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大家さんが3階につくと同時に、高橋さんは大量のゴミと共に廊下へなだれ出た。
どこかの部屋から応援に来てくれてたのか、カッコいいスニーカーが触手で生け捕りにしてたネズミを大家さんの足元に分かりやすく放った。
ナイスなダメ押しだ、このネズミが一番効いたかも知れない。
大家さんの怒鳴り声、高橋さんは泣きながら何故かブチギレ、他の入居者さんも眉をしかめ部屋を覗き込んだり、あらまあとワザワザ言いに来たりしている。
目撃者も予想より多くなった。
高橋さんは少し散らかってるだけ、ゴミ袋が破けただけ、なんて泣きながら叫んでるけど、そんな言い訳も通じないだろう。
16時25分、作戦終了。
これで高橋さんの部屋はキレイになるはずだ。大家さんはご両親を呼ぶからと電話をしに管理人室へ戻った。その間は他の部屋の人間が逃げようとする高橋さんを見張ってくれてる。
出て行くか、キレイに保って住み続けるかは高橋さん次第だ。
ユミコの部屋に戻る前に各部屋を回って、
どの部屋も大体は布団やベッド、ヌイグルミがリーダー的な存在だ。話しやすくて助かる。
カッコいいスニーカーは101号室のOLの物だった。そうか、たまにジョギングをしていた茶髪のキレイなお姉さんだ。全体的にアクティブな部屋で楽しそう。
最後に訪れた305号室、ここだけはキッチン用品が対応してくれた。40代半ばの女性の一人暮らし、料理教室の先生をやっているそうだ。
なるほど、挨拶を交わすぐらいしか無かったけど、今回の事で知り合うのも良いと思う。
やっとユミコの部屋に戻れたのは19時を回っていた。後1時間ぐらいでユミコが帰ってくる。今日からしばらくは厳戒態勢だ、侵入者は許さない。気を引き締めなくては。
ガラスのローテーブルに座るリモコンの横にフワッと降り立って、並んで座る。
「お疲れ様です」
「お疲れ、こっちは黒1だけだったよ。やっぱりバスルームの天井から、アイツらヤベえよ」
「全く厄介ですね。ユミコはバスルームに物を置かないから見張りも立てにくいですし」
「まあ、冷蔵庫が近いから大丈夫だろうよ。なんか上手いコト言ってピシッとさせたんだって? ペンペンはスゲーよ」
「いえいえ、普通に思ってる事を言っただけです。冷蔵庫は自分でピシッとしてくれたんですよ」
「ああんもう、そういうトコ好き!」
「……気持ち悪いですよ」
「え?! ちょっと誰にも」
「言いませんよ。いや、どうしようかな?」
「ちょっと待ってペンペン待って」
抱き付いて止めに来るリモコンに、ニコッとしておく。
オレはユミコが好きなアニメの吸血鬼に似せてるから、なかなかゾッとする様な笑顔になるのにリモコンは気にしない。
オレはリモコンのそういうトコが好きだ。
よく一緒にいるのは楽だから。気を遣わない、からかい甲斐がある、強いから。
でも家電なんだ、いつか来るその日までは。
「言いませんよ。とりあえず離れて下さい、暑苦しいです」
「ペンペンは冷たくて気持ちイイ、少しぐらい」
「イヤです。ペンギンだから氷が使えるだけです、オレ自身は冷たくも何ともないです」
「正論! 離れるわ!」
ただいまと律儀に言うユミコが、誰もいないこの部屋に帰って来るまで、あともう少し。
つづく。
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