第3話 実力
ブルクハルトとクリスティーナの模擬戦は、ブルクハルトの圧勝で終わった。クリスティーナは悔しそうに、こちらを睨んでから去っていく。
「ティーナ、無茶はするなよ」
「うん、ハルトもね」
ブルクハルトが背中に向かって伝えると、クリスティーナは小さく頷く。ムスッとしていたのに、無視しきれないところが可愛らしい。
クリスティーナの行く先を追っていると、次の相手はブルクハルトも見たことがない男だった。どこかの騎士団に所属していれば、魔獣討伐で会ったことがあるはずなので、それ以外からの参加だろう。
「お嬢ちゃん。危ないから帰った方がいいんじゃないか?」
「ご忠告ありがとう。あなたに負けたら帰らせていただくわ」
クリスティーナは、男の馬鹿にするような視線を真っ直ぐ受け止めて、ニッコリ笑っている。ブルクハルトに負けたことを引きずっていないようで安心するが、あんな男に笑顔を見せる必要はない。
ブルクハルトもクリスティーナを見る男の視線に苛立っていたが、試験官をしているガスパールの顔が怖すぎる。
「はじめ!」
ガスパールのドスの効いた声で試合が始まる。
ブルクハルトはその声で、自分の相手に視線を向けた。相手は戦う前から戦意のない顔をしている。ブルクハルトは魔獣との戦いでも、目立っているので負けを確信しているのだろう。
クリスティーナが心配だし、そんな相手に時間をかけてやる気はない。
ブルクハルトは竜人の力を使わぬまま、すぐに距離をつめて相手の首すじに模擬剣をあてた。これで制限時間を待たずに模擬戦終了だ。クリスティーナを相手にしたときに比べれば骨がなさすぎる。
「お嬢ちゃん相手にどうしたのかしら? 手加減はしなくていいのよ」
クリスティーナの鈴を転がすような声が聞こえる。ブルクハルトは美しい声に釣られるようにして、彼女に視線を向けた。
クリスティーナが可愛らしい笑顔を向けているというのに、相手の男は得体のしれないものを見るような目で彼女を見ている。クリスティーナに翻弄されて、為す術もないようだ。
クリスティーナは小柄で可愛らしい顔をしているのが、人間の中ではかなり強い。細い腕だが筋力が少ない分は魔力で補っている。
竜騎士を一番多く輩出しているドリコリン伯爵家は規格外だ。伯爵は可愛い娘のために護身術を習わせただけのつもりでいるが、ブルクハルトと知り合った10歳の頃には、すでに騎士と呼ぶに相応しい風格を持っていた。
もちろん、竜人であるブルクハルトが竜騎士を諦めさせようと、予期せず鍛えてしまったせいもある。
「参りました」
「これからは、見た目で判断しないでね」
「はい……」
クリスティーナが満足そうに剣をひく。ブルクハルトはクリスティーナに見られないように気をつけながら、男を睨みつけた。彼女の強さを恐れているようだが、万が一にも仕返しなんて考えられないように心を折っておかないと安心できない。
ブルクハルトの視線で震え上がった男は、視線を反らした先でも怯えたように固まってすぐに気絶してしまった。ブルクハルトのせいではない。どうやら、ガスパールも同じ考えだったようだ。
どこからかやって来たエッカルトが呆れたように二人を見て、男を演習場の端に乱暴に運んだ。何人かの竜騎士候補者がガスパールを怯えたように見ていたが、どんな場所にも鈍感な者はいる。
エッカルトはその後も活躍して、模擬戦が終わった頃には多くの気絶者が演習場の端に並ぶことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます