王太子の側近達
ロビンが自室に戻ると、そこには既にアンドリューを初め彼の側近とも呼べる者達が揃っていた。あの後簡単な情報のすり合わせはしたが、全員が集まれたのはこの時間になってしまった。これから、ロビンはあの『魔法』にどう対抗するか、策を練らなければならないのだ。
「リリー様のご様子はいかがでしたか?突然あのようなことが起きてショックも大きかったと思うのですが」
「あぁ、流石に憔悴していたようだが、そこは公族だからね、気丈には振る舞っていたよ。」
心配げに尋ねるのは、ロビンがリリーに言った「トレシアにも魔法を使える者はいる」の一人であるゴードン。とはいえその魔力はリリーよりも更に弱い微々たるものだが、それでも騎士団に所属し、貴重な魔法使いとして重用されている。
「それから、リリー姫の言うにはやはりあの強風は魔法によるもので間違い無いらしい。それも結構強力な魔力を持つ者によるらしく、」
そこでロビンは止まり、言葉を選ぶ。
「あと・・・・・おそらくリリー姫の知るベルン公国の者ではないか、ということだ。」
その言葉に彼らは息を呑んだ。
「ある程度予想はされていたことですが、厄介なことになりましたね。ただ、あくまでも想像でしかない我々の考えとは違い、魔力からある程度犯人を絞れるのはありがたいことですが。」
とはゴードンの言葉。
「あぁ、姫もこちらの調査に協力してくれると言っていた。また早いこと彼女を訪ねてみてほしい。」
「かしこまりました。明日にでも早速」
そう言ったゴードンを見たロビンはなにかを言いかけるがその前に発言をする者がいた。
「ですが殿下、いえ、申し訳ございません。」
「いや、続けてくれ」
殿下が口を開こうとしたのを見て謝るのはリチャード。騎士団の有望株であり、ロビンの護衛を担っている。そんな彼に構わない、とロビンは後を続けさせる。
「大変申し上げづらいのですが、魔法、ということですと最も疑うべきはリリー姫、ということになるのではないでしょうか?」
その言葉に先程以上に場の皆が息を呑む。確かにリチャードの言うことはもっともではあるが、王太子の婚約者を疑うような言葉を真正面から突きつけるとは。流石にロビンと付き合いの長い彼らでも躊躇していた言葉に皆目を見合わせる。
事実ある者は
「リチャード、いくらなんでも証拠もなしにそのようなことを言うのはリリー姫に失礼ではないのか?」
とたしなめる。
しかしそんな彼をロビンが目で制すると、ついでリチャードへと目を向ける。
「いや、リチャードの言葉はもっともだ。現状この国で最も疑うべきはリリー姫。それは私の婚約者であろうと関係ない。その考えは我が国を守るものとして当然だし、私の不興を買う覚悟で進言する心がけも評価すべきだ。ただ・・・・・それはそれとして、今回の件についてはリリーではない。それは確かだ。」
疑わしいといいつつ彼女ではない、とはっきり言い切った王太子に側近達は怪訝そうな顔をする。そんな彼らを見回すと、ロビンは少し声を細め
「これから話すことは特に機密にすべき事項だ。漏れればその出処は故意過失を問わず重く罰する。そのつもりで聞くように。」
脅しのような文句は王宮で国家機密を扱う際に謳われる文句だ。側近達はその言葉に居住まいをただしそれぞれの所属に則って宣誓をし、応える。
「リリー姫はたしかにベルン大公家の長女であるが、その魔力は大公家の中で特出して弱い。」
その言葉に側近たちは驚きを隠せない様子を見せる。そんな様子は予想されたのだろう。ロビンは更に続きを話す。
「ゴードンはあの時東屋が光ったのを見たと思う。あれが彼女の魔法だ。どうやら彼女は侍女を救うため嫁入り道具の魔石も使って魔法を使ってくれたようだが、それでもあの場で見せた魔法が精一杯だ。通常ならばりんごを少し宙に浮かせる、と言った程度が限界らしい。」
魔法で知られるベルンの姫君がほとんど魔法が使えない。密かに噂になってはいたもののまさか本当だとは思っていなかった面々はこの場で最も魔法を使えるゴードンを見る。皆の視線を受けたゴードンはロビンに促され発言する。
「確かに、もっと近づいてみなければ詳しいことはわかりませんが、何度かリリー姫にお会いしした際には魔力を感じず不思議には思っておりました。もしああいった強い風を起こす魔法を使えるのであれば私でも魔力を感じることは出来るはずです。」
「そういうことだ。」
ゴードンの言葉にでは、とアンドリューが疑問を投げる。
「しかし、ベルン大公はあちこちの国とリリー姫の婚姻を模索してましたよね。『ベルンの至宝』も大公のウリ文句ですが、しかし彼女が魔法を使えないなどということは一言も話していなかったのでは?』
その言葉にゴードンも首をかしげる。
「我が国は魔法をほとんど使いませんからね。むしろ強すぎる魔法は恐怖の対象とさえなりますからリリー姫の魔力は好都合かもしれません。我が国の政略的なこの結婚の意味はそこにはないですし。しかし多くの国はベルンの姫君に魔法の恩恵を求めるでしょうし、嫁いだ先でそのことがばれれば怒りを買うのでは?」
トレシアがベルンと婚姻関係を結ぶのは、各国が商業で発展したトレシアとのつながりを欲しがる中、国力の弱いベルンを選ぶことで各国の妬みを買わないようにするためだ。しかしゴードンの言う通り、国によっては魔力を持たない姫が嫁いでくれば「騙された!」と怒るだろう。むしろそういった国のほうが多いかもしれない。
そんな彼の言葉にロビンは落ち着いているようで、その裏に怒りを潜ませた声を出す。
「大公殿はそれも計算の上だったのだろう。仮に怒ったところで嫁いだ後であれば、国同士の取り決めは早々変えられない。相手の国だって、大々的に公にすれば自国の情報力のなさを晒すことになりかねないから大っぴらには騒げないだろう。ベルンに対してはな」
「ベルンに対しては」その部分に強い怒りを込めたロビンに側近の面々も彼の気持ちを推し量る。その怒りを代弁するのは、同じ魔力を持つものとして苦労もしただろうゴードンだ。
「魔法が予想していたように使われないことに対する怒りはすべて姫に向くでしょうね。それを承知で嫁がせるとは・・・・・。大公もなかなかなことだ」
「まあ、そのような事態はリリーが私の婚約者となったことで避けることが出来た。他国のことだからな。大公が姫をどう扱おうと思っていようが我々に干渉は出来ない」
そこでロビンは言葉を切る。そして不敵に笑うと
「ただし、今彼女は我が国の次期王太子妃だ。そのことを理解していない者がおそらくあの国にはいる。売られた喧嘩は買うぞ!」
王太子の言葉に一同がうなずく。彼らの持ち寄った情報を元に王太子は計画を立てていくのだった。
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