第4話 候補者

 ブルクハルトはクリスティーナを気にしながら模擬戦をこなした。もちろん怪我をしないか心配してのことだが、ブルクハルトを本気にさせる相手が現れず暇だったのもある。能力試験は魔力の相性のみで選定されるので、実戦経験の少ない若者も多い。若者と言ってもブルクハルトと同世代だが、魔獣の多い辺境で生まれた竜人のブルクハルトとは経験が違って当たり前だ。


 それでも選定試験に出てくるのは、自分の可能性を知りたいからだろう。能力試験に落ちれば今後の受験資格はないので諦められるし、逆に残った者は、次回のために現役の竜騎士からの指導が受けられる。


 ガスパールが選ばれた前回の竜騎士選定でも、熱心に指導を受けていた者がいた。次のブルクハルトの相手がその男、ジュリアンのようだ。


「ブルクハルトさん、よろしく」


 ジュリアンはブルクハルトに向かって手を差し出しながらふんわりと笑う。


「こちらこそよろしくお願いします。ジュリアンさん」


「僕の名前を覚えてくれているなんて光栄だな」


 ジュリアンは足が長くスラッとしていて、茶色い髪をかきあげる仕草は男のブルクハルトでもドキリとする色気がある。武人には見えない佇まいだが、握手をした手は固く、剣を握り続けてきた人間独特のものだった。


 前回の試験の後、ジュリアンは王都の騎士団に入って重用されていると聞いていた。竜騎士になるには騎士団を辞める必要がある。積み上げてきた経歴を考えれば、今回は参加しないと思っていた。


「よく王都騎士団がここに来ることを許しましたね」


「僕の夢だからね。誰にも邪魔はさせないよ。もちろん、あなたにもね」


 ジュリアンはそう言って剣を構える。力が入った様子はないが、どこにも隙がない。久しぶりに全力で楽しめそうな相手にワクワクしてしまう。ブルクハルトは試合前なのに緩みそうになった顔を引き締めた。


「はじめ!」


 ガスパールの声が響き渡る。


 最初は探り合いになるかと思っていたが、ジュリアンは好戦的な笑みを浮かべて一気に距離を詰めてきた。ブルクハルトは上段から振り下ろされた剣を、竜人の魔力を使って受け止める。


 キィーン 


「え!?」


 クリスティーナと戦ったときにしか感じたことのない、魔力の混ざり合う音がする。クリスティーナのときよりかなり弱いが間違いない。ジュリアンなら竜騎士になれるとどこかで本能が語る。


「どうかした?」


 ジュリアンが剣をジリジリと合わせたまま、おっとりと聞いてくる。ジュリアンはクリスティーナ同様、何も感じ取っていないようだ。


「あ、いえ。何でもありません」


 ブルクハルトはそう言いながら、ジュリアンの剣を弾いて後ろに飛ぶ。冷静になる時間が欲しかった。ジュリアンも動揺するブルクハルトに追い打ちをかける気はないようだ。首を傾げて様子を伺っている。


 ブルクハルトは魔力の相性の良い竜人とそのつがいだからこそ起こる現象だと思っていた。しかし、相手がジュリアンでも聞こえたことから、これは竜人と竜騎士の素質がある者との間で起こる現象と考えた方が良さそうだ。他の候補者からは感じていないが、竜人の力を使うかどうかも影響しているのかもしれない。


『番を見つけたときと同じ感覚だから、ブルクハルトにもピンとくるよ』


 エッカルトの言葉が頭をよぎる。竜人と竜騎士のはじまりを考えれば疑いようもない。ブルクハルトは秘匿された歴史を思い出してため息をついた。

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