第161話、待機(退屈)
賢者が騎士団の団長を脅してから翌日・・・どころかすでに三日たっていた。
その間やる事の無い賢者としては、退屈で退屈で堪らない。
ただし騎士団長も『明日以降』としか言っておらず、抗議しに行く訳にもいかない。
「おっせえのう・・・」
それでも余りに待たされているこの状況では、この呟きも仕方ないだろう。
等と、誰にしているのか解らない言い訳を心の中でしながら呟く賢者。
遅くても二日後には事が動くと思っていたので、どうにも肩透かしを食らっている。
「仕方ないさ。条件が条件だからね。大分揉めているんじゃないかな」
ただ賢者の正面に座る青年は、そんな賢者を諭す様にしながらお茶を飲む。
実際は賢者も青年が正しいと解ってはいるのだが、それでも何も無い日々は退屈だ。
せめて外で魔法の訓練でも出来れば良いのだが、あの騒動の後ではそうも行かない。
下手に城内で魔法を使おうものなら、兵士や騎士が集まって来るだろう。
とはいえ室内で出来る訓練はやっているが、所詮室内で出来る範囲でしかない。
「お主の父なら即日動きそうなものじゃがな」
「あの人を基準に考えちゃダメだよ」
思わず反論してしまったが、青年の言い草もそれはそれで良いのかと思う賢者。
しかし実の息子である青年の言う通り、自国の国王は少々おかしい。
国王の癖に自身で戦える技量を持つ人間だ。普通国王はそんな技量を持たない。
勿論の『部族の長』等であればそういう事もあるだろう。
だが基本的に国王とは、民を収め導く者であり、戦闘技術は必要ない。
言ってしまえば象徴の様な存在であり、守られるべき存在なのだ。
「ふん、勿論解っとるわい。じゃが同じ立場として覚悟だけは持っておくべきじゃ」
だが、だからこそ、国王としての務めを果たす必要がある。
象徴として国の頂点に居る以上、国を守り導き統べる義務がある。
ならば今回の不始末に対し、迅速な対処が本来必要なはずだ。
だと言うのに国王は、そして王族達は、自分の命惜しさでごねているのだろう。
護衛を付けられない事を。付けたとしても武装できない事を。
賢者の前に何の用意も無く対面する事を避ける為に。
でなければこんなにも時間がかかっているはずもなく、既に話は終わっているはずだ。
「まあ、ごねているのが国王だけとは限らないけどね」
「他に誰がごねそうなんじゃ?」
「王族以外の地位の高い者。後は接触して来た団長以外の騎士団とかかな」
「・・・確かに、ありそうじゃの」
賢者に接触してきた騎士団長は、第二騎士団を名乗っていた。
つまり最低でも第一が存在するという事である。
賢者にはこの国の騎士団が、どういう地位を持つのかは解らない。
だが第一と第二と組織が分かれていれば、恐らく何かしらの軋轢もあるだろう。
それが団員同士の個人程度ならば良いが、もし団長同士に存在すれば。
間違いなく話は纏まる訳がなく、それこそ言い争いになっておかしくない。
そして今回王族との話し合いと言う事になるが、その場には王族以外も居るだろう。
どの程度の人間が集まるのかは解らないが、それでも高位貴族は数人居るはず。
そしてそういった貴族の多くは、自らが危険な場に立つ事を望まない。
「騎士団は兎も角、貴族共は義務を果たす気が有れば話は纏まるじゃろうに」
「誰も彼もが君の父の様に高潔じゃないのさ」
青年の言葉を聞き、自分の不始末を収める為に首を差し出す父を思い浮かべる賢者。
あの父ならばやりかねないと思う。いや、むしろ祖父こそが首を差し出しそうだと。
「・・・その点を考えれば、褒めるのは悔しいがあの団長は貴族じゃの」
「そうだね。だから言っただろう。彼なら信用できると」
「ふん、儂は何も知らん子供じゃからの。実際に話さんと信用出来んわい」
「ふふっ、そうだね」
膨れてプイッとそっぽを向く賢者に対し、青年はニコニコ笑顔で応える。
ただしその笑顔の理由の大半は、賢者が膝に乗っている事ではあるが。
この会話の間もずっと賢者の耳を触っており、青年はご機嫌極まりない。
「私としては、こうやって毎日を過ごせれば、何の不満も無いけどね」
今回王族との話し合いをするにあたり、賢者は確実に自分の能力では足りない自覚が有る。
老人まで過ごしてきた人生経験は、政治をする者達の搦め手をいなせるか怪しいものだ。
あくまで魔法使いとしての頂点でしかない賢者は、難しい話を青年に投げるつもりでいた。
それ故に報酬代わりと言っては何だが、青年の機嫌の良い様にさせている。
(・・・こやつは何と言うか、ブレがないの・・・まあ良いか。熊よ、万が一は頼むの)
『グォウ!』
そんな青年に若干呆れつつ念の為と、熊へ万が一の対処を頼む賢者であった。
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