第4章 特別な歌
ここで何日過ごしたかを数えるのもやめたある日の夕方のこと、いつもの屋上で彼女が
「焚火をしたい」
というので準備をしていた。焚火のちゃんとした方法は分からなかったけど乾いた木を集めて火をつけることにした。そんな準備の最中に
「わたしの1番好きな曲聞かせてあげよっか?これを聞かせるのは特別な時だけなんだよ。」
といったので僕は言った。
「うん、聞きたい。」
僕は、今日が特別な日なのかは疑問に思ったがそれ以上に彼女にとって特別な曲を聞いてみたかった。焚火の火を起こした後、椅子に腰かけると、そんな僕の様子を見て、深呼吸をしてから歌い始めた。その歌は耳を通して一つのノイズも許さず直接心まで届くそんな歌だった。ここは特別な場所で、この時間は特別な時間なんだよ。そう語りかけられてるような気がした。でも、今日の歌はいつもと違って悲しいという感情も含まれていた。そこに、彼女にとっての特別の理由がある気がしたけど、その正体は掴めなかった。一つ確かなのは、この時間が大切だと思えば思うほど、この時間は有限なんだと突きつけられるような感覚だけだった。そんな僕に歌い終えた彼女は言った。
「不器用すぎる私たちにぴったりの曲でしょ。私が生まれるずっと前にSUPERBEAVERっていう人たちが作った曲なんだけど、your songっていうの。大好きな曲。」
その時の彼女の表情は正確には捉えられなかったけど、涙を流していることだけは確かだった。
そのあと、珍しくお酒をのむことになった。
「今日は朝までのむよ!こういうの憧れてたんだ。」
「もちろん。」
僕は答えた。彼女は少しお酒をのむとすぐに顔が赤くなっていた。そんな2人がアルコールに染まりきった頃、彼女は突然言う。
「私ね、君に伝えないといけないことがあるの。」
すると彼女は少し間を空ける。しばらくしてから、覚悟を決めたように
「私は、この町の正体知ってるの。もちろん、何で私たち2人しかいないかも。」
僕は、もちろん驚いたが彼女が何か知っていることには違和感を覚えなかった。すると、彼女は続ける。
「明日ね、この町の近くに隕石が落ちるの。もう、地球に残った人類は助からないんだって。それでね、現在の人類君にとっては未来の人類はこのことを事前に知らせるためにこの町に過去の人物で隕石落下の危機を回避する役割を果たす可能性が高い君を呼び寄せたの。」
そこから、彼女は淡々と現状の説明を続けて僕の質問にも答えてくれた。要約すると、地球は隕石の落下により消滅を回避できなさそうだと言うことだった。
それは隕石が太陽を背にしていたから予測が遅れたのと地球外に今の全人口を収容できる場所を確保できなかったのが原因らしかった。そこで、提案されたのが過去の人物に地球に隕石が落ちることを目撃させることだった。世界中に僕と同じような人が数人いるらしかった。過去のものを未来に送る技術はかなり確立されていたが、その逆つまり未来のものを過去に送るのは、通常の時間の流れに逆らうことから膨大なエネルギーを必要とするため困難とされていた。そこで注目されたエネルギーが隕石落下の際のものだった。前述の通り未来のものを過去に送るにはあまりに膨大なエネルギーがいるためこれ以外の方法は見つからなかったそうだった。この町にだれもいなかったのは、現代の映画でもよく聞く”バタフライエフェクト”を懸念してのことらしかった。過去のものを未来に送るのは既にある情報が実物化されるだけなのでそれほど大きい影響は確認されていないらしいが、未来の情報が過去に与える影響は算出できていないらしい。だから、過去の人たちである僕らには現在の進んだ技術の情報も渡せないし、人との接触も失くそうと考えられたそうだった。
そこで、残る一つの疑問を彼女にぶつけてみる。
「じゃあ、君は何でここにいるの?」
「本当はダメなんだけどね、自分達が勝手に呼び寄せといて隕石落下の瞬間だけ見せて過去に返すなんて無責任過ぎると思っちゃてね。だって、そんなの残酷すぎるよ。だから情報を最小限にするために、本も歌も君の生きている時代のものだったし、私の名前も教えてなかったでしょ。」
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