第145話、対策(ぶち切れ)
賢者は何かを思いついた後即座に動く・・・事は流石に無く、青年へ連絡を入れる。
そして連絡を受けた青年はと言えば、まだ答えが出ずに悩んでいた。
ただ賢者とは別で行動を起こそう、と思っていた所に連絡が入る事になる。
このタイミングで呼び出しをするという事は、何かの答えを出したのか。
答えが出ていなくとも、何かしらを思いついたのだろう。
そう判断した青年はすぐに賢者の下へと向かった。
「ナーラ、何か思いつい・・・」
使用人に室内へ誘導され、早速賢者に訊ねようとした青年は言葉に詰まった。
視線の先に居る女児から明らかに不穏な気配を感じしてしまったが為に。
普段魔力を抑えて微かにしか漏れていない賢者から、強く魔力が流れている。
そこで青年は、賢者がどれだけ怒りに満ちているかを理解してしまった。
「・・・何か、思いついたのかな、ナーラ」
青年は驚いた心を落ち着け、あえて同じ言葉を口にして訊ねる。
すると賢者はニコリ、というよりもニヤリとした笑顔を青年に向けた。
「ああ、思いついたわい。このムカつく現状をどうにかできる手がのう」
「わぁ・・・」
嫌な予感しかしない。そんな言葉を飲み込みながら賢者の前に座る。
今日は何時もの様に膝に抱えて耳を揉む様な事はしない。
流石に今の賢者にそんな事をすれば、この怒りが自分に向きかねないと解っている。
「話を聞かせて貰えるかい?」
それでも何か打開策になればと、賢者の出した答えを聞く態度を見せる青年。
「第一王子に会いに行こうと思っとる」
だが賢者が告げた言葉が予想外過ぎたせいか、青年は思わず固まってしまった。
むしろ思考が止まったと言っても良い。そして数秒間無言で見つめ合う二人が出来上がる。
けれど何時までもそんな状態では居られないと、青年は気を取り直して口を開いた。
「どういう事だい。あの王女と敵対する、という事かい?」
王女との敵対。それは現状を見れば面倒だが、後々を考えれば正しいとも言える。
この国の国王が力を持つとしても、それでも庇い入れないのが王女の存在。
そしてそれは同時に他の王族と繋がる貴族の力が強い事を示している。
ならば力の強い王族と手を組む事が出来れば、国王も下手に手を出す事は出来ない。
そうなれば王女の願いを断ったとしても、賢者達の国に被害は無いだろう。
とはいえそれはそれで、他の面倒が起きる可能性も無い訳ではないのだが。
青年はそう考えて訊ねると、賢者は更に魔力を漏らしながらニヤッと笑う。
「あの娘に敵対なぞはせんよ。儂がやるのは、この国との敵対じゃ」
「待って待って待って」
流石に青年も慌てた様子で賢者の言葉を遮った。
確かに青年もこの国に対し、出来る限りの嫌がらせを返すつもりではある。
それは旅の往復にかかる金の請求であったり、顔を合わせた時の嫌味であったりと。
けれど本格的に敵対行動をとる事になれば、そんな可愛い話では済まない事になる。
この国は大国だ。そして魔法使いも当然多い。小国とは比べ程にならない数だ。
そんな国と戦争になってしまえば・・・賢者ならば勝つ事は出来るかもしれない。
けれどそれは、まともな戦争を仕掛けてくれたらば、という前提付きだ。
何よりもこの国は賢者達の国を恐れていない。簡単に潰せる国だと思っている。
少なくとも賢者が先程口にした第一王子や多くの貴族はそう思っている可能性が高い。
だからこそ明確な敵対は避ける為に、何か手は無いかと頭を捻っていたのだ。
「ねえナーラ、何故私達がこの国に来たか、忘れてはいないよね?」
「覚えとるわい。この国と面倒な諍いを持たん様にじゃろう」
「なら何故そんな答えになっちゃったんだい・・・」
「決まっとろうが。どう考えてもこの状況が詰んでおるからじゃ」
「それは・・・そうかもしれないが・・・」
詰んでいる。そう、詰んでいるのは確かだ。王女の願いを聞いても聞かずとも。
どちらを選択したとしても、ただ選択しただけではいい結果は起こり得ない。
それこそ先程青年が考えた通り、国王が何も出来ない様にする手立てを打たなければ。
「安心せよローラル。儂は何も、こちらから喧嘩を売るとは言っておらん」
「どう聞いてもそう聞こえたけど・・・」
「そうかのう? ふむ、すまん。少々腹が立って言葉が足りんかったわい」
少々じゃないよね、という言葉は飲み込んだ青年である。
一見楽し気に笑っている賢者だが、相変らず魔力は抑えられていない。
それ所か話している内に段々と魔力が部屋を埋め尽くし始めている。
「儂らの最大の問題点は何じゃ」
「最大の問題点? そうだね・・・自国が小国である事かな」
「そうじゃ。じゃがなぜそれで問題が起きる?」
「謎かけみたいな事を言うね。まあ大国に逆らう事は出来ないからだけど。諍いになれば周辺の国は当然小国を捨てて大国に付く。だからこそ私達はその状況を避ける為にここに居る」
「うむ、そうじゃな」
先程とほぼ同じ事を口にする青年に、賢者は満足げな表情で頷き返す。
逆に青年は賢者が何を考えているのか解らず、困惑した表情で見つめていた。
「じゃがそれには理由が有るじゃろう」
「理由?」
「儂の力を信じさせないままで良い、という理由がじゃ」
「・・・つまり、力を見せつける、という事かい」
今回の件で賢者が気に病んでいた事を、何度も対話していた青年は知っている。
そしてそんな賢者の気持ちを汲んだ上で、気にしなくて良いと何度か告げた。
この状況は君一人のせいではないと。ある意味で健全な国になれた証拠だと。
だからこそ賢者が出した結論は、青年にとっては望ましいとは思えない物だった。
賢者を警戒をしない者が居るのであれば、むしろその方が良いとすら思っていたのだ。
だと言うのに目の前の女児はその状況を覆す一手を打とうとしている。
「おうよ、それも他国の貴族も見て居る前で、そしてこの国の第一王子の前でのう。どうやら王子様は儂らを舐め腐っておる。ならば好都合ではないか」
しかもこの国と自国だけではない、複数の国家を巻き込んだ混乱を起こさせようと。
「なーんで儂らが一方的に我慢せにゃならんのじゃ。連中にも選択をさせてやる。儂らと本当に敵対をするのか、友好的に接するのか、それとも傍観するのか。何もせんならそれで良い。じゃが何かしら事を起こすと言うのであれば、危険をしっかりと理解してもらおうぞ・・・!」
だが怒りを吐き出す様に語る女児の様子に、これはもう止められないと悟ってしまった。
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