第8話 2日目の朝
「おはよう。ハナ!」
ウォルがダイニングルームにやって来た。
「おはよう。ウォル・・・あの」
私がウォルに話しかけた時に、黒服の人がウォルに駆け寄り、耳打ちをした。耳打ちされてる間にウォルは無表情になった。 何か嫌な話しなのかな?
「ハナ。ごめん、朝食を一緒にしたかったけど、城からの呼び出しが来たから行って来るよ」
そしてウォルは黒服の人を私に紹介してくれた。
「執事のジャンだ。何かわからない事があったら、ジャンとシェリーに聞くといい。魔法は私が帰ってから一緒にするから、待ってて」
「ハナ様遠慮なく、何でもお申し付けください」
「はい。よろしくお願いします」
私はジャンに頭を下げた。
「ハナ、もっと気楽でいいよ」
ウォルは私に優しく笑った。
「でも絶対に邸から出たらダメだよ!王女様はどこでも見てるから」
「そうなの?」
ちょっとアリス王女様が怖い。
「邸内なら大丈夫だから、安心して。じゃあすぐ戻るから」
そう言って、ウォルはお城に行った。 私は私にできる事をしよう。
「ジャンさん。今日は本が読みたいのですが、文献?って過去の勇者の話しが載ってる本ってありますか?」
「ハナ様!私の事も他の者にも呼び捨てで、お願いします」
「あ、ごめんなさい。なれなくて」
私はニコッと笑った
「ハナ様は愛らしい、お方ですね」
「そうですか?私の世界では、そんな風に言われた事ないので、この世界は気持ちがストレートに表現される方ばかりで、戸惑います」
私はほんのり顔を赤らめた。 後ろでシェリーもクスクス笑いだした。
「本当にハナさんは純粋ですね。ずっとこの邸にいて頂きたいです」
「えっと・・・・ジャンもシェリーも優しくて、私がダメになりそうです。私はいつか、自分の世界に帰るのに」
「そうでしたね、でも帰れなかったらずっと、ここにいてくださいね」
「帰れない?」
私は顔色が悪くなる
「シェリー!」
ジャンが少し強めにシェリーを注意する。
「あ、ごめんなさい。例えば!例えばですよ!きっと勇者様と帰れます。頑張りましょうね」
シェリーは私の手を握ってニコッと笑う 「シェリーもジャンも私の為にありがとうございます。私必ず、帰りたいんです。雷斗との約束があって、どうしてもあの高台の公園に帰りたい」
「はい。ではいっぱい頑張りましょうね」
早速私はジャンとシェリーに頼んで、過去の勇者について教えてもらう。文献はお城に保管されていて一般公開されてなかった。とりあえず私は2人の知識を教えてもらうことになった。
✴✴✴✴✴✴✴
俺は気づいたら、寝ていたようだ。凄く懐かしい夢を見ていた気がする。 ハナはちゃんと、布団がある場所で眠れただろうか? ・・・・・ダメだ!ハナが心配でたまらない。
「勇者様!ウォルト公爵子息様が見えられました。ホールにお越し下さい」
「あぁ。すぐ行く」
部屋を見渡すと、俺が着てきた服がなかった。 代わりに、たたんで用意してある服があった。 これに着替えろって事か。そうだな毎日同じものを着るわけには、いかない。この世界にいる間だけだ。 着れれば服なんかどうでもいい。 さすがに中のシャツとズボンは着替えられたが、正装服は身につけるのが難しく、適当に来ていたら、部屋の外に待機していた侍女に、服を整えてもらった。
「ありがとうございます」
俺がその侍女にお礼をいうと、その侍女は顔を真っ赤にして、
「困った事は何でもお申し付けください」
と微笑んでくれた。 結局俺は、誰かに頼らないと生きては行けないんだな。信用出来ない世界で、俺はどうすればいい? ホールに行くとウォルが待っていた。 ホールはいろんな人が行き交うので、出来れば2人で話したい。
「おはようございます。勇者様」
「ウォルはハナを呼び捨てで呼んでいるんだろ?俺も雷斗でいいよ。勇者って言葉が好きじゃない」
「ここでは、話しづらいでしょう。庭園の四阿に行きましょう」
とウォルは城の中を熟知しているようだった。 四阿に着いて近くにいた侍女にお茶を用意させていた。
「雷斗様、ここもアリス王女様に全て話しは、聞こえております」
「え?」
「城の中も外もアリス様には全て把握しております。アリス様は無属性の魔法です。水晶を通して雷斗様を監視されているでしょう」
ウォルの言いたいことがわかった。俺がハナの事を聞いても何も答えられないって事だろう。
「最後に・・・ハナに会ったと聞いた・・・・」
「はい。私が見送りました」
「何か言ってなかったか?」
ウォルは少し困った顔をして
「最後にあの3階のテラスから訓練場で魔法を使う雷斗様の光りを見ました」
ウォルは城の3階のテラスを指さした。
「あの光りが雷斗様の光りなのかと、言ってご自身の目に焼き付けておりました」
「ハナが?」
「あの光りを忘れない。とおっしゃっていました。この世界のどこかで、雷斗様の光りを見ていらっしゃるかと」
「そうか・・・ハナに会えないんだな」
「ハナは見ています!ハナの事はわかりませんが、ハナはハナなりに考えています。雷斗様が恥じなき行動を。ハナが悲しみますので」
やっぱりハナはウォルのところなんじゃ!
「やっぱり・・・・・・」
俺が口に出そうとすると、ウォルは自分の口に人差し指を当てて シーっとした。
そうか。
ウォルのところなんだ!
良かった!本当に良かった。
俺は気づかないうちに目から涙が出ていた。
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