第111話、革命(結果)
「お嬢様、お手紙が届いております」
「手紙?」
ほぼ日課になった鍛錬から帰り、屋敷に到着すると同時にメリネに手紙が差し出された。
賢者はチラッと目を向けたが、お盆に乗せられていた為にお盆の底以外全く見えない。
とはいえメリネを指定して渡された手紙である以上、詮索するのは余り良くなかろう。
そう思った賢者はメリネの動きを待ち、従兄も賢者に倣って静かに待つ。
ただメリネの表情が渋い辺り、あまり良い手紙ではない事だけは解ってしまった。
「まったく、こんな短い頻度で手紙が来るのは珍しいですわね」
ただそんなメリネを見ていた事で、彼女が手に取った手紙が見えてしまった。
勿論封は閉じられているので、中の内容が見えている訳じゃない。
ただ手紙の封に見覚えがあった。貴族なら普通は知らないはずがない物が見えた。
(王家の印じゃなあれは・・・何やら面倒事の匂いがするの)
何よりも手紙を持つメリネの嫌そうな表情をみて、賢者は余計にそんな予感がしていた。
「全くもう、一体何ですのよ・・・」
ただ当の本人であるメリネはそこまでの様子ではなく、無造作に手紙の封を開けた。
勿論手でビリッといった訳ではなく、きちんとナイフを使ってだが。
ただ彼女は最初こそ面倒な表情だったものの、読み進める内に目が鋭くなっていく。
「・・・そうなりましたか」
そうして小さく呟いた後に、大きな溜息を吐いて肩を落とした。
彼女の様子に賢者が少し心配になっていると、ずいっと手紙が差し出される。
「む、何じゃ?」
「ナーラ様もお読みくださいな」
「・・・儂が読んで大丈夫なのか?」
見間違えでなければ、いや、確実に見間違えていないので王家からの手紙だ。
それを他の家の者が読んで本当に大丈夫なのかと、思わず使用人達を見ながら問う賢者。
けれど使用人達は皆動揺する様子を見せず、メリネも特に気にした風は無い。
「精霊術師にはおそらく全員に出されておりますわ。ナーラ様が家に帰ってから手紙が届いたと聞かされるか、もしくは手紙が届いたと我が家に連絡が入るか・・・どちらにせよナーラ様も知る内容ですので、速いか遅いかの違いでしかありません。お気になさらずお読み下さいな」
「ふむ、お主がそう言うのであれば・・・」
そこまで言われては賢者も断る理由がない。それに気になるのは事実だ。
メリネの言葉に従い手紙を受け取り、中身に書かれている内容に目を通す。
最初は貴族に良くある挨拶の文章が書かれており、そこを読み飛ばして本文へ目を向けた。
「なにっ!?」
ただその内容を見た瞬間、賢者は思わず狼狽えてしまった。
「そんなに驚く事でしたか? 私は当然の帰結だと思いましたけれど」
けれどメリネは賢者の反応を訝しみ、一体何を驚いているのかと首を傾げる。
賢者はそんな彼女の言葉に、驚いた心を無理にでも落ちつけようとした。
「・・・いや、そう、か・・・そうじゃな、当然と言えば当然か」
賢者は一度大きなため息を吐き、そしてもう一度手紙に目を通す。
そこに描かれていた内容は、魔法国家が滅んだという報告だった。
(クーデターは失敗、どころの話ではない結果じゃな)
戦争前に会った魔法使い達。彼らは国を変える為に革命を起こすつもりだった。
首脳陣が居ない状況であればなんとかなると、きっと勝てる算段はあったのだろう。
その結果がどうなったのかは解らない。もしかしたら上手く行ったのかもしれない。
けれどその結果が我が国に届くよりも先に、かの国は責め滅ばされてしまった。
しかも攻め滅ぼしたのがその魔法国家の属国だというのだから救えない。
おそらく前々からずっと狙ってはいたのだろう。でなければタイミングが良すぎる。
(これでは救われんな・・・誰も彼も・・・いや、属国から解放された国は多少なりとも救われた事になるのじゃろうか・・・儂には解らんな。何が正しかったんじゃろうか)
あちらの国の事はあちらの国の事。自分達で始末をつけさせるようにと思っていた。
その結果が国の滅亡とは流石に予想しておらず、そして少し胸を締め付けられる想いもある。
歪んでしまった国だとはいえ、その国はかつての弟子達が作り上げた国だ。
敗戦国の歴史とは往々にして消される事が多い。消されずとも捻じ曲げられる。
弟子達の偉業の記録も抹消されるのかと思うと少し寂しく感じていた。
「これでこの国は安泰・・・とはいかんじゃろうな」
「ええ、おそらくは」
この国は基本戦争を好んで行いはしない。ただ魔法国家にちょくちょく吹っ掛けられて来た。
その歴史から周囲の国は攻めてきていない様に見えるが、実際は話が違う。
単純に同レベルの国が争う事で疲弊を狙い、自分達が安全である様に考えているだけだ。
だが今回の件でパワーバランスが崩れた。魔法国家が消滅した。
そして今まで栄華を誇った国を容易く打倒した『化け物』が現れてしまった。
この状況で周囲の国が何もなく傍観しているとは考え難い。
「何事も無いと良いんじゃがなぁ・・・」
「ええ、本当に・・・」
こんな事になるのであれば、魔法国家が弱るだけの方が良かった。
賢者もメリネも若干そんな風に考えながら、お互い近い未来の面倒に溜め息を吐いた。
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