第142話、王女(第五)
賢者が誘いを受けると、そう使用人に応えると早速城の中を案内された。
恐らく関係者以外は入れないのであろう警備の中を、兵士や騎士達に見られながら。
その道中で護衛が減る事と武装の解除を求められた事で、ひと悶着は有りはしたが。
どうやら王族が居る場所では武装を認められないとの事らしい。
大人数の護衛に関しても同じ事であり、護衛の数は少人数に留める様にと。
王族の住む場所へ入る通路の手前で警備する騎士達にそう告げられた。
当然と言えば当然の処置ではあるが、この国は賢者達にとって敵地に等しい。
その事を理解している護衛達が素直に納得出来る事では無い。
「案じてくれる事には感謝する。じゃがここは素直に従ってくれ。頼む」
ただ賢者が申し訳なさそうに頼んだ事で、渋々ながら了承した形になった。
今付いて来るのは賢者の侍女と護衛隊長、そしてローラルの侍従とグリリルだ。
(武装解除を求められたが、魔法使い相手にはどうするつもりなんじゃろうか。儂らの内三人は武器無しでも問題なく戦えるんじゃが。ローラルは武器が無くとも隠密能力があるしのう)
剣士は剣を持っていなければ確かに戦闘能力が落ちる事となる。
だが魔法使いであれば、武装など何も無くとも何の問題も無い。
そんな風に賢者は思い、けれど口にはせずに案内のままついて行く。
護衛達から離れた後も暫く歩き続け、更には城を出て車に乗る様に促された。
どうやら誘った人物は離宮に住んでいる様で、そちらに向かうと言う事らしい。
そして離宮に向かうには徒歩では遠いと、車での移動をするとの事だ。
(幾つも立派な建物が在るが、あのどれかにという事かの)
罠の可能性を感じつつも促されるままに車に乗り込み、走り出す車の中から外を眺める。
城内だと言うのになかなかの速度で走る車は、暫くしてゆっくりと速度を落とした。
そうして到着した場所で賢者が見た物は、周囲に見える中でもひときわ小さい建物。
勿論一般の建物に比べれば立派であり、他の比べれば小さいという程度だが。
(・・・王族の中では地位の低い者、と考えるが妥当か)
青年に目配せをしつつ、お互いに同じ認識だと言う事を確認しながら離宮へ足を踏み入れる。
そうして通路を少し歩いた先の一室で、警備をしている者達に一度止められる事に。
武装をしていないかの確認の為であったが、賢者と侍女とグリリルには何もされなかった。
(・・・良いのかそれで。儂らが毒など持っておったらどうするんじゃ)
賢者がそんな疑問を持つも、確認はすぐに終わり室内へと通される。
そこに居たのは賢者よりは歳は上だが、まだ子供と言える年齢の少女。
それと少女の護衛であろう者達と使用人が腰を折って賢者達を出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました。お誘いを受けて頂き大変感謝いたします、ナーラ様」
「こちらこそ、歓迎感謝致します」
少女は大人びた様子で挨拶を口にし、賢者も令嬢となって返答をする。
「王太子殿下にはご足労頂き申し訳ありません」
「お気になさらず。私もお誘い頂き感謝しておりますよ」
そうして青年にも挨拶をして、青年自身も王太子としてにこやかに返す。
現状目の前の少女が何を考えているのかが解らない。
である以上先ずは友好的に、というよりも当たり前の礼儀を返すだけだ。
「お二人共、どうぞお座りください」
少女に促されるままに、既に茶会の用意がされている席に着く。
そして二人が席について護衛が後ろについた所で少女が再度口を開いた。
「既にお手紙にて書かせて頂きましたが、改めて名乗らせて頂きます。私はミュランダ・ジ・オルグと申します。この国の第5王女・・・とは言っても地位の一番低い側室の娘ですが」
少女はどこか陰りのある笑顔を見せながら、自嘲するような事を口にした。
いや、様なではなく自嘲なのだろう。王族でありながら自分には王族の力が無いと。
そんな少女の態度に賢者は何と答えるべきか、少し悩む様子をせ見て居た。
「ふふっ、ごめんなさい。突然こんな事を言われても困ってしまいますよね。先ずはお茶とお菓子を、どうぞ召し上がりになって下さい。今日の為に用意したのですよ」
「ありがとうございます。頂きますね」
けれど少女がすぐに可愛らしい笑顔を見せた事で、賢者は内心ほっとしつつ応えて手を伸ばす。
そうして暫くの間は、賢者と青年に旅の道中の事を少女が聞く、という時間が過ぎた。
となれば当然この国に来てすぐの領主一家の話も出て、庭園の話もする事になる。
「まあ、私も見てみたいわ。ナーラ様がそこまで言う程ですし、とても素敵なのでしょうね」
「ええ、とても。ご夫人の想いが詰まった庭でした」
それはただ楽し気に少女達が談笑するお茶会。はた目からはそうとしか見えなかった。
少なくとも青年は若干居心地の悪さを感じる程度には、自分が場違いだと感じている。
なので段々空気になり始めているが、談笑する少女たちはそんな青年を気にしていない。
「いいなぁ・・・見てみたいなぁ・・・」
少女は賢者の語る内容をしみじみ噛みしめ、心から羨ましそうな様子を見せる。
それはまるで、自分の目で見る事はけして敵わないと、そう言っている様に見えた。
「私は拝見できておりませんが、これだけ立派な城の庭も素晴らしいのではないのですか?」
「・・・ええ、そうかもしれません」
ただ城の中の話をした所で、突然少女の表情が曇った。
賢者は一体何故かと心の中で少し焦るも、その理由は察せてしまった。
先程本人が言っていたではないかと。自分の立場は弱いものだと。
となればそんな力を入れた庭園を、のんびり歩く事は出来ないのかもしれない。
いや、別の歩く事は出来るとしても、気持ち良く過ごす事が出来ないのであろうと。
青年も同じ事を考えており、けれど静かに茶を飲んで口を挟む事は無かった。
「・・・ナーラ様。ご迷惑を承知で聞いて頂きたい事がございます」
「なんでございましょう、殿下」
そうして、本題が来たと、そう思った。少女の決意の表情を見せる言葉を聞いて。
「私に力を貸して頂けませんか、ナーラ様」
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