第2話 魔法の世界

私、置いて行かれた?




「ちょっと!雷斗を連れて行かないでよ!」


私は今の状況を受入れられずに、その場に崩れ落ちた。


嘘・・・。


「これからどうするの?雷斗は、魔王と戦う?戦うって何?雷斗は、平和な国から来たのよ!雷斗に魔王を殺させるの?魔王って人?魔物?まさか虫とかじゃないよね?雷斗が倒せるものなの?雷斗がケガするんじゃないの?・・・・・嫌よ!!雷斗がケガするなんて!魔王って架空の世界の産物じゃないの?・・・」



クスクス。



笑い声が聞こえた。


声の方に振り向くと、金色の髪に緑色の瞳の同じ年ぐらいのイケメンの男の子が立っていた。


「君、面白いね」

え?

「面白い?」


「うん。だって誰もいないのに、ずっとしゃべっているから」


「私、今の全部声に出してた?」


男の子はうんうんと頷いた。 私は少し冷静になったが、今のを聞かれていたと思うと、恥ずかしくて顔が真っ赤になった。

「あなたは?」

顔が赤いまま、男の子に尋ねた。 男の子は丁寧に私にお辞儀をして、

「私は、この国の宰相の息子で、ウォルト・オークレールと申します」

そして私を見てニコっと笑った

「私の事は、『ウォル』って呼んでいいよ」

「宰相の息子?よくわからないけど、偉い人の息子なの?じゃあ『ウォルさん?ウォル様?』」


「偉いのは父であって、私じゃないよ。だから『ウォル』で大丈夫」




「ウォル!雷斗はどこに連れて行かれたの?」


「勇者様?きっと王女様のところに行ったんだよ」


王女?この世界は王室があるのね。この世界の中で、偉い人の1人なんだろうな。


「あれ?ウォルは行かなくていいの?」


「私も行くつもりだったけど、君を1人でここに置いとけないだろう?」


ウォルは優しく笑う。

「あっ、ごめんなさい」

「君は悪くないよ。ねぇ君の名前を教えて」


「そうか。誰も私に興味がなかったから、聞かれなかったわ・・・」


ウォルだけは、ずっと嫌な顔せず、私の話しを聞いてくれている。


「私の名前は結城ハナ」


「ユウキ?ハナ?どっちで呼べばいい?」


「ハナ・・・」


世界が違うから、名前の付け方も違うんだね。言葉は何でわかるんだろう。


・・・・・・『共通言語』


確かはじめに、聞こえた言葉だった。この事だったのね。 文字は?私この世界の文字って、読めるのかな? 私はウォルを見て


「ウォル、本を一冊貸して・・・・・いえ。ウォルの名前を紙に書いて見せてくれない?」


するとウォルはニコニコしながら、 ウォルの右手の人差し指から『水』が出て来た。



え?


私の顔はこれでもかというくらい目が見開いている。 するとウォルは、空中に『水』で名前を綴った。 全く見たことない文字だけど・・・


「読めた・・・・・ウォルト・オークレール」



私が

「ありがとう」

というと、空中の『水』はパシャンと地面に落ちた。

「ウォル・・・これ何?」


「ハナなら驚くと思ったよ。この世界は『魔法』というものが使えるんだよ。ハナの世界には、ないんだろ?」


「うん」


「でも勇者様はきっと使えるよ。さっき祭司が、勇者様に手をかざした時に勇者様の体から光りが放たれただろ?あの金色に輝いた光りは、全属性の魔法が使えるんだろう」


「え?雷斗が何で?私達の世界に魔法はないのに」


「『この世界に召喚される時に、特殊能力が備わってくる』と文献があるんだ」


「文献?」


「そう、この世界は500年に一度魔王が誕生する。その度に、別の世界から勇者様を召喚するんだ。だから魔法が使える事も、元の世界の帰り方もわかるんだ」


「じゃあ私にも『魔法』使える?」


「んーどうかな?文献には、一緒に召喚された人間はいなかったから、祭司に手をかざして貰えればすぐわかるけど。今は、勇者様の事で大忙しだろうから確認は難しいね」


私はこれからどうなるんだろう。雷斗と一緒にいれる?魔法が無くても、生きて行ける?


私はだんだん不安になって、涙がポロポロ出て来た。


ウォルは私に近づいて 私の頭をポンポンと撫でた。


びっくりして、顔をバッとあげてウォル見た。


「かわいいハナが泣いたら、私も辛いよ。でも泣きたくなるよね。こんな状況じゃ」


ウォルは私の頬に流れる涙を手でそっと拭いてくれた。


「今は勇者様は忙しいけど、落ち着いたら、ハナに会えるようにするから、それまでは私のところにおいで」


「雷斗に今すぐ会えないの?」


「そうだね。ごめんね」


「ウォルは、どうして優しくしてくれるの?」


「んー。最初は、パニックになって暴れられても困るし、勇者様の邪魔をされたくなかったから?」


そうよね。みんな雷斗が必要で、私は必要じゃない。


「でも一瞬で、私はハナを好きになったよ」

ウォルは雷斗とは違うタイプのイケメンだ。そんなイケメンに好きとか言われたら、勘違いしてしまいそうになる。


「好きとか簡単に言う世界なの?」


私は、顔を赤くして少し怒った顔をして見せた。 ウォルは私の涙を優しく拭いながら


「違うよ。この世界の『好き』も特別だよ」


ウォルは真剣な瞳で答えた。 その綺麗な緑色の瞳に引き込まれそうになる。



「ハナに振れるな!」



大きな声がホールに響く、 声の方に顔を向けると、雷斗が扉のところに立っていた。 雷斗だ! そう思ったらもっと涙が出た。


「ハナに何してる!」


雷斗は凄く怒っている。 ウォルは片膝をついて、雷斗に敬意を示す。 雷斗は走って私の元に来た。


「雷斗、違うよ!ウォルは私の為にいろいろ教えてくれてたの」


「何で、ハナが泣いてるの?」


ウォルが

「失礼ながら申し上げますが、ハナは勇者様がいなくなったあと、ここで1人ぼっちでした。勇者様がいなくて寂しくなったのでは?」



「なっ!!!」


遠くから


「勇者様ー!早くお戻りになられて下さい!」


雷斗を探しているみたいだった。


「雷斗、逃げ出したの?」


「違う!ハナを探しただけだ!ハナと離れたくない」


「勇者様それは無理かと思われます」


ウォルは冷静に答える。


「なぜだ?」




「ハナを戦場に連れて行くのですか?ハナを戦わせるのですか?」




その言葉に雷斗は、何も言えなくなっていた。

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