第3話 色島さんと私
コンビニにから約10分ぐらいの所に彼の自宅があった。
「さっきまで寝てたものだからちょっと散らかってるけど気にしないでくれ。」
乾いた笑いをしながら私を家へ招いてくれた、彼が言うほど散らかってないと思った、むしろ今まで転々としてきた中で一番綺麗だった。
……今までの人が汚すぎたのかも、慣れって怖いなぁ
「夜ご飯は食べたかい?僕は見ての通り今からだ、コンビニ飯だけどね」
「いえ、大丈夫です、コンビニで私も済ませたので」
本当はあのキモ男の家から飛び出す前にディナーに誘われ、ちょっとお高めのを食べた、けど別に言う必要が無いと思ったから適当な嘘をついた。
「そうか、なら風呂入るか?コンビニに行く前に湯を張っておいた、僕はまだ入ってないから綺麗なはずだからゆっくり入っておいで。流石にその格好だと寒いだろうから、客人用の服を置いておくよ。」
「あ、ありがとうございます、、、」
なんでこんなに優しくしてくれるんだろう、綺麗に洗った所を狙っているの?
彼のあまりにも優しい対応に私はなにか裏があるんじゃないかと疑ってしまう。朝ごはんを作るだけで泊まらせてくれるのだっておかしい話だ、
「…温かいなぁ、久しぶりにこんなに体を伸ばして入ったなぁ」
お風呂に居てもリビングに居てもどこに居たって体を狙われていた4ヶ月間のことを考えながらゆっくり湯船に浸かりふと眠くなってしまった。
(…おい、おい!!起きろ!何で寝てんだよ!)
「っは!」
優しくも力ずよい声で私は起こされた、どうやらいつの間にかお風呂で寝ていたらしい。
危なく死んでしまうところだったと思うと心拍数が上がってしまう。
「良かったぁ、声をかけても返事がしない上にちょっと寝息が聞こえたものだから、心配して開けてみたら寝てるんだ、焦ったよ」
両肩を優しく掴まれながら、安心したように目を見て言われてしまった。
今日肩を掴まれたのは2回目だが悪い気はしなかった。
…むしろ目は死んでいるのに、私には必死になってくれた彼がちょっとかっこよく見えてしまった。
「あ、ありがとうございます。」
お風呂に入る前は目を見て言えなかった言葉だが、今は自然に視線が彼のことを捉えていた。
「あ、あの名前まだ、聞いてなかったんだけど……」
「ん?あれそうだったかな?僕の名前は色島玖呂戸(しきじまくろと)呼び方は任せるよ、君の名前も聞いていいかな?」
「私は、藍園莉花(あいぞのれいか)です、色島さん、ありがとうごさいます、助けてくれて」
ちょっと恥ずかしいけど、二つの意味を込めて色島さんに言った、伝わらなくてもいいけど、伝えたかったから。
「何回も言わなくてもいいよ、それより体が冷めないうちに上がりなね藍園さん」
下手な笑みで言われてしまった、それでも私は安心した。
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「あの、お風呂ありがとうございました、」
置いてあった寝巻きに着替え、リビングに戻るとなにか調べ事をしながら真剣にPCを見ていたので、驚かせないよう一声かけた。
「ん?おぉ、サイズがあっててよかったよ、風呂で寝るくらい疲れているんだろ?寝室ならそっちだからもう寝てもいいよ?」
「え、いや、あの、そのぉ、、」
「ん?どうしたんだい?」
「いえ、なんでもないです、何から何までありがとうございます。」
「いやいや、問題ないよ、しっかり寝てもらわないと明日の朝、朝食を作ってる時に寝ぼけながらやられて怪我されたら困るからね」
冗談のように色島さんは言ったがその言葉に裏などないような爽やかな笑顔で言われた。
ずるい
「お言葉に甘えさせて寝させていただきます。色島さん、おやすみ♡」
さっきからその優しさが私の凍っていた部分を溶かしてくれるようで、なんだか、好きになってしまいそうだった、私はお返しとばかりにウィンクをして返した。
寝室に行くと1人用のベッドに綺麗に布団が敷かれていた。これもまた久しぶりなのだが、一人で寝るなんていつぶりだろう。
そんなことを考えているとリビングの方で咳き込んでる彼の声が聞こえた。
大丈夫かな?なにか水でも持っていった方がいいかな?でも、何かされるのはもしかして迷惑だったりするかな?
色々不安やがよぎるがそんなことを考えている間に彼の咳は収まっていた。
明日は美味しいご飯作ってあげよう。
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パッと目が覚めると朝の5時30分である。昨日寝たのが1時30分頃だったと思うとあまり長い時間寝てはいないものの、とても快眠だった。
脱衣所へ行き顔を洗って気がついたが、手紙と一緒に歯ブラシとコップ、歯磨き粉まで用意されていた。
ここまでされると、ほんとに悪いけど、逆に使わない方のも失礼な気もするし、、
今日の朝までとは言ったが、こんなにしてくれるのは後にも先にも多分この人だけだろう。
この人となら他の男と違って居ても安心するから、ずっといたいなぁ。
甘い自分勝手な思考をめぐらせつつ歯を磨いた
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台所へ行き冷蔵庫の中を見ると食材は結構入っていた、しかも驚く程に調理器具や調味料等もかなり充実している、元々住んでいた家よりある。
ん〜何作ろっかなぁ、ありすぎてむしろ何作ればいいか分からないなぁ、寝る前に咳き込んでたし、体に触らなさそうなお粥とかの方いいかな?
いつ起きてくるか分からないけど、お粥にする事にした。体のことを考えて、かつ美味しく作ってあげよう。
ちょっと塩味のある青菜と卵のお粥を作って別皿にフルーツを盛り合わせといた。
時刻は7時を指していた、彼が何の仕事をしているのかわないけど、早めに起こしてあげるに越したことはない。
そういえば、色島さんはどこで寝たんだろう?
寝室で起きた時は周りに彼はいなかった。廊下を歩き他にも寝室的な部屋があるのかとおもって見てみたが、無かった。
一通り見て回ったところで居ないことに気づいてちょっと不安になった時、玄関の方で鍵があかれる音がした。
「お?いい香りするなぁ」
彼の陽気な声が聞こえ私は安心した共にどこに行っていたのか気になる。
「あ、……おかえり、どこに行っていたの?」
「ん?あー、コンビニで飲み物を買ってきたんだよ。ほら藍園さんもいる?」
「…ありがとうございます」
なんだか、ハグらされている様な気がしたが、彼が答えたくないなら問い詰めるのもやめておこうと思った。
「それで、朝ごはんは何を作ってくれたんだい?お腹が減っているから早く食べたいな」
余計なことは考えさせてくれないように、彼はご飯をせがんで来たので、急いでお粥をよそい、彼の前に出した時に、彼は驚いた顔をしていた。
やっぱり、お粥は失敗だったかなぁ?
「…なんで、お粥?具材もしっかり入っていて別に手抜きという訳ではなさそうだけど、理由を聞いてもいいかな?」
「そのぉ、昨日寝室へ行って寝ようと思った時にちょっと酷い咳をしていたから、風邪でも引いているのかと思って、お粥にしてみました。」
「ッ!お、おぅ、そうか、それは気を使わせて悪かったね、ありがとう頂くよ。」
彼はちょっと驚いた顔していたが、すぐ元の死んだ目の生気のない顔に戻り食べてくれた。
「ん〜おいし!いやー、お粥で美味しいのなんて食べたことないから最初はびっくりしたがこれは美味しぃなぁ!」
彼の言葉を聞いて安心した、自分の作ったものでこんなに喜んでもらった事なんて無かったから、とても嬉しかった。
「ありがとうございます!良かったぁ、あまり顔色とか良くなかったようなのでそんなに元気に言われるとなんだか安心します。」
彼は食べていて聞いているか分からないが安心の旨を伝えた。
「それでは、私は約束通り出ていきますね、短い間でしたが優しく、招き入れてくれてありがとうございます!」
本当はずっと居たいけど、迷惑かけちゃうし、これ以上は私が辛くなってしまうから早めに出よう。
ご飯も食べ終え席から立とうと思った時彼から驚きの言葉を投げてもらった。
「あぁ、その事なんだけど、もし、藍園さんが良かったら、まだ家に居てくれないか?普段は外食で済ませているがこんなに美味しいご飯を家で食べれるならそっちの方が都合がいいし」
願ってもいなかった提案に私はうんと言う前に色島さん、に向かって、ハグをしに行った。
「ありがとうございます!本当はそうしたかった、とてもじゃないけど色島さんに優しくされてから他の人ところでまた嫌な日々が始まると思うと私は、壊れてしまっていたかもしれない!」
ちょっと泣きそうになりながらも、顔を見せないように私はハグしながら言った。
色島さん、やっぱりあなたはずるい!!
「おいおい、やめてくれよ、首がしまって死んでしまう、そしたら住むところは獄中へと移動だぞ?」
こんな時でも冗談を行ってくれるこの人のことが私は好きになってしまった。
この人の死んだ目、生気のない顔に生気を吹き込めるような存在に私はなりたい!
「ありがとう色島さん!改めてよろしくね!私は莉花でいいから!」
「お、おう、なら俺も玖呂戸でいいよ。」
若干引かれつつもしっかり名前呼びの言質を取れて嬉しかった。
「そういえばく玖呂戸さんて仕事の時間大丈夫なの?」
ふと時間を見ると8時を過ぎていた普通の人ならやばいのでは?
「ん?あぁ大丈夫だ、今日はゆっくり行っていいって社長に言われてんだ、心配するな、れ、莉花」
ちょっと恥ずかしそうに名前を呼んでくれたのが嬉しくて内容は忘れてしまったが大丈夫のようだ。
「そう、なら頑張って行ってね」
「莉花に言われなくてもそうするよ、そういえば莉花、服は他にも何か持っているか?持ってないならこれで買ってこい。」
と言われ5万円程渡された。
「え、いいよ、それは玖呂戸さんに悪いよ、しっかりバイトして貯めて買うから。」
「…おい、家からだすぞ」
「え!これで出されるの!?」
「おう、出すぞ今すぐ出すぞ、ほら行け行け」
「……なんだか、ちょっとエッチなんだけど…」
玖呂戸さんは優し過ぎる、そんなことを言って本当は買いに行かせるようにするなんて、普通じゃ絶対ありえない。
「じゃ、じゃあ!玖呂戸さんも一緒に行こうよ!今日じゃなくてもいいからさ!」
「え、僕もかよ、」
「当たり前じゃん!玖呂戸さんのお金で買うんだから玖呂戸さんの好みの服を私に着せてよ!」
「ん〜あまりこだわりがないからなぁ、まぁ一緒に行く程度ならいいよ」
「やったぁ!なら都合がいい日に一緒に行こう!」
とても嬉しい!。初めて友達以外と服を買いに行く!しかも好きな人!嬉しいすぎる!
「んじゃ僕はそろそろ行くから」
「うん行ってらっしゃい!私は家事全般できるから、やっておくね!」
「おー、助かる、一人暮らしだったけどどうも苦手だったんだよ」
そんなことを言いながら玖呂戸さんは玄関で靴を履きドアに手をかけていた。
「あ、ちょっと待って!」
「ん?なんか忘れm--」
彼の言葉を遮るように私は彼の口を手で抑えながらその上からキスをした。
「今のは、私の感謝の気持ち、変な意味は無いから!じゃあね!」
彼は一瞬照れたような顔をしたが、直ぐにいつもの生気のない顔へ戻りただ一言、「おう、」といって玄関の外へと出ていった。
私の気持ちは一方的だったとはその時は気づかなかった。
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