。


正直めちゃくちゃ恥ずかしかったが、感謝の意味が籠っているようでそれ以外の他意は無いようだ。


まぁ莉花がそう言うなら俺はそう言う事にしとこう。


俺が玄関を出る瞬間まで手を振ってくれた莉花を横目に、こんな事を思っていた。




だけどな、莉花、俺はそんなにいい人じゃないし、お前がいくら好きになっても俺はお前の事を好きになれない。なぜなら俺は来年にはこの世に居ないのだから。

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