二人で街へ
「まあ、見てくださいませ。こんなにたくさんの荷馬車見たことがありませんわ。これ全部他国から来たんですの?」
珍しく興奮した様子を見せ馬車から窓の外を覗き込むようにするリリー。そんな彼女の様子に笑いながらロビンは答える。
「ああ、そうだよ。この近くにはトレンタムでも一番大きな荷下ろし場があるからたくさんの馬車が集まるんだ。あっ、でも馬車が行き交って危ないからベルンみたいにお散歩しちゃだめだからね」
「もうっ、流石に分かってますわ」
時に鼠に変身して城中だけでなく、城の外まで散策にいっていたリリーに告げるロビンに、流石に分かっている、と頬を膨らますリリー。
走行していると馬車が行き交う一体を抜け、少し歩く人が増えたかな?と言う辺りで馬車が止まった。
「着きました。旦那様、奥様」
御者が合図すると護衛の軍人がさっと扉によってドアを開ける。すると身軽に飛び降りたロビンが手を差し出してくれ、その手を取ったリリーはゆっくりと馬車から降りる。
ここはトレンタムでも最も大きな通り。道幅は広くその両脇には大きく立派な門構えの店が立ち並ぶ。結婚式の時に一度街を見てみよう、といったその約束を叶えよう、と何とか予定が空いたこの日、ロビンはトレンタムの街へリリーを連れ出したのだった。
ベルンの王都はあちこち言ったことがあるが、トレシアの王都、トレンタムの大きさはその比ではない。行き交う人々の多さにリリーは目をパチクリとさせる。
「さぁ、リリア。まずはこの辺りを少し歩いてみようか、と思うんだけどどうかな?」
「街歩きですわね。ぜひ案内してくださいませ・・・・・旦那様」
2人が馬車を降りたのは、街でも大きな店が立ち並ぶ辺りで歩く人々には貴族らしき人も多い。当然警備も多く治安は良いのだが、王族が正式に来る、となると大変なので今日はお忍び出来ている。
これまでも暇を見つけては城下に降りていたというロビンは慣れた様子で若い貴族の青年の休日といった風貌に着替えてやってきた。リリーもそれに合わせ今日は、貴族の家の若奥様をイメージした装いだ。さらにせっかくリリーがいるのだから、と新しい試みで髪と瞳の色も変えている。ここ最近のあれこれで実は「色を変える」魔法を得意としていることが分かってきたリリーは自身とロビンの髪と瞳を別の色に変えた。それだけで見た目の印象は大きく変わるものである。
リリーの手を取り、人で行き会う通りをあるき出したロビンと共にリリーはあるきながら辺りを見渡す。この辺りにあるのはいずれもトレシア屈指の一流店ばかり、と聞いていたがどの店もベルンでは見たこともないような立派な店ばかりだった。
「もし気になる店があったら入ろうか?お店で気になったものを買うのもまた新鮮でしょう?」
「ありがとうございます。ただ正直なところお店が立派すぎて、気後れしてしまうのが正直なところですわ」
リリーの知っているお店、といえば一軒家の一階がお店になっていて、通りから覗くと、数人の店員さんが仕事をしているのが見える、という小さなお店だ。
それに対して先程から目に入るお店はどれも大きく、入り口には守衛も立っている。看板を見ればそこが何の店が何となくはわかるが、ドアを開けて気軽に中を覗く、というわけにも行かなそうな店ばかりである。
そんなリリーの言葉にロビンは苦笑する。
「もちろんトレンタムにもそういうお店もあるよ。もう少し下町にいけばこんなに大きなお店は少ないからね。ただいきなり下町もどうかなって思って今日はこちらに来たんだけど」
そう言いながらもリリーの手を引くロビンは一軒のお店の前で立ち止まった。
「ローリーアンドベル商会?というと何度か宮殿でお会いしていますよね?」
白い外壁が目立つ立派な建物、階段を少し上がったところに作られた多いな入り口の看板を見たリリーはロビンに聞く。
「そう、主に装飾品なんかを扱う商会だね。もちろん宮殿にも呼んだら来てくれるけど、お店には色々な商品が置いてあって面白いんだ」
そう言うと、リリーをエスコートしてお店へと入っていく。明らかに高貴な客が入ってきたからだろう。一歩店に入るとすぐに支配人らしき男性が近寄ってくる。流石に大店の支配人。すぐに2人の正体に気づいたらしいがロビンの目線での合図を受け、王族に対する礼ではなく、高位の貴族に対する礼をとる。
「ようこそいらっしゃいました。今日はなにかご入用おのものが?お決まりのものがございましたら見てまいりますが」
「いや、散策の途中でよったんだ。少し店の中を見せてもらっても良いかい」
「もちろんにございます。先日東の国からトレヴァーズに船が着きまして珍しい装飾品なども仕入れておりますので是非御覧ください」
そう言って支配人が示す先には、なるほどこちらではあまり見ないような装飾品が数多く並べられていた。
「最近はこういった東の国々の商品が人気なのですよね?」
こちらではあまり見ない青色の石を埋め込んだ髪飾りのようなものを見ながらリリーが問う。
「船の性能が格段に上がって、遠い東の国へも航海がしやすくなったからね。まだまだ流通量は多くないから高価だけど、こちらにはないようなものが多いから面白いよね」
ロビンもその精巧な細工に目を細めつつ答える。
「気になるのだったら買おうか?」
「いえそんな・・・・・・。散策の途中に気軽に買ってもらうような代物ではありませんわ」
ロビンはちょっと甘いものでも、みたいな気軽な調子で言うが、さすがはるばる遠くから来たものだけあり、その価格もなかなかだ。むしろリリーが持っている装飾品の中でも最も高価な部類に入ってしまうだろう。
「別に私の私財から出すから気にしなくて良いよ。ご存知の通り我々はそれぞれが商売をしているからね」
他の貴族の家同様、商家始まりのトレシア王家はそれぞれが商売をしている。ロビンもその利益である程度自由にできる財産を持っていた。
「そうかも知れませんが・・・・・・、あっ、見てください、あちらのものも可愛いですよ」
このままだと本当にこの高価な品を買ってくれそうなロビンにあせるリリーの目にあるものが入る。それはトレシアで作られた装飾品が集められたところだった。
「そちらはトレンタム郊外の街で昔から作られてきた装飾品ですね。ブローチなど人気ですよ」
いつの間にか近づいて来ていた支配人が説明する。ロビンとリリーが近寄ると、金属製のブローチには様々なモチーフが掘られている。するとリリーがあるブローチに注目した。
「まぁ旦那様、百合ですわ。それにとっても精巧ですわね。あら、こちらの指輪も首飾りも百合のモチーフですか?」
あちこちに百合の装飾品があることに驚くリリーに支配人が説明する。
「ご結婚された王太子妃殿下は『リリー』様にございますからね。ここ一年ほど百合のモチーフは非常に人気がございます。魔法を司る蔓草やベルン公国に多い森のモチーフも多く作られておりますね」
「ここ最近のトレシア王国では一番のイベントだからね」
そう言うロビン。一方リリーはまさか自身が装飾品のモチーフとして人気になっているとは思ってもおらず驚きを隠せない。
そんなリリーを「可愛いな」という気持ちを全く隠さずに見つめていた王子は最初にリリーが見つけたブローチを手に取ると、
「じゃあ、これをいただこうか。僕達もあのお二人にあやかって」
と言う。
「そ、そんな良いですの?」
と言いつつも、確かにこのブローチに心惹かれるものがあるのも事実だし、先程の髪飾りよりかは格段に値段は張らない。
「もちろん、せっかく買い物に来たんだからなにか買わないとね。社交の場には使えないけど普段使いするにはちょうど良いんじゃないかな?」
そう言いつつ、支配人を良い何やら伝えたロビンは一度奥に消えた支配人がさほどせずに持ってきた紙にサインをする。すると支配人はブローチを持って奥に下がり、そして美しく包んで戻ってきた。
「ありがとうございます。旦那様。戻ったら早速つけてみますわね」
「あぁ、是非つけたところを見せて欲しいな。きっと良く似合うはずだよ」
新婚らしいやり取りに支配人も笑顔を浮かべる。2人で支配人に礼を言うと、ロビンとリリーは店から出ることにしたのだった。
店を出た2人はさらに通りをゆっくりと歩く。あちこちに視線をやりつつもリリーはロビンに話かける。
「ロビン様、改めて今日は誘ってくださりありがとうございます。ベルンで『鼠』の姿でしか歩けなかったのでとっても新鮮ですわ。それにブローチもありがとうございます」
そう満面の笑みで言うリリーに
「喜んでいただけて何よりだよ」
とこちらも笑顔で返すロビン。
「この後は・・・・・・どうするのですか?」
「そうだねぇ、そうだ近くにルーベル夫人がオーナーをしている仕立て屋さんがあるから言ってみようか。その後はずっと歩くのも何だしカフェにでもよってみる?」
「それは素敵ですね。案内してくださいませ旦那様」
「喜んで、奥様」
そう言うと、目を合わせどちらともなく笑い声をあげる。世界有数の商業国家トレシア。今日も活気あふれるこの国の王太子と王太子妃の休日はもう少し続くのだ。
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