第152話、手紙(テンプレ)

 夜会で賢者が大暴れした翌朝、のんびりと起きた賢者に侍女が差し出す物があった。

 一体何かと目を向けると、それはある意味で予想通りの物だ。


「ザリィよ、これは何時頃に?」

「日が昇る頃でしょうか」

「思ったより動きが早いのう・・・」


 それは複数の手紙。しかもかなり上等な紙が使われた物だ。

 まだ封を開けていないので内容は解らないが、少なくとも差し出し主は解る。

 封蝋にある印は王族の物であり、であれば昨日出会った王族の誰かであろうと。


 勿論これらの手紙が来る事は予想していたが、まさか早朝からとは思っていなかった。


「とりあえず封を開けてみるか。ザリィ」

「畏まりました」


 自ら封を開けない様に、侍女に指示して封を開けて貰う。

 そうして中を確認してみると、どれも内容自体は大差が無かった。

 今まで余り国交が無かった貴国が訊ねた機会に、今後良い関係が築けないかと。


 きっと良い話が出来ると思うので、茶でもどうかという内容だった。


「全員変わり映えのせん内容じゃのう。明らかに当たり触りの無い言葉で誘って来たのがようわかるわい。とはいえ動きが早い事だけは褒めるべきかのう」


 余りに同じ様な内容に、賢者は正直呆れた気分が強い。

 何故ならそこに「先日の非礼」という文章は一切無いのだ。

 つまりあれは、我々とは違う王族が起こした事でしかない、という事だろう。


 もしくはたとえ非礼を詫びるとしても、書面として証拠を残したくないという事か。


「結局の所、他の連中もあの王子共と変わらんという事か」


 表面上はにこやかに、穏やかに、子供の機嫌を取る様に挨拶をして来た者達。

 そしてその和やかな顔が本当の私達ですよと、そう言いたいのだろう事が良く解る。


「・・・ふむ?」

「どうされました」

「いや・・・国王陛下からの誘いもあるんじゃが」

「・・・その様ですね」


 賢者が手紙を見せて来るので、侍女も横から内容を見て少し驚く。

 この段になって国王が動くとは思っておらず、二人共少々驚きを見せていた。


「国王直々に謝罪という事か?」

「お嬢様を罠に嵌める為、の可能性もあるのでは」

「それは流石に馬鹿が過ぎんか?」

「先日の第一王子の話を聞いてしまうと、有り得ないとは言えないと思いますが」

「・・・それは・・・うむ」


 侍女の言葉に反論の事がば浮かばず、少し唸って頷くしかない賢者。

 あの王子の横暴を許している国王だと思うと、確かにまともな王を期待できない。

 そんな王がこのタイミングで賢者を呼んだとなれば、悪い方に考えるのもおかしくない。


「とりあえずローラルを呼ぼうか。難しい事はあ奴に投げよう」

「畏まりました」


 賢者は一人で悩んでも仕方ないと判断し、青年を呼ぶ事に決める。

 そして侍女が使用人に指示を出している間にも、賢者は一人思考を続けていた。


(儂らが持っている情報は、国王は第5王女を救いたい、と思っているという話じゃ。それが本当か嘘かは解らんが、もし本当なのであれば・・・この誘いはその話では無いか?)


 先程の侍女の言葉に頷きはしたが、手持ちの情報を繋ぎ合わせた賢者はそう考える。

 ただしそれはあくまで王女の口から出た事であり、それも真実とは限らない。


(じゃがその為に儂らを呼んだとなると、この結婚式もおかしな話なんじゃよな。結婚する王族は国内の高位貴族との結婚じゃし、他国の客を急いで呼ぶ理由は無い。他国の王族と結婚するのであればまだ予定の問題も理解は出来るが・・・何より派閥的には強い貴族の様じゃし)


 今回結婚する王族は、派閥的には第一王子と同じ血を引く者だった。

 正直派閥に興味が一切なかった賢者は、その事を青年から聞いて初めて知った。

 だがそうなると、賢者を誘う目的を持っていたのは、第一王子という事になるのではと。


 良く考えれば賢者を迎えに来た貴族も、第一王子の手の者と口にした。

 そして式に出る者が第一王子の派閥となれば、つまり日程もその派閥が決めた事。

 賢者が断れずに国に来るように仕向けた本人達は、けれどその行動は目も当てられない。


(だがそう考えれば、第二位王子が儂を馬鹿にしただけ、という理由はしっくりくる。その後自分の兄が馬鹿を晒すのを解っていて助けなかった事も。おそらくは、自分には関りの無い事だと思って居ったんじゃな。じゃが自身の行動でそうも行かなくなった)


 手紙の中にはしっかりと第二王子の派閥が居る。それも青年に昨日教えて貰った。

 となるとどうにかして賢者の、というよりも青年の機嫌を取るのが目的だろう。

 後継者争いなどしている連中だ。出来るなら大きな戦力は味方につけたいはず。


 少なくとも賢者と敵対する事で、国益を損なう結果を出したという事実は起こしたくない。

 そんな解りやすい感情が溢れる手紙を見つめながら、賢者はうんと大きく頷いた。


(解らんな! とりあえず国王に会ってみるか! 熊よ、守りは任せた!)

『グォン!』


 そうして結局青年が来る前に結論を出し、能天気に行動を決める賢者であった。

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