ーARCHIVEー
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【ARCHIVE(privete)】
posted by WebMaster
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11月28日
ついに、ついに完成した!
英語のレッスンが簡単に受けられるチャットボット、その名もアイカだ。人工知能の「AI」を掛けているのだけれど、ちょっと安直かな。
「人工知能を相手に会話をすることで、自然と英語を学ぶことができる」というのが、このボットのセールスポイントだ。現代の英語の授業はリスニングとスピーキングの能力が重要視されるから、テキスト入力ではなく音声入力でやり取りするほうが、より身につくだろう。
英語を効率的に勉強するにはマンツーマン指導でのレッスンが最も優れているが、それだと人件費がかさんでしまい、どうしても利用料が高価になってしまう。一方、このシステムなら月額500円で提供しても利益が出るのが強みだ。
アメリカのクラウド技術研究所を退所してから一人で起業して、はや3年が経過した。退所前は女性エンジニアとして数多くのコンテストで受賞したけれど、その後は鳴かず飛ばずのままで、いたずらに時を過ごしてしまった。スポンサー企業からの資金提携は今年で途絶えてしまうから、ギリギリ間に合った形だ。早速、担当にプレゼンしてみようと思う。
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11月31日
今日はスポンサー企業の本社を訪れて、担当にアイカを使ってもらった。しかし、「画期的ではあるが、サービスとして提供するには未だ粗さが残っている」と難色を示してきた。ほかにも、インターフェースのデザインがそっけないとの指摘もあった。もっと人間と会話をしているような雰囲気を出したほうが良いとのことだ。
商売のことは分からないが、プロがそう言うのならば仕方がない。資金を引き揚げられたら開発の先行きが怪しくなるから、ここは大人しく従っておこう。
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12月1日
担当の助言に従い、アイカをチューニングすることにした。
まずは、この片言の日本語をどうにかさせようと思った。しかし、日本語のほうを綺麗に発音させようとすると、今度は英語の発音が怪しくなってくる。どうやら両立は難しく、どちらを優先するのか選ばなければならない。英語のレッスンでは発音も重視されるから、どちらか一つと言えば英語となるだろう。しょうがない、日本語のほうは多少なりとも目をつぶってもらうしかない。
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12月5日
人間と会話している感じを演出しろとのことで、アイカのキャラクターイラストを作って、VTuberのようにしゃべらせることにした。アイカという名前だから女性がいいだろう。優しく落ち着いた大人の女性がイメージとして浮かび上がる。ベースとなる絵がサーバー上に存在すれば、フェイスソフトで表情を色々と変えることもできるし、音声に合わせて口を動かすこともできる。
ただ、私には絵心がないから、自分でイラストを作成できない。そこで、幼馴染で画家のシュウジに作成を依頼することにした。早速、電話で彼に相談したら、「すぐにでも取り掛かる」と承諾してくれた。
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12月6日
シュウジは、たった一日でアイカのイラストを作ってくれた。聞けば、最近は画家としての仕事が全く入ってこないため、イラストレーターの副業をすることで、なんとか生計を立てているらしい。しかし最近はそれすらも減っていて、生活に困っていると嘆いていた。
シュウジはアイカを、綺麗で大人びた女性として書いてくれた。瞳は青く、ブロンドよりもさらに明るい黄色掛かったロングヘアで、外国の女性が想起される。私のイメージ通りで、びっくりした。さっそくシステムに取り込んでみたら、違和感なく動作する。これで少しは、担当も納得してくれるだろう。
しかし、シュウジが生活に困っているというのは、ちょっと気になる。私に何かしてあげられることはないのだろうか。
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12月9日
今日もアイカのチューニングをする。
まだ応答内容が安定しない。深層学習で蓄積したデータをもとに、利用者の発言の意図を解析して適切に回答するのがアイカの特徴だが、結構な確率で無反応だったり、意味不明な内容が返ってきたりする。おそらく学習データが不足しているからだろう。もっと、多くの会話ログを蓄積させなければならない。そのためには、何人ものテスターを募って、実際に何度もアイカと会話させる必要がある。
できれば、中高生にテスターとしてお願いしたいところだ。英語の勉強を頑張ろうとしている子がいたら、なお良い。
けれど、マーケティングのところは疎いからテスターを集める方法が分からない。結構、お金がかかってしまうのだろうか。
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12月12日
テスター募集の件について、友達のナツメに相談することにした。マーケターの彼女は一風変わった方法で人を集めることができる、業界でも一目置かれた存在だ。
彼女が提案した方法は次の通りだ。まず、私の個人サイトにアイカを設置する。次に、そこへのリンクを記載したQRコードを発行する。そして、QRコードとともに「英語の勉強に役立つ」といった旨の紹介文を記載したカードを作り、それを街中にばらまく。そうすれば、興味本位でアクセスしにきた学生がアイカを利用してくれるし、かかる費用はカードの作成代だけで済む。
なるほどと思い、まずは、イラスト作成ソフトを用いてカードを作ってみた。即時発行OKな印刷会社を使う事で、半日で完成することができた。
早速、カードを色々なところに配布してみる。地元の学校の校門前に置いてみたり、駅のトイレに置いてみたりもした。それとナツメからは、今時の高校生は勉強するのに参考書を買うのが普通だから、本屋で売っている参考書にこっそり挟んでしまえばと良いとアドバイスを受けた。犯罪なのでは無いかと心配したが、間違えて落としたことにすれば問題ないらしい。そんな事は無いと思うのだが、ナツメを信じることにした。本屋にいって、英語の参考書のいくつかにカードを挟んでみる。
さあ、アクセスしてくれる子が現れるといいな。
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12月19日
1週間近く経過したけれど、誰からもアクセスが無かった。やはり、素人が一日で作ったようなカードでは不審がられてしまったのだろう。残念だ。
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12月21日
作戦が完全に失敗したことをナツメに伝えたら、すぐに飛んできて、平謝りしてきた。
そして、代替案として、地元の高校生をテスターとしてアルバイトで雇うことを提案してきた。ちょうど、この辺りにキリスト教系の高校、いわゆるミッション系といわれる高校があるから、そこの生徒ならアイカの想定顧客にも合致しているのではないかとの事だ。
学生へのアルバイト代だけでなく学校側に説明と許可も必要になるため、時間とお金がかかってしまう。どうしようかと悩んでいると、ナツメが全てを請け負うと提案してきた。前の作戦が失敗したことへの罪滅ぼしをしたいとのことで、こうなると頑固で
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1月4日
ナツメは、あっという間に学生を集めてくれた。おかげで、年内にテストを終えることに成功した。アイカに多くの学習データを蓄積させることができた結果、応答内容が安定してきたし、スポンサー企業の担当も「もう少しチューニングすればサービス化への道が開けてくる」と断言してくれた。資金提供は来年も継続となる。これで一安心だ。
午後にナツメとお茶をする機会があったので、テストが上手くいっていることを報告して、感謝の意を伝えた。すると、一生の友達だから当然のことをしただけだと言ってくれた。とても頼もしい。ナツメ、本当にありがとう。
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