3
ユミコの部屋に戻ってから、オレとリモコンを中心にチーム分けをする。
人当たりの良い電子レンジとトースター、IHクッキングヒーターに全入居者への説明と協力要請を任せて、手伝う物の人選も
さて、説明しよう。
「では簡単に手順を。まず大家さんと高橋さんが確実にいる時間を見計らって、高橋さんの部屋で盛大に暴れて頂きます」
えええ、と騒つく室内。
そりゃそうだ、オレ達は人間には見えない。見えないからこそ物音を立てたりすると怖がらせてしまう、だから留守中に活動している。
「大丈夫ですよ、みなさん。この作戦は一度成功しています。前回は部屋で動けなくなったお婆さんを助ける為に使ったのですが、今回は高橋さんに少しお灸を据えようかと思っています」
ペンペンが言うなら、と少し落ち着くみんなに少しホッとする。お灸を据えるというのは思い付きだ、乗ってくれなかったら取り下げようとしてたんだ。
「では高橋さんの部屋に侵入して物を動かす役は、体の大きなベッド、布団にお願いしたいのですが」
「オッケ、やる」
「いいぞ」
「ありがとうございます、後で少しお時間を頂きます。次です。大家さんの所まで音が響いてる風にしたいので、管理人室の天井裏で暴れて頂きます。何事かと出て来た所を3階まで誘導します。それまでに高橋さんの部屋の玄関ドアを開け放っておき、大家さんに中の惨状を見て貰ってオレ達の作戦は終了です」
またザワッとした。出来るのか、という疑問と不安かな。
「みなさん、これをオレ達が指揮を
拍手が起きた。よし、やっぱりユミコの為とすれば大体まとまる。
本当に間違いなくユミコの為なんだ、ゴキブリやネズミなんか見せたくない。
退治してもまだ居るかも知れないあの不安感に晒したくない、無駄に振り向かせたり怯えながらタオルをめくるなんてさせない。
だって、こんなに大事にしてもらってるんだから。
細かい人選をリモコンと相談しながら、まだ全裸で冷蔵庫の上で体育座りをしている冷蔵庫に気付く。
「ちょっと行って来ますね、フフッ」
「ああ、任せろ」
ちょくちょく質問を持って帰ってくる協力要請組をリモコンに任せる。頼れる相棒だ。
「冷蔵庫、どうしました?」
「……怖かった」
「ですよね、オレも怖いですよ。アイツら羽ばたくでしょ、アレが本当に無理です」
「……でもペンペン達はちゃんと戦って勝ってた。ボク、ユミコの為に何も出来ない」
「何を言ってるんですか? 冷蔵庫にしか出来ない事があるじゃないですか」
「……え?」
「いつも誰よりも早く侵入者を見付けて教えてくれます。とても助かってますよ」
「……ありがとう、ペンペン……ボク頑張る! ねえ、何か手伝えないかな?」
「では布団とベッドと一緒に高橋さんの部屋で暴れるのはいかがでしょう? 音の鳴りそうな物を落としたり揺らす仕事ですよ」
「やる、いつも拭いてくれるユミコの役に立ちたい!」
少し助かった。3人なら部屋の奥、真ん中、玄関で暴れてもらえば高橋さんに逃げ場は無くなる。
やる気になってくれた全裸の冷蔵庫を連れて、布団とベッドの方へ向かう。
「ペンペン、ガチで暴れていいの?」
「窓とか割ったら危ないから、ソコソコぐらいの方がよくない?」
中世の貴族みたいなデザインの赤いシャツを着た布団、多分それも
こっちは常に全裸のベッド。
ユミコがモップで埃を取ってあげても全裸という少し変わった奴だけど、ナチュラルウッドだからさ、という理由だから放っておいてる。オシャレは自由だと思う。
それに暴走しがちな布団を止めてくれるのは、いつもベッドだ。頭が上がらない。
全裸の冷蔵庫が貴族っぽい布団の横にチョコンと座った所で、さっき見た光景を話す。
君達と同じ寝具が高橋さんの部屋で拷問に近い目に合っているという事実を。
「……ヒデえ話だな」
「……可哀想だね」
「……ひどい」
「彼はあの部屋で唯一、高橋さんが眠る場所だから、長い時間を過ごしているから、というだけで辛うじて姿を作れる様でした。いきなり見たら驚くかと思ったので……本当に可哀想でした」
「よし分かった、絶対に成功させて解放してやろう」
「うん、楽にしてあげたい」
「ボクもやる。布団さん、ベッドさん、何でもやるから指示をお願いします!」
全裸のベッドと冷蔵庫、貴族っぽい布団が3人の作戦を立て始めた。任せよう、ちゃんと同じ方向を見てくれてる仲間だ。
ベッドと布団は、枕元に置かれてるオレと長い時間を過ごしている。イイ奴だ。
だからこそ、同じ寝具なのに彼が受けているあの仕打ちは先に伝えておきたいと思った。2人の受ける衝撃を少しでも和らげてあげたい。
あの姿は、ただただ辛かった。
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