第151話、結果(待ち)
王子が去って行った後も賢者と青年はその場に残り続け、微妙な視線を受け続けてい居た。
ただその後また別の王族達の入場が何度かあり、その際には一切の面倒は無かった。
言ってしまえば『賢者の事を把握している』という態度だったのだ。
(他の王子から聞いたか、自分の手の者を潜ませているのか・・・後者の可能性が高いかの)
賢者は一応釣り針を垂らしてはいたが、これはもう無理だなと判断し始めていた。
当然青年も同じ考えに至り、終わりが近づき始める為に会場を後にする事に。
当然徒歩ではなく車で移動し、与えられた客室へと戻った。
「おかえりなさいませ、お嬢様、殿下」
「うむ、ただいまザリィ」
「おや、私を労ってくれるなんて珍しいね」
出迎えた侍女に笑顔で返す賢者と、本気で珍しいなと思い口に出してしまった青年。
けれど侍女は青年の言葉に応える事なく、賢者が楽に過ごせる様に動き始めた。
「お嬢様を着替えさせますので、少々こちらでお待ち下さい」
「うん、解ってるさ」
「退屈でしたら気にせずお帰り下さい」
「ははっ、うん、了解」
これでこそだと言わんばかりの笑いで青年は応え、賢者はそんな二人に苦笑するしかない。
仲が悪いのか良いのかいまいち分らんと思いながら、侍女に促されるままに奥の部屋へ。
そして夜会用に着飾っていた衣服から、もう少し気軽な衣服に着替えさせられる。
とはいえ城の中で過ごす以上、それなりの格好をさせられてはいるが。
「のうザリィよ、今日はもう外に出る気は無いし、後は寝るだけなんじゃし、もうちょっと楽な格好で良いと思うんじゃが」
それでも賢者にとっては堅苦しく、もう寝間着で良いではないかと口にする。
けれど侍女はそんな賢者の要望を聞く事なく、着替えを済ませて髪を結い始めた。
「まだ殿下とお話をされるのでしょう。であれば寝間着ではいけません。未婚の淑女が男性の前で寝間着など、貴族としては余り褒められたものではありませんよ」
「それはいい歳の男女に限った話じゃろう。儂とローラルで何が起こるものかよ」
「それでもです」
侍女の意思は固く、これは何を言っても駄目だなと諦め大人しくする賢者。
そうして手早く髪が結い直され、最後に姿見で確認してから隣の部屋へと移った。
「待たせたの、ローラル」
「待つのは慣れているさ。それに君をこうして抱えられるなら何時までも待つよ」
戻ってきた賢者に対し、青年は早速抱えて膝の上へと乗せる。
そうして優しく頭を・・・ではなく熊耳を触り始めた。
「夜会ではずっと我慢していたからね。やっと触らせて貰える」
「・・・まあ、好きにしたら良いわい」
何だかんだと青年にも補助してもらい、迷惑をかけている自覚もある。
ならばこれぐらい正当な報酬だろうと好きにさせ、心の中で熊への労いも想う。
(今日は良くやってくれた。ありがとうの、熊よ)
『グォン!』
賢者の為なら当然だと嬉し気に応える熊と、心の中で熊の頭を撫でる賢者。
その間に侍女がお茶を用意し、賢者も青年も茶を口にして一息吐いた。
「さて、あれだけやらかせば、皆多少は見る目が変わるじゃろう?」
「そうだね、他国の貴族の目の前でやった訳だからね。それも一人二人ではなく、大勢の証言が取れる状況で。これで何も理解しなかったらただの馬鹿だよ」
「後ろに居るお主がこっそりとやったのでは、と思う奴も居そうじゃがな」
「君の精霊化を見てそう思うなら、その国の護衛か貴族は無能だね」
「ふむ・・・」
ははっと笑いながら告げる青年に対し、賢者もそれはそうかと納得した。
要人を守るべき場に居る者が、精霊化の力を見抜けぬ筈は無いかと。
とはいえ青年は『居ない』と言っていないので、実際は居る可能性も感じているのだが。
本人の言う通り、無能が無能な判断を下す、という事態を。
とはいえそうなった所で最早関係は無いと思っており、ならば賢者に言う必要も無い。
自滅するなら勝手に自滅すれば良い。青年にとってはその程度の認識だ。
「さて、今日の事態を踏まえて、誰がどう動いて来ると思う?」
「第一王子の動きは正直読めないね。流石にあそこまでとは思ってなかった。事情を理解していないとしても、国賓の淑女に対しあの言動は無い。まあうちを辺境の小国と侮っているからって言うのも大きいと思うけど、だとしても余りにも酷い」
「まあのー」
第一王子。そう口にした瞬間青年の眉間に皺が刻まれ、同時に侍女がピクリと動いた。
鋭い目で青年の語る内容を聞き、拳を握っている様子から怒りが見える。
賢者はその事に気が付いてしまい、話を次に進めようと適当に流した。
「第二王子はどうするのかのう。儂に一番に恥をかかされた訳じゃが」
「先ずは静観するんじゃないかな」
「仕返しには来んと?」
「出来るならしてくるかもしれないけど、ナーラに手を出すリスクを彼はしっかりと理解している様に見えたからね。その上君の後ろには私が居た。君を子供と思い機嫌を取りに来た所で、彼の本心は私が理解している。ならば下手に動くのは更に機嫌を損ねると思ってるはずさ」
「ま、その為にお主と仲睦まじい態度をとっていた訳じゃしの」
会場の者達が賢者を馬鹿にしているのは解っていたし、賢者のお守りは同情されていた。
だが賢者が力を示した事により、周囲にとっては青年こそが面倒な相手となっている。
青年が周囲の馬鹿にした考えを賢者に伝えれば、それだけで話がこじれると理解して。
つまり青年は幼児のお守りではなく、化け物の手綱を握る人間だと認識されたのだ。
「だから接触して来るなら、今日ちゃんと挨拶をした王族達の誰かになるんじゃないかな。第二王子と同じ母を持つ者も居たし、自分が動くよりもそっちに任せると思うよ」
「成程のう・・・」
とりあえずは明日だなと、賢者は一息吐きながらお茶を飲む。
(・・・結局会場に第五王女も第五王子も現れんかったか。もしやとは思っていたが、やはり第五王子は・・・いや、その辺りは本人から聞けば良いだけの事か)
最後まで夜会で顔を合わせなかった王族の事を考えながら。
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