第120話、結論(予想通り)
領地から旅立って数日後、賢者達一行の車は王都の街中を走っていた。
勿論事故があってはいけないと速度はかなり落としている。
のんびりと走る車の中から街を眺める賢者だが、その表情は憂鬱と言うのが正しい。
「また王都に来てもうたのう・・・」
「ふふっ、来るのが嫌だったって顔だね」
「王都に来るのが嫌というよりも、お主の父に会うのが嫌なんじゃよ」
「そんな事を平気で言えるのは君だけだよ。くくっ」
青年は自分の父があからさまに嫌がられている事が面白くて仕方ない。
何せそんな態度を国王の息子の自分に対してとるのだから。
勿論これが初めてではないのだが、何度見ても飽きる事は無いと。
「とはいえ私も余り父と会いたくないんだけどね」
「お主ら相性悪そうじゃもんな」
「父の事が心底嫌いという訳ではないんだけど・・・ね」
「お主には悪いが儂は嫌いじゃ」
「ははっ、それは仕方ないと思うよ」
一応青年を気遣いつつも本心を告げ、その間にも車は王城へと向かっていく。
そのまま問題なく王城の門を通り、少ししてゆっくりと停止した。
暫く待っていると扉が開き、侍女が賢者に向けて手を伸ばす。
「お嬢様、到着致しました」
「うむ、ありがとうザリィ」
賢者は侍女の手を取って車を降り、青年もそれに続いて車を降りる。
別の車からは父と母も車から降りており、護衛達は既に配置についていた。
「待っていた、ナーラ嬢」
「おお、リザーロ、迎えに来てくれたのか」
そして丁度良く王城からリザーロが現れ、勿論偶然などとは思っていない。
国王に命じられて迎えに来たのだろうと思いつつ、賢者は手を上げて彼に挨拶をする。
「ああ、陛下がお待ちだ。ギリグ卿も呼ばれている。案内しよう」
そして予想通り国王の命で動いており、彼を先頭に賢者一行は国王の下へ。
向かう先は謁見の間・・・ではなく、以前と同じく国王の私室へと。
「護衛の者達はここで待っていてもらおう」
ただ道中の細い道への入口手前辺りで、リザーロがそんな事を言い出した。
当然皆渋い顔はしていたが、精霊術師の指示であれば素直に従うしかない。
賢者の父が納得して頷いていたから、というのも文句を言わなかった理由だろうが。
そうして以前来た国王の私室へ到着し、また以前と同じ様に頭を下げる。
当然そのまま話を続けるの気ない国王は早々に頭を上げさせた。
国王は顔を上げた一行を軽く見まわしてから、その視線を賢者に固定する。
「何の話をしに来たかは解っているよ。すまないな。ただ単にナーラ嬢に会わせろという事であれば幾らでも断る理由は作れたんだが・・・こうなっては行って貰うしかないね」
「やはり、そうなるか」
「理解している様で助かるよ。ただ君一人で行けなどと言う気は無い。招待されたのはギリグ家なのだから親族も連れて行くと良い。護衛だって好きにつけさせて貰うとしよう。沢山ね」
にぃっと笑う国王の表情からは、少しでも仕返しをしてやろうという意思が感じられた。
だが賢者はそんな国王の言葉に対し、クシャっと顰めた表情になってしまう。
「変に刺激して儂らが大変な目に遭うのは嫌なんじゃが?」
「まさかまさか。そんな事になればあちらは大恥じゃないか。大国が国賓で招いた者達に害が及ぶ様な事なんてまさか起こるはずが無いだろう。それにもし文句が有るなら大国自ら騎士の派遣でもするべきさ。君は我が国の重要人物なんだからね。こちらに落ち度は何も無い」
にこやかに告げる国王だが、賢者はそれでも渋い顔のままだ。
つまりそれは建前上問題無いと言っているだけなのだから。
相手を刺激しないかどうか、という点についての返事にはならない。
だがそんな賢者の様子を見ても国王は笑顔を崩さずに続ける。
「今回の件で君の実力を信じている者も居れば信じていない者も居る。それはそうだろう。君の力は規格外に等しい。そんな力をこんな幼児が持っているなんて、全員が信じると思うかい?」
「・・・そう言われると、そうじゃな」
小さな幼児が軍を壊滅させる力を持っている、と聞いて素直に信じる事が出来るだろうか。
出来ないからこそ魔法国家は滅ぶ事になった訳で、そういう人間達はどこにだって存在する。
そう、今回呼ばれた大国でも、賢者の力を信じていない層は居るのだ。
「君が下手な面倒に遭わない為にも護衛は多めに連れて行かせる。それに君は我が国の最大戦力で重要人物だ。その君を適当に送り出す事は国王としても認められない。そしてその程度の事を許容出来ないのであれば何故呼んだと、こちらこそが文句を言いたいね」
国王の言わんとする事は理解出来る賢者は、それでも一つ気になってしまう。
「そんな事をして大丈夫なのか?」
「何か問題が?」
「相手は大国じゃろう。文句を言っては色々と面倒では無いのか?」
事前に父や青年と話した内容があるだけに、文句を言えない立場なのではと。
下手な事を言えば国が窮地に立たされる事になると思い、賢者は素直に聞き返した。
「大国だからこそ人を動かすに足る大義が要る。数が多いとどうしてもね。なら幼児一人を呼びつけた上にその護衛も制限させた王家なんて笑い物になるし、それじゃ人が動く理由がない」
「・・・成程、国内の貴族達の反応を利用するという事か」
賢者は幼児だ。その幼児を国外に呼びつけ、更に護衛を制限させる。
単純に賢者の年齢のみを見れば、きっとその行為は外道にも映るだろう。
むしろこの機会に殺す算段をとっているのでは、とまで深読みする者も居るかもしれない。
大義が無ければ動けないのであれば、その事実は王家にとって痛手になるのだろう。
いわば国としての信用が無くなるに等しいし、他国も我が身に降りかかるのではと恐れる。
そうなれば敵国の居ない大国とて、周辺の小国が手を組み戦を起こす可能性はゼロじゃない。
(ならば幼児を呼びつけた事自体おかしくないのかの?)
賢者はそう思いはしたが、そこは通じない世界の様だ。ままならない。
「かの国は大国だが国王一人の我が儘に皆が付きあう国では無い。幼児一人を苦しめる様な真似をする為に呼びつけた形になれば、むしろ王家が責められる理由が作れると思うだろうね。君は侮られるのが不快かもしれないが、今回はその侮りを利用させて貰おう」
「ふむ・・・」
正直賢者としては自分がどう思われているのかという点はどうでも良い。
自分が気にしているのは単純に家族の安全でしかない。
ただ国王の話を聞く限り、侮られる事で家族を守る事が出来るという事だろう。
ならば賢者に異は無く、むしろ進んで侮られに行こうとすら思っている。
「納得してくれたかな?」
「一応はの」
賢者は何か引っかかるなと思いながらも、そのひっかかりが何か解らない。
故に『一応』とつけたが、国王はそれを無視する様に続ける。
「それは良かった。ああ、同行者にはローラルもつけるよ。招待状は王家にも来ているし、君の婚約者でもあり王太子だからね。式に向かうにこれ以上ない人間だろう?」
「建前上はの」
「ははっ、建前が大事なのさ、こういう事にはね。ともあれ君と君の家族の安全は守らないといけない。そういう約束でもあるしね。そうい訳ですまないがよろしく頼むよ」
「・・・承知した。嫌々じゃがな」
予想通りこうなったかと、賢者は溜息を吐きつつ了承するしかなかった。
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