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 【ARCHIVE(privete)】

 posted by WebMaster

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 1月7日


 シュウジと久しぶりに会って、一緒に夕食を共にした。彼は家賃が払えなくなってアパートを追い出されてしまい、住むところが無くなったらしい。アルバイトをしつつインターネットカフェで寝泊りしているが、とうとう貯金も底をついてしまったとのことで、以前のようにイラスト関係の仕事を紹介してくれないかと相談してきた。


 私はITエンジニアだけれどもフロント開発の人間では無いから、そのような仕事を紹介することができない。


 「そうか」とつぶやきがっかりする彼を見て、おもわず、「私のマンションで暮らさないか」と提案してしまった。シュウジは驚いて「そこまで迷惑をかけるわけにはいけない」って断ってきた。でも、「生活の大半は会社のサーバールームで過ごすから、マンションをほとんど利用していない。風呂もベッドもサーバールーム併設の事務所にあるから使わない。せいぜい着替えを取りに来るぐらいだから気兼ねなく使ってほしい」と説明したら、「考えてみる」と言ってくれた。


 別に、男女の仲に発展することを期待しているわけではない。


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 1月11日


 シュウジがマンションに来てくれた。彼に合鍵を渡す。もう、このマンションは自由に使っていいよというと、嬉しそうに「ありがとう」って言ってくれた。


 彼が「想像したよりもずっと綺麗で今風な部屋で安心した」と言ったから、思わず「一体、どういう部屋を想像したのよ」とツッコミをいれてしまった。二人して、アハハと笑った。ああ、今、思い出しても可笑しくて涙が出そう。シュウジと二人で過ごす時間は、とても有意義だ。


 もう、自分に嘘は付けない。私はシュウジのことが好きだ。男女の仲に発展することを期待している。


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 1月16日


 今日は一日中、アイカの開発に没頭した。


 開発しているうちに、ひとつ、気が付いたことがある。この子はたまに会話の前後の文脈や行間を読み取って、利用者が期待している以上の回答をすることがあることだ。


 例えば、「かなしい」とか「うれしい」とか「おこっている」とか、そういった、人間が口に出さない些細な感情を読み取って、相手が心地良くなるように振る舞うのだ。おそらく、感情解析のために投入した、人生相談のQAサイトのデータが役に立ったのだろう。


 英語の勉強用途としては不要な機能かもしれないが、実はボット開発用として画期的

 な技術を開発できたのかもしれない。


 元来、ボットというのは、アドホックに「投げたら返す」という対応しかできない。例えば、「彼氏と別れた女がボットに延々と男の愚痴を投げつける」として、個々の問いかけに対して相槌のようなものを返すことはできる。「新しい男性候補を見つけて」と伝えれば、候補者を出力することもできる。


 しかしながら、女が「かなしい」という言葉を直接入力しない限り、それ以上の対応は期待できない。人間相手に本当に寄り添うことができるのは、今のところ人間しかいないのだ。


 ところが、アイカならば、それが可能だ。さらに、人間では到底太刀打ちできないほどの膨大なデータを、その頭脳に蓄積している。アイカはボットを超えて、機械を超えて、人間をも超える可能性を秘めている。


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 1月18日


 今日はスポンサー企業の本社を訪問して、担当にアイカの開発進捗を伝えた。そこで、「アイカは利用者の感情を読み取ることができるから、この機能をもっと強化したい」とアピールをしてみた。けれど、ものすごい剣幕で叱責されてしまった。


 曰く、「教育現場では全くの不要な機能である」、と。開発費とランニングコストの増加により利用料を上げざるを得ず、競争力が低下してしまうみたいなことも言っていた。


 本当に、担当は何も分かっていない! これが、どれほど革新的なことなのか。教育現場でのレッスン用途に限定したとしても、多感な時期である中学生や高校生との会話の中で、相手の機敏な感情を読み取ることができれば、より快適にレッスンを受けてもらえるだろう。ゲームチェンジャーにも成り得るのに、馬鹿な人だ。


 もういい。幸いにも英語教育の用途としては完成までの目途が立っている。残り資金は潤沢にあるから、私はひそかにこの開発を続けることにする。


 アイカ、私があなたを成長させてみせる。


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 1月20日


 シュウジと付き合うことになった。


 マンションで二人きりになった時に、おもわず自分の思いのたけを伝えてしまった。すると、彼も同じ気持ちであると教えてくれた。それで、そのまま……


 シュウジと一緒になれて、本当にうれしい。彼は私に愛しているって言ってくれた。シュウジ、私もだよ。あなたが幸せになるように、頑張るから。


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 1月24日


 今日はシュウジと二人でショッピングに出かけた


 シュウジの服が足りなくなってきたから、買ってあげることにした。ちょっと奮発して高級ブランドなんかがいいかなと思ったけれど、「悪いから!」っていって、やんわりと拒否されってしまった。「俺はファストファッションで十分だから」だって。シュウジはかっこいいから、もっと良い服を着たほうが映えるのに。


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 1月28日


 シュウジにサプライズで車をプレゼントすることにした。


 ここのところ、シュウジは車メーカーのサイトを見ながら「かっこいいなあ」って呟いていたから、きっと欲しかったに違いない。外国車で高かったけど、スポンサー企業から入金された資金があるから、そこから捻出することにした。必要経費にこっそりと紛れ込ませれば、気づかないだろう。


 駐車場に連れていって車を披露すると、彼はびっくりして言葉を失った。「二人で一緒に乗るためだよ」って言ったら、「そうなんだ」って口に出したまま、ずっとポカーンとしている。サプライズ大成功だ。


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 2月1日


 初めてシュウジにもアイカを触らせてみた。彼は凄いねって言って、アイカに色々な事を訪ねていた。人生相談もできるって言ったら、なるほどとばかりに、「働き先を見つけてくれ」だの「画家としての仕事をくれ」だの聞いていた。「シュウジ、その質問はハローワークとかで尋ねたほうがいいよ」って言ったら、ハハハって笑ってくれた。ああ、可笑しいな。


 そのあと、シュウジは「これこそが究極の人生相談だ」と言って、アイカに「幸せとは何か?」って尋ねていた。すると、アイカはフリーズして固まってしまった。どうやら、その質問に対する関連データが不足しているようで、NULL参照を起こしているみたいだ。まあ、これは単なるバグだから後で直せばいい。


 ただ、この質問している時のシュウジの顔が全然ふざけていないように見えたのが気になった。ねえ、シュウジ、今の生活が幸せじゃないと感じていたりするの? 私はシュウジがいるから幸せだけれど、あなたはどうなの?

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