第146話、計画(悪だくみ)
今回の王族の結婚式は、ほぼ間違いなく賢者を誘い込む為に行われたと思って良い。
それはおそらく国王というよりも、第五王女の意図が絡んでいたのだろう。
だが式であり他国から賓客を呼ぶ以上、賢者だけを呼んで終わる訳にはいかない。
交流のある他国へも、期日の短さによる謝罪と共に招待状を送っている。
ならば当然急いで来る国もあれば、期日ギリギリにやって来る国もあるだろう。
近い国もあれば遠い国もある。到着時間に差が出るのは致し方ない事だ。
ただ早めに到着した者達とて、早く到着する事は解っていたはず。
ならば何故早めに来たのか。それは単純にこの国との繋ぎを作る為に他ならない。
大国と諍いの無い様にやって行く為に、この国の王侯貴族との顔を繋ぐ為に。
「じゃから儂らにもこの招待状が届いておる。これを利用させて貰うとしようか」
ぴらっと賢者が見せたのは、城に滞在している者全員に送られている招待状だ。
早めに滞在している者達の意図を組み、目的を果たせるようにと作られた場。
基本的には茶会の類が多いが、中には夜会の類も入っている。
賢者と青年は「動きが無い」と言っていたが、一応この手の招待状は受け取っていた。
とはいえ先の通り全員に配られる招待状なので、動きの一つとして見ていなかったのだ。
何か事を起こすなら直接来るだろうと、それまでじっと動かずに待っていた。
「この場には王子共も現れる。儂らに良く解らん接触をして来た第一王子もな。おそらくじゃが第一王子様は儂らの力を信じておらん。じゃからその態度も今から察せられる」
だがここに至ってはもう待つつもりは無い。賢者は自分から打って出るつもりだ。
女児故に迫力は少々足りないが、獰猛とも言える笑みでそう宣言する。
「王子殿下の前で何をするつもりなんだい」
「さて、何をしてやろうかの。何せ儂女児じゃからな。うっかり何をやらかすやら」
「余程の事でない限り止めないから、せめて詳細を教えて覚悟を決めさせて欲しいな」
問いに対し惚ける賢者だが、小さくため息を吐いて応える青年に少し悩む様子を見せる。
言えば止められると思っていた様で、この辺り無茶をする自覚はやはりあるらしい。
とはいえ止まる気が無いという点では、結局どちらにせよ同じ事だが。
「なに、簡単は話じゃよ。世間知らずでおバカな娘が王子様に褒められおだてられ、自分の出来る事を自慢げに見せびらかすだけじゃよ。それをどう思うかはあちら次第じゃがな」
そうして賢者が語たると、青年は内容を咀嚼する為に一拍措いた。
一瞬何を言っているのか解らず、けれどすぐに真意を理解した顔を見せる。
「・・・まさか、精霊化をやるつもりかい」
「ご名答じゃ。攻撃の為でなければ何にも言われんじゃろうよ。王子が褒めておだててくれる様に女児らしく振舞って見せるわい。くくっ、どんな顔をするか楽しみじゃの」
「・・・確かに、効果的かもしれないね」
賢者は気軽に精霊化をしているが、何だかんだと相当な魔力量が必要な技術だ。
その辺の魔導士程度の魔力量で精霊化すれば、維持できる時間はどれほどのものか。
少なくとも賢者の様に何時までも精霊化し続ける、などと言う事はけして出来ないだろう。
もし賢者と同じレベルの精霊化をしようと思えば、それこそローラル達と同じ状態になる。
つまり魔力が足りない分を生命力で補い、精霊化が溶けたと同時に死に至るだろう。
それだけの魔力を放ち続け維持し続け、けろっとした顔で翌日も行動していれば。
王子達が魔法技術に長けていなかったとしても、会場には絶対に護衛が存在している。
その中には当然魔法使いが居るであろうし、ならば賢者の異常性に気が付く事だろう。
むしろ気が付けない魔法使いであれば首にした方が良いまである。
そして当然ながら他国の貴族の護衛も、精霊化をする賢者を見る事になるだろう。
何よりもその場に居るのは、王族の式に参加するような貴族、という点が大きい意味を持つ。
そんな貴族達に護衛が賢者の危険性を説けば、各国の認識は一気に変わるだろう。
お飾りの神輿と思われていた女児は、一気に脅威の精霊使いに変貌する。
青年はそう結論を導き、一つ大きなため息を吐いてから賢者に視線を合わせた。
「解った。止めないし、協力するよ。君がそれで良いならね」
「構わんよ。むしろこの状況を我慢する方が限界じゃわい」
「ははっ、犠牲になる王子様が可哀そうになるね」
本気で我慢の限界だと、顔を歪ませながら告げる賢者に青年は乾いた笑いを漏らす。
だが言葉程王子に対して同情の気持ちは無い。むしろ因果応報とすら思っている。
自分達の国がどれだけ大きいのか知らないが、我々を舐めた報いを受けるが良いと。
賢者に余計な事を言わない様にしていたが、実はあの一件で青年も大分ご立腹だったりする。
当人である賢者が『無かった事』にしたが故に、それ以上動く事をしていなかっただけで。
上手く立ち回る術は無いかと悩んでいたのは、賢者を想って大人しかったにすぎない。
「それじゃあナーラが上手く暴走しやすい様に、しっかりとエスコートさせて貰うよ」
「暴走・・・間違っておらんとは思うが、そう言われるとちょっと躊躇するのう」
「じゃあ止めとくかい?」
「嫌じゃ。絶対にやるぞ。連中に目にもの見せてくれるわ」
そうして早速、今日の夜会にて賢者の計画は実行に移される事となる。
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