第38話、味方(微妙)
精霊術師二人に太鼓判を貰い、対策はバッチリという所でふと思い出す。
良く考えたらリザーロにも話しておいた方が良いのではないかと。
現状一番最初の協力者と言える相手だ。このまま黙っているのは良くないだろう。
「のうローラルよ、リザーロが今どこにいるかは解るかの?」
「リザーロかい? 彼は常に動き回っているから、確実に会えるのは父に報告する時かな。父の夕食の時間に報告に向かうはずだから・・・ぷふっ、なんだいその顔」
国王という言葉が出た瞬間賢者の顔がクシャっと潰れ、青年は思わず吹き出してしまった。
「あー・・・国王陛下に失礼とは思うが、儂あの爺さん苦手なんじゃよなぁ」
「そうなのかい?」
「そもそも儂は別に精霊術師筆頭なんてやりとうなかったが、陛下のせいでやらざるを得ない状況になったから引き受けただけじゃしな。いつか仕返ししてやると誓っておる」
「・・・それ外で言わないでね。大変な事になるから」
「流石にそのぐらいは弁えとるよ。特にリザーロには聞かせられんしの」
もしリザーロの前でそんな発言をしてしまえば、彼との戦いになりかねない。
彼の国王至上主義な態度を既にみている以上、どの程度大丈夫なのかを探る気も無い。
ただそれでもどこか緩さを感じたのか、女性が賢者の肩をガッと掴んだ。
「ナーラ様、本当に気を付けて下さいね。あの男は国王陛下の名の下に、というお題目があれば何でもする男ですからね。普段の擬態に誤魔化されてはいけません。アレは狂人です」
「お、おう・・・」
真に迫る女性の忠告に、賢者は思わず気圧されながら頷き返す。
「メリネ嬢、流石にそれは言い過ぎでは・・・流石に今の彼はそこまで酷くないよ」
「確かに今のリザーロ・ロクソンなら昔よりは落ち着いていますが、彼が貴族家を物理的に潰した事も、陛下の陰口を口した者達を肉片に変えた事も変わりありませんわ」
「・・・マジかぁ」
彼も他の精霊術師と同じく普通ではないと思っていたが、見方によっては一番性質が悪い。
何せ彼の行動には信念が通っている。そしてその信念は呪いと余りに相性が良い。
国王陛下、並びに王族と国の為に、その為に彼は力を使うのだから。
(陛下が困った様に言っていた理由を改めて理解したわい)
流石にそこまでの事をしていたとは思っておらず、頭を抱えて溜息を吐いてしまう賢者。
出来る限り友好的に行きたいと思っていたが、その相手にもある程度楔が必要とは。
これは早めに封印術の事を説明して、リザーロもその対象だと告げるべきかもしれん。
行動を起こす前に儂に一報入れさせるようにして、従わなければ力を封じると。
そこまで考えた所で、賢者はまた大きくため息を吐く。
(本当はあんまりやりたくないんじゃが、話し合いで解決できない以上は仕方ないと思うしかないのかの。リザーロとは上手くやれると思っとったんじゃが、難しいもんじゃな)
敵対した相手ならばともかく、彼には迷惑をかけられた覚えがない。
そんな相手に脅す様な事を告げる必要がある事実に、賢者は今から気が重くなっている。
事が起こってからでは遅いと理解している以上、後回しには出来ない事が余計にか。
「元々全員集まったら注意するつもりではあったが、問題児は二人だけじゃと思っておったのにのう・・・総数が少ないとはいえ、半数が問題児ってなんじゃい」
「術師の中でまともなのは私だけですね、ナーラ様」
「初対面で儂を持って帰ろうとしたの忘れとらんぞ。まさか他の所ではやっとらんじゃろうな」
「・・・しておりませんわ」
少しためてスイっと目を逸らす女性。賢者は嘘じゃろと目を見開く。
「おいメリネ、こっちを向け。お主まさか・・・」
「ど、同意の上でしか連れて帰った事はありませんわ! それに可愛がった後はちゃんと帰しておりますし、働き口が欲しいという者は働き口も世話してあげておりますの!」
連れて帰った事はあるのではないか。そう呆れはしたが口に出さず侍女に目を向ける。
賢者の侍女ではなく女性の侍女へだ。すると彼女はコクリと頷いて返した。
つまりメリネの言い訳は一応本当の事なのだろう。二人が嘘をついていなければだが。
「・・・まあ、信じておくとしよう」
「ありがとうございます! ナーラ様の信用を裏切る事は致しませんわ!」
賢者の返答に笑顔で宣言し、その勢いのまま賢者に抱き着く女性。
ただ貴族が連れ帰ると言って、断る事が出来る物だろうか。
少々怪しいとは思いつつも、今日の所は信じる事にしておく。
(まあ、儂も偉そうに言えるような人間ではないのじゃしな・・・)
精霊術師に罰則を与えようとしているのは、ひとえに自分の保身の為でしかない。
筆頭の責任を少しでも軽くするために、面倒事を少しでも避けるために。
何よりも家族を守る為にしている事であり、そう考えれば賢者とて自分勝手な行動と言える。
(いや、それでも奴らと比べられるのは嫌じゃな)
賢者は我に返る。人を平気で殺したり、相手の迷惑を考えない行為と比べるのはおかしいと。
そう考えればメリネはただ可愛いものを愛でているだけで、まだ可愛い行動と思えた。
「お主はそのままでおってくれよ、頼むから」
「はふぅ・・・はいぃ・・・!」
頭を撫でながらの言葉に応える女性は、完全に溶け切ってしまっている。
(おかしいわ。可愛い子に目が無いのは何時もの事だけど、なぜかナーラ様には甘えたくなってしまう。ああ、いったいこれは何なの。これが母性!? 母性なの!?)
彼女はいったいどこに向かっているのか、それはきっと本人にも解らない。
因みに先程から構って貰えない青年は、笑顔のまま不満な気配を出していた。
「ナーラ、私には何か無いのかな?」
「む? ローラルは特に問題無かろう。それとも何か申告があるのかの」
「君が構ってくれないと、何かしてしまうかもしれないね」
「・・・いい歳をして何を言っとるんじゃお主は。そもそもお主、儂の耳を触ってれば一生言う事を聞くとか言っとったじゃろう。アレは嘘じゃったのか?」
「いや、勿論心からの本音だけども」
「ならば勝手に触っておればよいじゃろうよ。儂はこの場におるんじゃし」
「―――――成程」
あれ、儂今何かまずいこと言ったかの。そんな風に考えるほど青年の目が鋭くなった。
だが賢者は今女性に抱き着かれて身動きが取れず、後ずさる事すら出来ない状況だ。
「では好きなだけ触らせて貰おうかな」
「お、おう・・・」
「ナーラ様ぁ、もっとぉ・・・」
「・・・よしよし」
青年が賢者の耳を揉み、賢者が女性の頭を撫で、女性は蕩け顔で抱き着く形に。
それぞれの侍従達は一体何を見せられているのかと、お互いに困った顔で見合わせていた。
中心に居る賢者も「なんじゃこの状況」と流石に困惑顔であったが。
因みにその後は無事にリザーロと会う事が出来、封印術の事も伝える事も出来た。
若干の忠告を挟んではおいたが、どこまで通じるかは彼次第という所だろう。
(出来れば敵対はしたくないが奴の信念を考えると・・・ありえなくはないんじゃよな)
賢者は今生を好きに生きると決め、そんな自分を国王が危険視している自覚はある。
つまり最悪の場合はすべてを敵に回しかねない。それは先程仲良く話していた二人ともだ。
その事実を改めて認識した賢者は、流石に能天気な様子では居られずにため息を吐いていた。
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